騒音クレームに工事ミス!?大規模修繕トラブルQ&A

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久保原弁護士による今回の法律相談は、大規模修繕を行った際に起こりうるトラブルです。大がかりで工期も長い修繕工事の途中、どんな問題が起こるか分かりません。突発的事態に際してあわてないよう、事前に知識を得ておきましょう。

文/九帆堂法律事務所弁護士 久保原 和也

2007年、京都大学大学院法学研究科修了。同年、司法試験合格。2008年、九帆堂法律事務所設立。最高裁で勝訴した更新料裁判の大家さん側弁護団の首都圏担当。更新料裁判では、首都圏で唯一の弁護団所属弁護士としてさまざまな情報を発信。


 


Q1:外壁塗装の修繕工事契約を結びましたが、他社と比べて高額だと分かり解除したいのですが。

A1:解除は可能ですが、違約金や損害賠償を請求される可能性があります。

民法は、「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と定めています(641条)。注文者が望まないのに工事を続けることは無意味ですし、適正な損害賠償が認められれば請負人の不利益もないという考慮に基づいています。

そこで、理由の如何を問わず任意に契約を解除することができます。もっとも、工事業者がすでに支出した費用や、期待していた純利益相当額などを損害賠償請求される可能性があります。

また、違約金としてその額が契約で予め定められていることもあります。なお契約締結前でも、工事業者に契約締結の期待をもたせ、工事図面を作成させたりした場合、契約締結上の過失として損害賠償請求される可能性もあります。

Q2:耐震工事のために、貸室にわずかの時間立ち入りたいのですが、入居者が協力してくれません。

A2:入居者(賃借人)には、修繕の受忍義務があり、修繕行為を拒むことができません。

民法は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」とする一方で、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」と定めています(606条)。

修繕は、入居者の使用収益する権利を維持するために、極めて重要な事項なのです。耐震工事や漏水個所の補修工事などは賃貸物の保存に必要な行為といえる場合が多く、その場合、入居者は工事に協力しなければなりません。

もし一時的な明渡しの必要があればこれにも応じなければならないことになります。本件では僅かの時間の立ち入りですので、受忍限度の範囲内だと思います。なお、入居者が修繕の受忍義務に反して協力をしない場合には、契約の解除事由ともなり得ます。

Q3:大規模修繕工事を始めたところ、近隣から騒音クレームがあり、工事が進められず困っています。

A3:受忍限度の範囲か否かが法的問題となりますが、話し合いによる解決の糸口を検討します

大規模修繕工事においては、建設工事と同様、近隣から騒音や振動などのクレームを受けることがあります。この場合、法的には騒音や振動が受忍限度の範囲内なのか、それを超えたものなのかが問題となります。

工事をする以上ある程度の騒音や振動はお互い様として我慢すべきであり、社会通念上、我慢すべき限度を超えているという場合に、はじめて損害賠償等の責任が生じると考えられているのです。

我慢すべきか否かは、騒音や振動の大きさや態様、環境、被害の程度などを総合的に考慮して判断されます。もっとも、近隣と紛争になるのは避けるべきですから、十分な話し合いによって、工事日時の制限や、工事内容の情報提供など、歩み寄りの糸口を見つけることが重要になります。

Q4:貸室の原状回復工事を行った際、工事会社のミスで階下に漏水が生じ、損害賠償を請求されています。

A4:工事会社のミスが原因であれば、法的には大家に賠償義務はないと考えられます。

工事会社のミスで階下の貸室に漏水が生じたという場合、階下の入居者は部屋を使用できなくなるなどの損害を負います。入居者からすれば、「大家さんが注文した工事で部屋が使えなくなったのだから、大家さんが責任をとれ」と言いたくなるかもしれません。

しかし、大家さんは工事の注文主というだけであり、工事会社がミスをしないように注意を払うというようなことまでの責任があるとはいえません。入居者が、本件事故により本件貸室の使用を妨げられたとしても、漏水事故が賃貸借契約違反(債務の不履行)であるということにはできないと思います。

他方で、工事会社は、もちろん入居者に対し、自らのミスで生じた漏水による損害を賠償する責任があります。

Q5:防水工事後も漏水が止まらず調査をしたところ、契約とは異なる材料、方法で工事されていました。

A5:請負契約における瑕疵担保責任を問うことになります。

工事の結果、建物が客観的にみて通常有すべき最低限度の性能を備えていない状態となった場合には、工事請負契約で定められた内容を満たさず、使用価値もしくは交換価値を減少させる欠点があるものとして瑕疵があるということになります。

また、契約内容と異なる材料等で工事が行われた場合は、その不一致がごく軽微であり目的物の価値、機能や美観などに影響を与えず、注文者の意思に反することもないといった特別の事情のない限り、契約で定められた重要な内容を満たさず、当事者間で予め定められた性質を欠くものとして瑕疵があるというべきことになります。

注文者である大家さんは工事会社に対し、瑕疵担保責任として、工事のやり直しや損害賠償を請求できることになります。

Q6:防水工事を行っている最中に、工事業者が破産してしまいました。工事はどうなるのでしょうか。

A6:破産管財人が、工事を継続するか、解除するかを選択することになります。

破産開始決定がなされると、裁判所によって破産管財人が選任され、破産管財人が破産者の財産を換価し、債権者の債権調査を行い、債権者に公平に配当して清算となります。請負契約の場合、工事を継続した方が債権者のためになるのか、中止をした方が赤字が少なくなるのかなど、工事の内容や進捗により異なります。

そこで破産法は、破産管財人が請負契約を解除するか、工事を完成させて代金を請求するかを選択するものと定めています。工事の継続が選択された場合は契約通りの処理となり、工事の解除が選択された場合は破産債権者として損害賠償を請求することになります。

なお、請負会社破産の場合に適用される保険関係について等、契約締結時に確認しておくことをお勧めします。

※この記事内のデータ、数値などに関しては2018年9月5日時点の情報です。

イラスト/黒崎 玄