[建築の基礎知識#8]「ZEH」ってなに?大家さんにメリットはある?基礎から解説!
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ZEHが改めて注目されつつあります。「ゼット・イー・エイチって何?」というゼロから知りたい人向けの基礎知識から最新事情まで、さらに大家さんにとってのメリットを紹介しましょう。
ZEHの「ゼロ・エネルギー」ってどういう意味?
ZEHは、「ゼッチ」と読むのが一般化しています。「ZE・H/ゼ・エイチ」からゼッチになったのかもしれません。
さて、ZEHをネット検索すると、経済産業省や国土交通省などの公的なサイトでは「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」とカッコ書きで表記されています。
アルファベットの略語から忠実に英文にすれば「Zero Energy House」のはずですが、「ネット=Net」はどこに行ったのでしょうか。
ZEHの意味を知ると、その謎が解けるでしょう。関係省庁では次のようにZEHを定義しています。
「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギー等を導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」(経済産業省、国土交通省、環境省の3省合同の「ZEHロードマップ検討委員会」で2015年4月に最初に定義。2019年2月に一部文言を修正)
「外皮」というのは、建物の外気に接する躯体部分(屋根・天井、外壁、床)と窓やドアなどの開口部です。昔は「外殻」と言っていました。
設備システムは、住宅に付随する冷暖房、給湯、照明、換気などの主要な設備機器です。「大幅な省エネルギー」は、省エネ基準(平成28年基準)から最低20%以上の削減を意味します。そして再生可能エネルギーは、太陽光発電と言い換えてもいいでしょう。絵で表すと図1のようになります。
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ZEHのポイントは、「年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロ」という部分です。別の表現では「エネルギー収支が“正味で”ゼロ」とも言われます。
これは、敷地内にある家庭用太陽光発電装置によって作り出した電気エネルギーの量(プラス)と、家の中で使った電気やガスのエネルギー量(マイナス)が相殺されて差し引きゼロになるということ。英語で「正味価格」を「net price」というように、この“正味”がネットというわけです。
ZEHを単に「ゼロ・エネルギー・ハウス」と表記してしまうと、「使用するエネルギーがゼロ」「電気を使えない我慢する家」という誤解を与えかねません。
実際には、電気を使って快適な暮らしを実現しながら、再生可能エネルギーのソーラーパワーで自家発電した分でエネルギー消費量をカバーできるということです。
そこで、正式な定義ではカッコ書きで「ネット」を頭に付けて、あくまでも「計算上の正味でゼロですよ」と言いたいのかもしれません。とはいえ、一般には「ゼロ・エネルギー住宅」という呼び方のほうが流通していますが…。
ちなみに、「一次エネルギー」というのは、自然界に存在する状態のエネルギーのこと。石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料、天然ウランなどの鉱物資源、太陽光・風力・水力・地熱などの再生可能エネルギーが含まれます。これらを加工して電気、都市ガス、灯油などに変換したものが二次エネルギーです。
二次エネルギーは単位が「kWh」「m3」「ℓ」などとバラバラで、建物全体の省エネ性能を計算するのが複雑。そこで、平成25年省エネ基準から、「一次エネルギー消費量(MJ[メガ・ジュール]/㎡・年)」に単位が統一されました。
ZEHシリーズのラインナップとは?
ZEHには、一次エネルギー消費量の削減率によって図2のようなランクに分かれます。
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本来のZEHの定義からすれば、「省エネ+創エネ」で一次エネルギー消費量を100%以上削減してゼロにしなければなりません。これが一番上の本来の(真の)ZEHで、二重カギカッコ付きで表記されます。
ただ、多雪地帯のように年間の日射量が少ない場合や、大都市にある狭小地の戸建てのように屋根面積が十分に取れない場合は、太陽光による発電量が限られるため、100%削減は難しいのが実態です。
また、マンションの場合は高層化するほど1住戸当たりの屋上面積は小さくなります。全住戸の消費電力を太陽光発電だけでは賄いきれません。こうした実情に合わせて、削減率が低くても、一定以上の省エネ性能があれば“ZEHファミリー”に含めるようになったわけです。
また、ZEHに関連して以下のようなキーワードもすでに登場し、今後重要になると思われるため、覚えておきましょう。
省エネ基準から一次エネルギー消費量を25%マイナス。外皮性能の向上、HEMS(住宅用エネルギーマネジメントシステム)による制御、太陽光発電の自家消費を拡大するEV(電気自動車)用充電器の設置など。
ZEH+に加えて、災害などによる停電時にも自立可能な蓄電池、燃料電池、V2H(Vehicle to Home: EVから家庭用電源へ)、太陽熱温水装置などを備え、エネルギー面のレジリエンス(回復力・強靭さ)を強化した住宅。売電や買電をせず、発電と自家消費を基本にした「エネルギーの自給自足」を目指すイメージです。
居住している間だけでなく、資材製造・建設段階・解体・再利用まで含めたライフサイクルの各段階を通じてCO2排出量をマイナスにすることを目指す住宅。「省エネ住宅の最終形態」ともいわれます。
ZEHのメリットは優遇政策と競争力アップ
次に、賃貸住宅をZEHにするメリットについて考えてみましょう。政策的な優遇措置と競争力アップの2つの側面があります。
まず、政策面では、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画には、2030年までに省エネ基準をZEHレベルに引き上げる施策が盛り込まれました。
その目標に向けてZEHの普及促進のために、補助金や税制優遇の措置が取られています。これによって、省エネ性能を高めるための建築コストの一部をカバーできるでしょう。
たとえば、経済産業省のZEH支援事業による2021年度の補助金は、1戸当たりで戸建てが60万円、マンションが50万円でした。2022年度も継続される予定です(金額は変更する可能性あり)。
また、2022年度税制改正では、住宅ローン減税の対象にZEHが新設され、一般の住宅より優遇されています。
もう1つの競争力アップの効果も小さくありません。これまでの説明では、ZEHに取り組む動機は、「地球環境問題のためエネルギー消費量を抑えなければならない」「法的な規制があるから仕方ない」といった義務的・後ろ向きなイメージになりそうですが、現実には積極的なメリットもあります。
入居者にとってのメリット
1.居住性アップ…断熱性能が高く、室内の温度差がない快適な居住空間ができる。遮音性が高いという声も少なくない。
2.経済性アップ…省エネ性が高いため光熱費が安い。太陽光発電が各戸への個別受電なら、さらに光熱費を抑えられる。在宅ワークの場合、メリットが大きい。
賃貸オーナーにとってのメリット
1.収益力アップ…高い居住性と入居者の光熱費負担の軽減効果で、高めの家賃設定が可能になる。
2.入居率アップ…周辺物件と差別化でき、競争力を維持できるため、高い入居率が期待できる。逆に、将来的にはZEHマークの付かない物件は入居者募集で苦戦するおそれ。
3.資産価値の維持…10年、20年先にZEHが標準化されると、ZEH水準に満たない賃貸住宅は価格が下がりやすくなったり、売却しにくくなったりするおそれがある。
経済産業省のZEH-Mへの補助事業を使って賃貸住宅を建築した事業者に対するアンケートでは、実際に空室を改善する効果が高いことが実証されています。
夏・冬を問わず、半数以上の事業者が「早期に入居者が決まったため、空室が少なかった」と回答。空室予防効果や、高い家賃設定ができたという回答も少なくありませんでした。
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太陽光発電をタダで導入できるPPA/TPOモデルに注目
ZEHのメリットは理解できても、導入コストは通常の建築費に加えて数百万円アップするだけに、「賃貸住宅に導入して収支があうのか」「費用対効果はどうなのか」という疑問をもつオーナーも多いでしょう。
かつては、設置費用に対する補助金に加えて、太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)による売電収入もカウントできたため、前向きに検討できたかもしれません。
ただ、図4の通り、売電単価は年々下がり、現在は20年間の全量買取タイプ(10kW以上)は12円、10年間の余剰電力買取タイプ(10kW未満)でも17円と、制度スタート時点の3分の1程度に下がってしまいました。
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その反対に、FIT制度を支えるために、電力会社から買う電気代に上乗せされる「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」は上昇の一途をたどっています。
買電単価に再エネ賦課金を加えると、FITの売電単価を上回ってしまうわけです。そうなると、現在は発電した電気を売るよりも、なるべく自家消費を増やして、電力会社からの買電量を減らしたほうが光熱費は安くなります。
政策的にも、自家消費の拡大を促しているのも、こうした理由からでしょう。売電を当てにしたモデルは通用しなくなるかもしれません。
とはいえ、太陽光発電の設置費用は着実に下がっています。また、最近注目されているのが、太陽光発電システムを無料で導入できる「TPO(Third-Party Ownership/第三者保有)モデル」です。
これは、TPO事業者が、建物の屋根を借りて無料で太陽光発電システムを設置して、建物の所有者と「PPA(Power Puchase Agreement/電力購入契約」を結び、既存の電力会社より安い価格※で電気を販売するしくみ。PPAモデルとも言われます。ZEH普及の起爆剤になる可能性もあります。
※この場合、再エネ賦課金はかかりません。
こうした新しいビジネスモデルが広がれば、より低いコストでZEHを導入できるようになります。何よりも、前述した賃貸経営の競争力アップにつながるという点では、ZEHを積極的に検討するべき時代といえるでしょう。