賃貸アパートやマンションのプランや見積もり書のチェックポイント[段取り#2]
賃貸アパート・マンション建築を進めるステップのうち、プランづくりと見積もりの流れとチェックポイント、設計施工の依頼方式による対応の違いについても併せて解説しましょう。
オーナーの希望、地域ニーズに照らしてプランをチェック
プランづくりは、基本設計と実施設計に分かれることをまず押さえておきましょう。
基本設計は、敷地条件や市場ニーズを踏まえて建物の規模や階数、基本的な間取りと住戸数などを決めるラフ案です。
併せて予算感を把握するために「総額いくらぐらい」という概算見積もりを出すのが一般的。
実施設計は、具体的な設備仕様やディテールの納まりを含め、実際に施工できるレベルの詳細な図面を作るステップです。これを基に詳細見積もりを出します。
基本設計と実施設計に対するアプローチは、ハウスメーカーや中堅の建築会社などに設計施工で依頼する場合と、建築家に設計監理を任せ、施工は工務店や建築会社に頼む場合では異なります。
1.設計施工一括の場合
<基本設計>
設計施工の場合は、基本設計(基本プラン)の提案と概算見積もりが、建築パートナーを絞り込んでいくための材料になります。
ハウスメーカーのプランは、構造や工法、基本的な間取りパターン、設備仕様のグレードをあらかじめ決めてパッケージ化した企画型商品です。
基本設計そのものは建物の大きさや敷地内のレイアウトなどですが、推奨される間取りバリエーションや、標準仕様の住宅設備機器についても、プラン集や設備カタログなどの資料から確認できます。
中堅建築会社の場合も、自由設計と謳っていても、コストを抑えるために部材の共通化や設備仕様の標準化を進め、パンフレット類でスタンダードな間取りや設備仕様をイメージできるケースが多いでしょう。
このラフな基本設計と資料を基に、比較する場合のポイントは、①オーナーの目的や希望条件に合っているか、②土地のある地域ニーズ、ターゲットに合っているか、という2つの視点です。
施工会社は、自社の得意な構造・工法で、法的に建築可能な最大限のボリュームを入れようとする傾向がありますが、相続対策、節税対策、収益アップなど、オーナーの目的によって適切な構造や規模は変わってきます。希望に合わないときはプランの修正を打診してみましょう。
<概算見積もり>
基本設計と併せて出て来る概算見積もりの段階では、工事費総額だけか、せいぜい「本体工事/付帯工事」という大きな括りでしょう。
このレベルで契約を迫るハウスメーカーの営業担当者もいるようですが、これだけでは他社と比較できませんし、妥当かどうかの判断もできません。本体工事や付帯工事の内訳を提示してもらえるようにリクエストしましょう。
木造の場合の建築工事種目と、費目ごとの割合を図1に示しました。構造や仕様によって割合は異なります。また、会社によって項目の立て方が違いますので、何が含まれ何が省かれているかを確認して、項目を揃えてから比較することが大切です。
本体工事費80% | 躯体工事40% | 仮設工事 |
基礎工事 | ||
木工事 | ||
屋根工事 | ||
仕上げ工事30% | 内外装工事 | |
塗装工事 | ||
建具工事 | ||
設備工事20% | 電気設備工事 | |
給排水衛生設備 | ||
諸経費10% | 工事監督等 | |
付帯工事費20% | 屋外給排水配管工事、外構工事、冷暖房空調設備、照明器具、地盤改良工事など |
例えば、図1では本体工事費に入っている仮説工事費(足場・仮囲いなど)が付帯工事費に組み込まれていたり、同じく付帯工事費に入っている屋外給排水配管工事や外構工事が、その他工事(別途工事)という枠に振り分けられて建築工事費から外されたりするケースもあります。照明や冷暖房も入っていないことが珍しくありません。
設計施工一括では、設計料は無料(社内経費に込み)と説明される場合もありますが、諸経費扱いで設計・図面作成料や確認申請費用などが数十万円計上されていることもあります。
その他、保証料・保険料、税金などの諸費用も含めた総事業費を出さなければ、事業収支計画は立てられません。ハウスメーカーでは、これらを含めた資金計画書を出しているケースもありますので、他社にも依頼してみましょう。
オーナーが個別に複数の施工会社と交渉して見積もりを取る場合、後述する建築家による共通仕様書がありませんから、各社が出してくる基本設計や概算見積もりでは、仕様にバラつきが出ます。つまり、完全に仕様を統一して横並びで比べることはできません。
仕様の異なる工事費を比較するには、「木工事材一式〇〇万円」といったおおまかな形式の見積もり書ではなく、細かい工事対象部位ごとに、使用する材料や設備のグレード、施工方法、数量、単価を記載した仕様明細書が必要です。
ここまでくると概算見積もりではなく、詳細見積もりのレベル。詳細見積りを出すには、実施設計の設計図が必要です。
実は、設計図書を基に詳細な見積書を作るには、コストと手間、時間がかかります。数量の拾い出しだけでも、専門にやっている積算事務所に外注すると数万円~数十万円かかるのです。
そのため、これらの詳しい資料や図面の作成については有料になるケースが多いかもしれません。
相見積もりの内容が適正かどうかを判断するのは、建築の素人では限界があります。建築コンサルタントに見積もりチェックを依頼して、セカンドオピニオンを得るのもいいでしょう。
基本設計と概算見積もりに納得したら、ハウスメーカーの場合は仮契約になります。「仮」とついていますが、法的には工事請負契約と同じ扱いです。
そして、建築確認申請に必要な図面づくりを含めた実施設計に進みます。その段階で、レイアウトのちょっとした変更や設備仕様のグレードを上げてしまうと、追加費用が発生するため注意してください。
2.設計施工分離の場合
<基本設計~実施設計>
設計と施工を分離して建築家にプランづくりを依頼する場合は、基本設計に入る前に設計委託契約書を結び、オーナーの希望に合わせて自由設計で進められます。構造・工法、設備仕様のグレード、デザイン、すべてゼロベースからのスタートです。
数カ月かけてプランを練り上げていくわけですが、そのプロセスで、建築家に対しては遠慮せずに要望を伝えてかまいません。たとえば「ローコストだけど高級感のあるプランにしてほしい」など、一見矛盾するリクエストでも、いったん受け止めてから工夫をして、形にしてくれる建築家も多いようです。
基本設計の内容と希望条件、建築家の提示する「概算工事費」と予算をすり合わせ、収支計算をして問題ないと判断したら、実施設計に入ります。着工後に設計変更や追加工事が発生しないように、細かい仕様を含めて納得いくまで打ち合わせしましょう。
この段階になったら、基本設計で合意した予算枠を超えないように、大きくグレードを上げるとか、床面積や構造に影響するような大きな変更、過剰な要求は控えたほうが賢明です。
事業収支を意識して希望条件に優先順位を付け、取捨選択します。例えば賃貸住宅の場合、入居者にアピールする設備はなるべく良いものを入れ、素人目にはわからない仕上げ材量のグレードは柔軟に対応する。
あるいは、第一印象に影響し、競争力に響く外観デザインや外構工事のグレードは妥協しないなど、要望に強弱をつけておくことが大切です。
この実施設計を基に、建築概要と設備や仕上げのグレードを統一した仕様書を作り、工務店への相見積もり依頼に進みます。
<相見積もり~施工会社選定>
複数の会社に相見積もりを取る場合は、構造・工法によっては、ハウスメーカー、地場工務店、中堅建築会社が混在する形で依頼する場合も少なくありません。
中高層の鉄骨造の場合、以前は地場工務店のほうが割安でしたが、最近はハウスメーカーの方がコストを抑えられるケースも多いため、ハウスメーカーも候補に挙げるわけです。木造の場合は地場工務店のほうが低めのため、複数の工務店に依頼するなど、会社選定も状況に合わせて変更します。
建築家が共通仕様書を作ってから相見積もりを取る場合は、施工会社の方で数量を拾い出す手間がかかりません。単価の記入だけで済むため、詳細見積りでも無料で対応するのが一般的。経験のある建築家やコンサルタントが複数の見積書を横並びで比較し、妥当かどうかをチェックしてもらえます。
見積もりチェックのプロセスで、割高な項目が見つかった場合、総額が予算オーバーしている場合などの価格交渉なども行ってくれるでしょう。
賃貸アパートやマンションの建築にあたって、施工会社選びから着工するまでのプロセスで、担当者とどのように対応すればいいのでしょうか。営業スタッフや設計者とのやり取りのヒント、価格交渉のコツなどについて紹介します。
文/木村 元紀