2000人超の大家を救った司法書士が語るトラブルガイド

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『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』著者:章(あや)司法書士事務所代表。(株)R65+取締役 太田垣 章子(おおたがき あやこ)さん

日本実業出版社 (2017/12/14)

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

アパート・マンション経営は、同時多発的に発生するトラブルとの戦い。現場を知り尽くした著者だからこそ書ける31の事例を紹介しながら、賃貸トラブルの予防策と解決法を解説するケースメソッド。


住むという生活の現場には必ずドラマがある

章(あや)司法書士事務所代表。(株)R65+取締役 太田垣 章子さん

2001年に司法書士試験に合格し、大阪市の司法書士事務所に就職。2002年司法書士法改正により、司法書士が簡易裁判所での訴訟代理権を取得すると同時に賃貸トラブルの対応開始。2006年に大阪で独立家業し、2012年に東京進出、現在に至る。


法律の手引き書? はたまた冒険物語?

太田垣さんは、家賃滞納による明け渡し問題を中心に、オーナー側の代理人として延べ2,000件以上の訴訟手続きを受任し、解決に導いてきた司法書士だ。

弁護士なら半年以上かかるといわれるが、明け渡し判決を取るより任意退去を促すことで「平均2カ月」のスピード解決を実現。回収率の高さにも定評がある。セミナー・講演会に引っ張りだこの忙しい最中に、「吐きそうになりながら1カ月で書き上げた」という本書を2017年12月に上梓した。

本書は、マンガのイントロから始まり、実際に取扱った豊富な事例を基に、原因を探り、予防法と解決策が示すという構成だ。訴訟手続きの勘所や交渉のツボなど、オーナーの知りたい内容が網羅されている。

文章もわかりやすいタッチで実用書として即役に立つ。こう書くと、ありきたりの法的手続きの解説書と思うかもしれないが、さにあらず。

事例の1番目から、業界でも有名な滞納常習者が登場し、丁々発止のバトルが始まる。他にも、アパートが犯罪者のアジトになったり、貧困ビジネスの食い者にされたり、次から次へと驚くようなシチュエーションが飛び出してくる。

集合ポストの様子や投函物から入居者の属性を探り、住民票をたどっていくスリリングな展開。恫喝・泣き落とし・雲隠れにも屈せず、数々の難局を潜り抜け、海千山千の当事者に対峙して闘ったからこそ得られた実践的ノウハウにあふれている。

リアルな体験に基づいた筋書きのないドラマは、下手な小説を読むより面白い。

どんな悪質賃貸人もひれ伏すゴッド姉ちゃん

太田垣さんが大阪で司法書士になりたての頃、「泣きながら帰ったことは何度もありますよ」と、一見スマートな士業の舞台裏を思い返す。

「オーナーの代理人として、滞納している“悪徳賃借人”に立ち退き交渉に行くという上から目線もあったかもしれませんが、ドアを開けた途端『アホ、ボケ、カス! 出てけー』って言われて『えっ? なぜ、私がそんなこと言われるの?』みたいな現場は当たり前。

何度も失敗を重ねながら、執行官のサポートする執行会社の社長さんを始め、いろんな方に助けられたからこそ、今の私があると思います。足向けて寝られない方角がいっぱい過ぎて、立って寝なきゃいけないぐらいです(笑)」

場数を踏むことで、太田垣さんは「絶対に力で押さない」「お金の請求は後」という鉄則を身に付けた。司法書士会の“ゴッド姉ちゃん?”と思わせるとっておきのエピソードもある。

「大阪のミナミに住んでいる賃借人の方が、滞納分を毎月3万円ずつ事務所に返しに来てたんです。『もう振り込みにして』っていうと『先生に会うたら、元気になんねん』、『その腕時計を売ったら、一発で返せるんちゃう?』『先生、堪忍してくんなはれ』みたいなやりとりをしてたら、パッタリ持ってこなくなって、どうしたのか調べたら捕まってたんです。でも、刑務所から『出たら必ず払いますから、待っててください』って手紙が来て、約束通り全部払ってくれた、律儀でしょう」


弁護士が時間をかけて明け渡し判決を取っても、「ない袖は振れない」と、回収できないことも多い。オーナーにとっては法的に勝つか負けるかより、いかに損失を最小限に抑えられるかが課題だ。太田垣さんの落としどころは、オーナーの利害にピタリと一致する。

空室対策、トラブル防止の駆け込み寺

滞納問題と空室対策をセットで解決してしまうのも、太田垣さんの真骨頂だ。例えば、管理がずさんなため、薬物取引に使われてしまった空室率50%のアパートで、太田垣さんは「物件のエントランスに花を植えること」をひらめく。

しかも1階に住む一人暮らしのおばあさんに手入れを頼んだ。数カ月でエントランスに花があふれ、満室になり、犯罪者も寄りつかなくなった(本書ケース5)。どこから、そんな奇抜なアイデアが出て来るのだろうか?

「トラブル事例にたくさん接していると“ダメ物件”の共通点がわかってきます。築古でも満室経営をしているカリスマ大家さんの物件も良く見に行くので、こうしたら改善できるという仮説が思い浮かぶのかもしれませんね」

オーナーからのよろず相談が引きも切らない理由は、ここにある。

追い出した賃借人から感謝される秘密

太田垣さんは、情にほだされることなく、甘えた賃借人を毅然とたしなめつつ、一方で、彼らを負のスパイラルから引き上げ、人生のリスタートに向けたキッカケも与える。オーナー側の立場から突き放すことなく、賃借人に寄り沿うことで、もつれた糸をほぐしていく。

本書の執筆中は「当時の重苦しい空気や追い詰められた家族の表情がフラッシュバックして、ずっとブルーでした」と振り返るが、立ち退きを余儀なくされた賃借人から、かえって感謝されることも珍しくない。

元の夫が多額の滞納をした挙句に薬物使用で逮捕され、3人の子どもを育てるシングルマザーは、今でも毎年母の日になると太田垣さんのもとへ花を届けてくれるという(本書ケース20)。

「天涯孤独」と自称していた長期滞納のおばあさんは、太田垣さんの必死の探索により、30年も音信不通だった兄弟5人と再会。滞納分も解消し、その部屋で天寿を全うした(本書ケース25)。

「強制執行に入ったとき、電気ガス水道を止められた部屋で、乾いたカップ麺を齧っていた戸籍のない子どもにお弁当を買ってきたこと、高齢の滞納者のために一緒に次の部屋を探したこと」もあるそうだ。貧しさ故の滞納者への優しい眼差しは、太田垣さんの人生に隠されている

「私自身、30歳でシングルマザーになってから、司法書士の資格を取るまでの6年間は、月3万円の極貧生活でした。もし、その時に病気になって収入が途絶えたら、私があちら側になっていたでしょう。“明日は我が身”という切実感があるから、何とかしてあげなきゃと思ってしまうんです」


貧困の連鎖が、アパートの滞納問題にも影を落としている。そんな日本の現状から目を背けず、立ち向かう太田垣さん。本書を通じて、彼女の人生ストーリーを追体験してみることで、いろいろな問題が見えて来る。

※この記事は2018年8月に取材をしたものです。

取材・文/木村 元紀 撮影/工藤 朋子

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