いつかは起きてしまうもの!?司法書士の太田垣さんに高齢者・外国人のトラブル回避のためにできることを伺いました

20年以上にわたって賃貸トラブルの最前線で奮闘してきた司法書士の太田垣さん。高齢者と外国人にまつわるトラブルの裏に何があり、未然に防ぐには何が必要なのでしょうか。つけ焼き刃では通用しない本質に迫る提言をいただきました。

司法書士 賃貸不動産経営管理士
太田垣 章子さん
株式会社ライトハウス所属。司法書士として延べ3,000 件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託。賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。現在は頼るべき親族がいない、頼りたくないという高齢者のサポートにも注力している。
大家さんは入居者を知るべし。問題が起きるまで放置しない

私が20数年前にこの仕事を始めたころは、高齢者のトラブルは数年に1件ぐらいでした。最近は年間に約200件のトラブルに対応していますが、そのうち4割が高齢者。さらに、その4割が滞納の問題です。なぜ、20年で数十倍に増えてしまったのでしょうか。大家さん自身が、入居者の状況を知らないことが一番の問題だと考えています。
契約書を見ればわかるのに、現在の年齢すら把握していない人は多いです。家賃保証会社に審査を任せ、入居後は管理会社に任せて、事件が勃発するまで放置してしまう。そして、トラブルが起きてしまってから、あわてて相談に来る。でも、人は確実に歳をとって行くので、どういうトラブルが起こり得るかは想定できるはずです。
例えば、現役時代に契約して長く入居している場合、人によっては年金生活になって家賃の支払いが苦しくなっていると想像できます。家賃滞納に至る前に、家賃帯が見合ったところに引っ越せるように促すことも可能です。
また、認知症になってから、管理会社や大家さんだけで対応しようと思っても難しいでしょう。普段からコミュニケーションを取れていれば、年齢や健康状態に応じて、早めに地域包括支援センターにつなぐように動けます。

亡くなってしまったときに一番困るのは、誰が解約と荷物の処分をするかです。連絡できる家族がいなければ、事前に死後事務委任契約を結ぶことができます。国交省のモデル条項(左上図参照)を相手の事情に合わせて少しアレンジしてもいいかもしれません。
残置物の処理を大家さんや管理会社が勝手にできないのは、他人のモノだから。極端にいえば、生前に大家さんが買い取って「死ぬまで使っていいですよ」という契約を結んでおけば、亡くなったら自分のモノになるので全部処分できます。
生前に、亡くなった後の荷物の処分代として、いくらか預かっておくという書面を取り交わしている大家さんもいました。理屈をわかっていれば、いくらでも解決する方法はあるのです。
単身高齢者の解約と残置物の処理に関するリスク回避に有効!「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは
モデル条項は「①解除関係事務の委任契約」「②残置物関係事務の委託契約」「③賃貸借契約におけるモデル契約条項」の3つで構成され、国土交通省から公開されています。60歳以上の単身高齢者のケースを想定しています。

●入居者が死亡した場合に、入居者の代理人として賃貸借契約を解除
●入居者の賃貸借契約終了後、「廃棄しない残置物(※2)」以外を廃棄。換価できるものはするように努める(代金は推定相続人に返還または処理費用に充当)
受任者は以下が想定されます。
●賃借人の推定相続人のいずれか
●居住支援法人や管理会社等の第三者
なお、オーナー(賃貸人)は入居者と利益相反の関係にあるので、避けることが望ましいです。
賃借人(委任者)と第三者(受任者)の間で①②の死後事務委任契約を締結し、賃借人と賃貸人との賃貸借契約書に③委任契約に関する条項を盛り込んでおくことで、入居者に万が一のことが起きても滞ることなく解約や残置物の処理をすすめることができます。
※1 委任契約が解除された場合の措置や、賃借人死亡時の通知義務等の特約条項など
※2 入居者はあらかじめ、「廃棄しない残置物」として相続人等に渡す家財等を指定しておくことができる。その際、送付先も明らかにしておく必要がある
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外国人のお国柄を尊重し、”人”を見て仕事を任せる

外国人にかかわる相談で多いのは、臭いや音などの生活トラブルです。ただ、食文化や宗教にかかわる部分は止められません。
トラブルを防ぐとしたら、同郷の人が集まることも多いので、同じ国の人専用にする方法もあります。日本語が堪能で性格の良さそうな人がいたら、寮長のような立場にして、共益費を無料にする代わりにトラブルを解決してもらう役目を任せてもいいでしょう。
法人契約なら緊急連絡先やトラブル対応の心配はありません。最初に、雇い主側の法人と入居する外国人と一緒に面接をして、入居する人物もオーナーが審査して、何かあったときは法人に責任をもって対応してもらうようにすると良いでしょう。
ただ、注意したいのは、入居者がAさんから別のBさんに入れ替わった場合です。火災保険などの補償はAさんを対象にしているので、Bさんに変わると補償されないおそれがあります。入居は最初のAさん限定で、別の人に変わるときはいったん解約して再度契約を結ぶなどの取り決めをしておくことが大切です。
福祉や介護の知識も不可欠。プロ集団とチームで対処を

高齢者の受け入れは、手間やコストがかさむばかりではありません。
長期入居になる場合が圧倒的に多いというメリットがあります。若年層の平均入居期間は3~4年ですから、高齢者が20年住むとすると、5回くらい入れ替わりがあることになります。
仮に、原状回復リフォームや入居者募集コスト、空室ロスを入れて1回20万円かかるとすると、5回分で100万円はトクしている計算になります。高齢者を受け入れるために、数十万円のコストがかかったとしても、賃貸経営としてはプラスになると考えてはどうでしょう。
また、機械装置の見守りサービスを付けるのもいいですが、入居している高齢者に、共用部の掃除や草取りをしてもらうなど、お仕事をお願いするのも1つのリスク回避につながります。さりげなく他の入居者を気に掛けてもらえるし、その人も元気になるし、物件もピカピカになります。
いずれにしても、高齢者のトラブルを防ぐには、大家さんも管理会社も、福祉や介護の知識を身に着けておくことが大切。入居者の対応だけでなく、大家さんご自身も高齢になりますし、家族のためにも役立ちます。

法的な知識も欠かせません。とはいえ、大家さんが専門家と同じレベルになるのは難しいので、これからの賃貸経営は、どれだけ頼れるブレーンを持っているかが重要になります。
司法書士や弁護士などの法務系、医療・福祉系のプロ集団とチームを組んで取り組んでいれば安泰でしょう。
みんなが穏やかに生きていくために、そういう経営感覚がこれからは必要だと思います。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2025年3月1日時点の情報です。
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