「建築物省エネ法」とは?これからの賃貸住宅に求められるもの[建築の基礎知識#9]

これからの賃貸住宅のプランを考えるうえで、避けて通れないのが断熱性能やエネルギー消費について定めた省エネ基準。その根拠となる「建築物省エネ法」が誕生した背景や、気になる内容について解説します。

従来の省エネ法ではカバーできなくなった建築物への規制

省エネ基準はスタートしてから40年以上の歴史があります。最初に登場したのは1980年。「省エネルギー法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)」に基づいて定められたものです。その後、時代とともに改正を重ね、規制が強化されてきました(図1参照)。

図1.建築物の省エネ基準の変遷
省エネ基準の内容ほか
1979年 省エネルギー法制定
1980年 最初の省エネ基準を創設。
旧省エネ基準(昭和55年基準)/※等級2
1992年 新省エネ基準(平成4年基準)/※等級3
断熱性能(Q値・μ値)基準強化
1999年 次世代省エネ基準(平成11年基準)/※等級4
基準強化、機密性能(C値)の適用。住宅性能表示制度創設
2006年 省エネ法改正。大規模建築物(2000㎡以上)の
省エネ措置の届出義務
2009年 届出義務の対象拡大(300~2000㎡)、
住宅事業者トップランナー制度開始
2013年 平成25年基準。新指標(UA値・ηA値)導入、
地域区分の細分化、C値基準を削除
2015年 建築物省エネ法制定。容積率特例創設
2016年 平成28年基準。評価方法等の一部見直し。BEI導入
2021年 建築物省エネ法改正。
省エネ基準への適合義務化の対象拡大、説明義務新設

※等級:住宅性能表示制度「温熱環境」の等級

もともと省エネルギー法は、石油ショックによるエネルギー危機を機に誕生したため、石油・石炭・ガスなどの輸入に依存した化石燃料の消費量を抑えるのが目的でした。

規制の対象は、工場、輸送機関、建築物、機械器具などです。同法に基づいて、住宅を始めとする建築物の省エネ基準が設けられました。初期の頃は建物の構造躯体の断熱性を規制する内容です。しかし、あくまでも努力義務で強制力はなかったため、省エネ基準をクリアした住宅はなかなか普及しませんでした。

省エネの目的は、1990年代までの「化石燃料の削減」から、2000年以降に「地球温暖化防止/CO2削減」にシフトしていきます。1997年のCOP3(第3回国連気候変動枠組条約締約国会議)で合意した京都議定書(日本は2012年までに1990年比6%削減)が、2005年に発効したことがきっかけの一つでしょう。

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従来の省エネ法ではカバーされていなかった再生可能エネルギーについても、利用拡大への圧力が強まり、2012年7月には「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」がスタート。同12月に「都市の低炭素化促進法」が定められ、低炭素建築物に対する容積率緩和や税制優遇の措置も始まりました。

政策的には様々なアクションがありましたが、住宅の省エネ化・低炭素化はなかなか進みません。2013年4月には省エネ法が改正され、同法に基づく最後の省エネ基準(平成25年基準)ができます。

省エネ基準の判定方法を見直し、建物の構造躯体や開口部の断熱性能だけでなく、冷暖房や給湯などの住宅設備機器のエネルギー消費量についても、併せて評価する仕組みに変わったのです。

しかし、エネルギー消費量は、産業・運輸部門では順調に減少した一方で、建築物部門は逆に大幅に増加してしまう実態がありました。

そこで、2015年7月に従来の省エネ法から建築物を切り離して、抜本的に対策を強化するために制定されたのが「建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)」です。

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建築物省エネ法でアメとムチの対策。住宅には“説明義務”

建築物省エネ法に基づいて2016年に新しく制定されたのが、現在の「平成28年省エネ基準」です。断熱性能やエネルギー消費に関する数値目標は、平成25年基準を引き継いでいるため、ほとんど変わりません(評価方法のディテールが見直された)。

建物の骨組みや開口部のうち外気に接する部分を「外皮」といいますが、外皮性能の基準は、図2のように地域ごとに決まっています。東京23区、横浜・川崎市、名古屋市、大阪市など臨海部の大都市は6地域です。

図2.平成28年省エネ基準の外皮性能
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※地域区分:1=北海道・北東部~8=沖縄県

エネルギー消費量の基準については、住宅の主要設備である冷暖房・給湯・照明・換気と、家電などその他の機器で消費するエネルギーをすべて合計した量をベースに評価します。省エネ基準に定められた標準設備仕様と同等以下にならなければなりません。

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省エネ性能をわかりやすく表示するマークの例。★の数とエネルギー消費量削減率の割合で示す“BELS”

建築物省エネ法の誕生で大きく変わった点は、省エネ化を強力に進めるためのアメ(誘導措置)とムチ(規制措置)の対策が盛り込まれたことです。

アメというのは、省エネ化を進めるための設備のスペースは容積率に算入しないという「容積率特例」、省エネ基準に適合したことをわかりやすいマークで表示できる「基準適合認定・表示制度」の2つ。ムチは、省エネ基準への適合義務化を段階的に進めることです。

建築物省エネ法が2015年に制定された後、2016年にアメ対策の容積率特例が先行して適用され、2017年から大規模建築物に対する省エネ基準への適合義務化が始まりました。

適合義務は建築確認手続きと連動するため、合格の判定を受けないと着工できません。当初、中規模建築物は2019年まで、住宅と小規模建築物も2020年までに義務化されるはずでしたが、2019年に延期が決定。理由は、工務店の習熟度が低く「約半数が、省エネ計算できない」ためでした。

適合義務化の延期に対する批判もあり、2021年4月に建築物省エネ法が改正され、中規模建築物の非住宅が適合義務になりました。小規模建築物や住宅については、義務化は見送られたものの、努力義務から「説明義務」に変更されました。

図3.省エネ基準に関する義務
建築物の規模・用途 省エネ法 建築物省エネ法
改正前
(2017.4~)
改正後
(2021.4~)
大規模建築物
2000㎡以上
非住宅 届出義務 適合義務 適合義務
住宅 届出義務 届出義務 届出義務
中規模建築物
300㎡以上
2000㎡未満
非住宅 届出義務 届出義務 適合義務
住宅 届出義務
小規模建築物300㎡未満 努力義務 努力義務 説明義務

 

説明義務というのは、設計担当の建築士から施主に対して、住宅の省エネの必要性や効果についての情報提供、省エネ基準への適否についての評価と書面による説明、施主の意思確認と回答の長期保存など、単なる口頭の内容説明に止まらない細かい手続きが定められています。

施主の省エネ意識を高めて、基準適合に誘導しようという手の込んだしくみです。結果として、アパートを含む小規模な住宅でも、少なくとも省エネ計算はしなければならないことになりました。

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2025年に省エネ基準への適合が義務化。賃貸住宅にも省エネ化の波

建築物省エネ法では、上記の他に、「住宅トップランナー制度」を設けています。新築住宅の供給戸数が多い大手事業者に対して、省エネ基準を上回る高い性能(トップランナー基準)を達成するように誘導するしくみです。

同法の新設時は、建売事業者のみが対象でしたが、同法改正で、注文住宅と賃貸アパート(共同住宅や長屋)の事業者(※)も新たに対象となりました。事業者の条件と、トップランナー基準、目標年度は図4の通りです。
※自社で定めた規格に合わせて設計施工する「請負型規格住宅」の事業者。完全自由設計の場合は対象外

図4.住宅トップランナー制度
建売住宅 注文住宅 賃貸アパート
対象事業者の
年間供給戸数
150戸以上 300戸以上 1000戸以上
一次エネルギー
消費量基準
省エネ基準の
▲15%
省エネ基準の
▲25%(※)
省エネ基準の
▲10%
目標年度 2020年度 2024年度 2024年度

※当面の間の目標として20%でも可

2019年の建築物省エネ法では、住宅の省エネ基準適合義務化は見送られましたが、2020年10月に、当時の菅総理が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル(CO2排出量ゼロ」を宣言したことを受け、規制強化の動きはますます強まっています。

2021年10月22日に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、次のような内容が盛り込まれています。

〇建築物省エネ法を改正し、住宅及び小規模建築物の省エネ基準への適合を2025年度までに義務化する
〇省エネ基準の段階的な水準引き上げを遅くとも2030年度までに実施する
〇新築住宅の販売または賃貸時における省エネ性能表示の義務化を目指す

つまり、アパートや賃貸マンションを含む住宅も、2025年までには省エネ基準が義務化されることが明記されました。

さらに2030年に向けて省エネ化は加速し、近い将来、現行の省エネ基準を20%以上も上回るZEH(ゼロエネルギー住宅)レベルが標準になってくると見られます。また、省エネ性能表示が義務化されれば、部屋探しの際にも、省エネ性能が絞り込み条件に加わるようになるでしょう。

今後、賃貸アパート・マンション建築を検討する際には、省エネ基準やZEHを意識したプランを採り入れる必要があるでしょう。

文/木村 元紀

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