2000人超の大家を救った司法書士 太田垣章子のトラブルガイド

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公開日:2018年9月5日
更新日:2019年11月18日

空室対策、トラブル防止の駆け込み寺

滞納問題と空室対策をセットで解決してしまうのも、太田垣さんの真骨頂だ。例えば、管理がずさんなため、薬物取引に使われてしまった空室率50%のアパートで、太田垣さんは「物件のエントランスに花を植えること」をひらめく。

しかも1階に住む一人暮らしのおばあさんに手入れを頼んだ。数カ月でエントランスに花があふれ、満室になり、犯罪者も寄りつかなくなった(本書ケース5)。どこから、そんな奇抜なアイデアが出て来るのだろうか?

トラブル事例にたくさん接していると“ダメ物件”の共通点がわかってきます。築古でも満室経営をしているカリスマ大家さんの物件も良く見に行くので、こうしたら改善できるという仮説が思い浮かぶのかもしれませんね」

オーナーからのよろず相談が引きも切らない理由は、ここにある。

追い出した賃借人から感謝される秘密

太田垣さんは、情にほだされることなく、甘えた賃借人を毅然とたしなめつつ、一方で、彼らを負のスパイラルから引き上げ、人生のリスタートに向けたキッカケも与える。オーナー側の立場から突き放すことなく、賃借人に寄り沿うことで、もつれた糸をほぐしていく。

本書の執筆中は「当時の重苦しい空気や追い詰められた家族の表情がフラッシュバックして、ずっとブルーでした」と振り返るが、立ち退きを余儀なくされた賃借人から、かえって感謝されることも珍しくない。

元の夫が多額の滞納をした挙句に薬物使用で逮捕され、3人の子どもを育てるシングルマザーは、今でも毎年母の日になると太田垣さんのもとへ花を届けてくれるという(本書ケース20)。

「天涯孤独」と自称していた長期滞納のおばあさんは、太田垣さんの必死の探索により、30年も音信不通だった兄弟5人と再会。滞納分も解消し、その部屋で天寿を全うした(本書ケース25)。

「強制執行に入ったとき、電気ガス水道を止められた部屋で、乾いたカップ麺を齧っていた戸籍のない子どもにお弁当を買ってきたこと、高齢の滞納者のために一緒に次の部屋を探したこと」もあるそうだ。貧しさ故の滞納者への優しい眼差しは、太田垣さんの人生に隠されている

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「私自身、30歳でシングルマザーになってから、司法書士の資格を取るまでの6年間は、月3万円の極貧生活でした。もし、その時に病気になって収入が途絶えたら、私があちら側になっていたでしょう。“明日は我が身”という切実感があるから、何とかしてあげなきゃと思ってしまうんです」

貧困の連鎖が、アパートの滞納問題にも影を落としている。そんな日本の現状から目を背けず、立ち向かう太田垣さん。本書を通じて、彼女の人生ストーリーを追体験してみることで、いろいろな問題が見えて来る。

※この記事は2018年8月に取材をしたものです。

取材・文/木村 元紀 撮影/工藤 朋子

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