賃貸アパート・マンション経営をするなら知っておきたい!契約や取引に関する法律[建築の基礎知識#11]
賃貸アパート・マンション経営は、住宅を貸して収益を得る事業です。貸し主と借り手との関係を規制する法律について、基本的な内容を押さえておく必要があります。その他、契約や取引に関わる法律について解説しましょう。
借り手を保護する借地借家法
土地や建物の貸し借りにかかわる、もっとも基本的な法律が借地借家法です。モノの権利関係や契約についての取り決めには民法がありますが、不動産の賃貸借については借地借家法の規定が優先します。
まず、アパート・マンション経営にあたって入居者との間に結ぶ部屋の賃貸借契約には、「普通借家契約(賃貸借契約)」と「定期借家契約(定期建物賃貸借)」の2つの種類が規定されています。
普通借家契約は昔から存在するもので、入居者=借り手を保護する意味合いが強い内容です。ポイントは「法定更新」「正当事由」「造作買取請求権」3つです。
現在の賃貸借契約では、契約期間は2年が一般的です。契約自由の原則からすれば、2年の期限が訪れた時に双方が合意して更新しなければ賃貸借契約は終了し、部屋を明け渡すのが本来の姿でしょう。
しかし、入居者が住み続けたいのに貸し主が更新を拒絶した場合、入居者は住む場所を失ってしまいます。これを防ぐために、貸し主と借り手双方の合意がない場合でも、それまでと同じ条件で契約を更新できることを「法定更新」と言います。
法定更新後は「期間の定めのない契約」となり、次回以降は更新手続きそのものが消滅することになり、契約条項によっては更新料の請求ができなくなるかもしれません。
貸し主側からの更新拒絶ができるのは、「正当事由」がある場合です。正当事由とは、貸し主自身がどうしてもそこに住まなければならない事情がある、建物が老朽化して取り壊さないと危険がある、入居者に一定期間以上の滞納がある、などが挙げられます。
そして、契約期間の1年前から6カ月前までに更新しない旨の通知をしなければなりません。また立退料の支払いも考慮されます。建て替えなどの場合には、非常に重要になるので覚えておきましょう。
最後の「造作買取請求権」は、契約期間中に貸し主の了解を得て、入居者の負担で取り換えたり追加したりした建具・水回り設備・空調設備などの造作類を、時価で買い取るように貸し主に請求できる権利です。
ただし、当初の賃貸借契約書で同権利を排除する特約を付けた場合は、この限りではありません。
一方、前述した法定更新や正当事由は「強行規定」と言われ、これを排除するような借り手に不利になる特約は無効です。
こうした借主保護の規定があるため、アパートのオーナーが経済的理由で建て替えるなどの有効利用が進まない面がありました。
そこで2000年に誕生したのが「定期借家契約」です。更新がなく、期間満了とともに契約は終了します。書面による契約や事前通知など、一定の条件がありますので、詳細については専門家に確認してください。なお、当事者の合意で再契約することは可能です。
定期借家契約が誕生してから20年以上たちますが、実はあまり普及していません。賃貸借契約のうち2~3%に留まっています。借り手に不利になるため募集しにくいことや、普通借家契約より家賃を低めに設定しなければならないケースが多いなどが理由です。
借地でアパート・マンション経営or定借の貸地で運用?
借地でアパート・マンション経営をする場合は、土地の借り手側の権利である借地権が関係してきます。
土地の賃貸借契約にも、法定更新や正当事由制度のある「普通借地契約」と更新のない「定期借地契約」の2種類がある点は、借家契約とほぼ同様です。
「定期借地制度」は、「定期借家制度」より古い1992年に誕生しました。定期借地契約には3つのタイプがあります。建物譲渡特約付き借地権を除くと、契約期限が来たら借り手は建物を解体して更地にして返還しなければなりません。
また事業用定期借地権は、居住用以外の事業に限られるため、ロードサイドビジネスなど、アパート・マンション経営以外の活用になるでしょう。
また、土地オーナーが貸地として運用するケースも考えられます。ただし、普通借地契約の場合、一度貸したら二度と戻らないおそれがあるため、定期借地契約による土地活用が有効でしょう。
賃貸オーナーに関わる改正民法の項目
借地借家法でカバーされていない契約や権利については民法に規定されています。ただ、非常に多岐にわたるため、ここでは2017年に改正され、2020年4月から施行された主な項目について解説します。アパート・マンション経営に関わるポイントは次の3点です。
(1)敷金の定義と原状回復ルールの明確化
敷金は「名目を問わず、金銭債務の担保」とされ、原状回復については「通常損耗・自然損耗は貸し主負担、故意過失による損耗は借り手負担」というルールが明文化されました。
(2)極度額の設定の義務化
個人が連帯保証人になる場合に、保証金額の上限である「極度額」の設定と連帯保証人への情報提供が義務化されました。これを機に、親や親類でも連帯保証人の成り手が減り、家賃債務保証会社を利用するケースが増えるといわれています。
(3)一部滅失による賃料の減額や修繕費の請求規定
従来の民法では、借り手は賃貸住宅の建物や設備の損傷・故障が起きた時に、使用できない部分・日数の割合に応じて「賃料の減額を請求できる」と定められていました。減額するかどうかは、貸し主と借り手との話し合いで決まっていたわけです。
改正民法では、同様の状況で「減額される」(当然減額)という規定になりました。実際には、減額内容について話し合いが必要ですから、実務的には従来と大きくは変わりません。賃料減額の目安は図2の通りです。
ただ、借り手が機能の回復を求めても、貸し主が必要な修繕をしない場合は、借り手が自ら修繕し、あとで費用を請求できるようになっています。
修繕の必要性、範囲、方法などで意見の食い違い、交渉が難航するおそれがありますから、賃貸借契約を結ぶ際に、特約などで事前の取り決めておくことが重要でしょう。
文/木村 元紀
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