賃貸アパート・マンションの建築で起こりうる法律トラブルとは?Q&Aで対処法を解説[段取り#6]

賃貸アパート・マンション建築を進めるに当たっては、施工会社や管理会社とのトラブルはぜひとも避けたいものです。ありがちなトラブルと、防ぎ方、起きてしまった場合の対処法についてQ&A形式で紹介します。

施工会社との間でよくあるトラブル

着工前~仮契約と本契約

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Q1:ハウスメーカーとの仮契約の後、希望したプラン通りにならず、工事費も予算をオーバーしたため、解約しようとしたら、違約金の請求が来ました。なぜですか?

A1.仮契約の性格を理解しないままサインしてしまったからです

ハウスメーカーや中堅の建築会社に設計施工一括で依頼する場合は、基本プランと概算見積りを提案してからまもなく“仮契約”を求められることが一般化しています。会社によって位置づけは異なりますが、「設計申し込み書」のような解釈が妥当と言えるかもしれません。

その際に10万円程度の前金(申込金)を支払うケースが多いようです。なかには「設計施工の発注書」という意味合いを持たせて、工事金額の5~10%、100万円単位の契約金を要求する会社もいます。

営業担当者は「仮契約といっても、意思確認のようなもので、いつでもキャンセルできる」「細かい仕様は後で決めればいい」などとサインを促しますが、“仮”とついていても、何らかの前金を払って署名捺印してしまえば、民法上は正式な契約行為になり、契約内容に縛られます。書面の内容と、支払った金銭の性格をきちんと確認しましょう。

仮契約の後に詳細設計に入り、正式な見積り金額が出てから、本契約(工事請負契約)に進むわけです。本契約の直前にキャンセルすると、前金が返還されるのが一般的ですが、返還されないこともあります。

なかには当初「設計料は無料(工事代金に含む)」と言っていたのに、本契約しないと設計料や各種調査費用を追加で請求するケースもあるようです。きちんと契約書を読んだ上で契約するようにしましょう。

「仮契約(申し込み)→本契約(工事請負契約)」が「仮契約(発注契約)→工事追加変更契約」という名称になる場合もあります。後者の場合、仮契約が実質的な工事請負契約になり、キャンセルすると違約金や損害賠償を請求される可能性も否定できません。“仮”だからといって、安易に結ばないようにしましょう。

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着工後~工事費の増額

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Q2:施工会社から工事費の増額を請求されました。払う必要はありますか?

A2.工事請負契約に記載された請負代金は、双方で合意した金額ですから、工事内容に変更がない限りは、増額請求に応じる必要はありません。

資材高騰を理由に増額を求めるケースもよくありますが、施工会社側も物価変動のリスクを踏まえて見積りを出しているはずです。多少の値上がりであれば、基本的に追加で支払わなくてもいいでしょう。追加分については、もし契約書に記載がなければ原則的に支払う必要はありません。

ただ、昨今のように半年で2~3割も建築費が値上がりする異常事態が起きることもあります。その場合は、ある程度の増額に応じるのはやむを得ないかもしれません。

強硬に増額を拒否すると、施工会社が後工程の資材を発注できなくなったり、隠れて質を落とされたり、手抜き工事を招くおそれもあります。資材高騰で増額した分を折半するなど、納得できる落としどころを双方で話し合いましょう。

詳細な設備仕様のグレードを決めておく

注意したいのは「工事内容に変更があるかどうか」が曖昧で、施工会社とオーナーとの間で解釈が分かれてしまう場合です。詳細な設備仕様のグレードを決めないまま契約してしまうケースが典型的な例です。

オーナー側は、設計段階ではイメージがつかめないためか「施工会社にお任せ」と言いながら、着工後に建物が立ち上がるにつれて「内装材をこれにしたい」「造作家具をここに付けて」などと、契約金額に含まれることを前提に注文することが珍しくありません。

一方、施工会社のほうでは、グレードアップやオプション工事の発注と受け止めます。最終的に竣工・残金精算の際に追加変更費用を請求され、「払え/払わない」でトラブルになるわけです。

こうしたトラブルを防ぐには、工事請負契約を結ぶまでに詳細な設備仕様のグレードを決めておくことが大切。「〇〇工事一式」「〇〇同等品」などの曖昧な表現ではなく、メーカーや商品名まで落とし込んでおきます。

また、着工後にオーナーから注文を出す場合は、その都度、追加費用がかかるか否かを確認して覚書を取り交わしましょう。

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竣工時期~工期の遅れ

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Q3:建物の完成が大幅に遅れ、オンシーズンに入居者募集をする予定がずれこんで苦戦。計画通りに賃貸経営をスタートした場合に得られたはずの賃料収入も含めて、損害賠償できますか?

A3.工事の遅延が生じた場合は損害賠償請求を行えるのが一般的です。

賃貸住宅の場合は、入居が遅れて賃料収入が減るという実害が発生しますから、その分も賠償請求の対象にできるでしょう。ただし、災害、長期天候不順、新型コロナ禍など、施工会社に非のない、やむをえない事情が原因の場合は賠償請求が認められない可能性もあります。

また、賠償請求を行う場合、「得られるはずの賃料収入」をオーナー側で具体的に証明しなければなりません。

引き渡し後すぐに満室になる確証があるのか、それとも初月は半分程度で満室に時間がかかるのか、主張するための根拠が必要です。たとえば、入居申込書や賃貸借契約書などが根拠になるでしょう。

完成前の募集で入居申し込みをしていた人が、引っ越し時期がずれたことを理由にキャンセルすることも考えられます。こうした場合の再募集の経費も実害に含めて請求できるかもしれません。

遅延した場合の特約を定めておく

もっとも、賠償金は損害を証明した全額ではなく、工事請負契約書に記載された違約金規定の範囲内しか認められない可能性もあります。

工事請負契約の契約約款に「損害賠償請求の予定」という項目があり、「遅延日数に応じて、請負代金の〇%」といった違約金の規定が出ていからです。

この規定は金額が低いケースが多いので、標準約款の規定とは別に、遅延した場合には賃料相当額を損害賠償するように特約をあらかじめ定めておくといいでしょう。

竣工後~契約不適合責任

Q4.引き渡しを受けたあと、3年たってから雨漏りが発生しました。無償で修繕してもらえるのでしょうか?

A4.無償の修繕を求めることができます。

新築住宅(賃貸住宅を含む)の建築や購入をした場合は、骨組みや雨漏り防止に関わる基本構造部分に関する10年保証を、施工会社や売主に義務付けているからです。

この規定は、以前は「新築住宅の瑕疵担保責任」、または「新築住宅の10年保証制度(瑕疵担保期間の特例)」と呼ばれていました。2020年4月に民法が改正されて、一般になじみのない「瑕疵」という言葉がなくなり、「瑕疵担保責任」も「契約不適合責任」に変更されました。正式には「目的物の種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合の売主の責任」と言います。

単に言葉が置き換わっただけではなく、法的な位置づけも図1のように変わりました。法律用語でとっつきにくいと思いますが、覚えておきたいポイントを2つ紹介しておきましょう。

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覚えておきたいポイント|図1「瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い」
瑕疵担保責任 契約不適合責任
責任追及の対象 隠れた瑕疵
(法廷責任)
契約との不適合
(債務不履行責任)
買主・建築主の権利 契約解除※1
損害賠償の請求※2
左記に加え、追完(修補、代替物引渡し)請求、代金減額請求
責任追及の期間 契約締結時までに
生じた瑕疵
引渡しまでに
生じた不適合
権利行使の期間 瑕疵を知ってから
1年以内に請求
不適合を知ってから
1年以内に通知※3

※1:請負契約の場合、建物については解除不可
※2:請負契約の場合、修理請求あり
※3:不適合を知ってから5年、権利を行使できるときから10年で時効消滅

1つは「主張できる権利」です。請負契約の場合、以前の瑕疵担保責任では、施主が追及できるのは損害賠償と修理の請求だけでした(注記参照)。新しい契約不適合責任では、この権利に加えて、代替物の引き渡し、代金の減額請求などもできるようになっています。

2つ目は、期間の制限です。瑕疵担保責任のときは、隠れた瑕疵(欠陥)があることを知ってから1年以内に損害賠償請求などの権利行使をしなければなりませんでした。契約不適合責任では、契約に合わないことを知ってから1年以内に不適合の内容を通知すればよいことになりました。

なお、施工会社との間で話し合いがつかない場合は法的手続きに進みますが、まだ、改正民法が施行されて間もないため、判例の積み重ねがありません。実際にどういう判断が出るかは予想できない部分があります。弁護士など法律の専門家に相談する必要があるでしょう。

文/木村 元紀

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