「屋上防水」とは?工事を実施するタイミング、防水の種類を解説[豆知識#3]

大規模修繕の代表的な工事の1つである屋上防水。雨漏りや、建物本体の劣化防止に重要な工程です。屋上の防水工事は何年ごとに行えばいいのか、防水工事の工法にはどんな種類や特徴があるのかなどを解説します。

屋上防水とは

「屋上防水」とは、鉄筋コンクリート造のマンションなどの屋上に見られる平らな陸屋根(ろくやね)に、防水加工を施すことです。

屋上防水のメンテナンスを怠って長年放置し、雨漏りが発生すると、修繕が大ごとになるだけではなく、入居者のパソコンや高級ブランド品などに被害が及び、高額な損害賠償を負う事態にもなりかねません。建物の耐久性を高め、資産価値を守るために不可欠なものになります。

アパートや一戸建てに多い傾斜屋根は、屋根葺き材のスレートや金属板、瓦など、それ自体が防水の役目を果たしますので、今回はマンションの陸屋根での屋上防水を中心にお伝えします。

防水工事の種類で異なる耐用年数

屋上防水の代表的な種類と耐用年数は、図1の通りです。

図1:防水工事の種類ごとの耐用年数
防水工法の種類 1985年基準 ※1 2010年基準 ※2 各種解説の
平均年数
アスファルト保護防水 ※3 17年 20年 15~25年
アスファルト露出防水 ※4 13年 15年
合成高分子系シート防水 13年 15年 10~15年
ウレタンゴム系塗膜防水 10年 15年 8~12年
FRP系塗膜防水 15年 10~12年

※1:旧建設省「建築物の総合技術開発プロジェクト」(通称「総プロ」)の「建築物の耐久性向上技術の開発」(1980~1985年)の標準耐用年数
※2:日本建築学会材料施工委員会と防水層劣化診断ワーキンググループが合同でした見直した「リファレンス・サービスライフ」
※3:アスファルト防水押えコンクリート仕上げ ※4:アスファルト防水露出砂付き仕上げ

公的な指標としては、40年近く前に旧建設省が公表した1985年基準が今でも示されることがあります。その後、各種塗料の素材や施工方法が発達したことを受けて、建築学会などが再調査したのが2010年基準です。1985年基準より伸びています。メーカーや施工会社などの解説を見ると、図1右端のように幅広く示しているのが一般的でしょう。

これらの耐用年数はあくまでもひとつの目安。それぞれの工法の仕様、建物が置かれた環境によっても変わってくる点に注意してください。

国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」に記載されている修繕周期は、屋根の補修・塗装が11~15年、葺き替えが21~25年となっています。

このうちアスファルト防水は、新築マンションや学校などの屋上に用いられる工法です。屋上に出て運動や作業ができるタイプと言えます。

FRP(ガラス繊維強化プラスチック)系塗膜防水は、一戸建てのベランダのように狭い範囲での用途向け。賃貸住宅の大規模修繕では、「ウレタン塗膜防水」と「シート防水」を行うのが一般的です。それぞれの特徴について解説します。

ウレタン塗膜防水の工法は2種類~「密着工法」と「通気緩衝工法」

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ウレタン防水

液状の防水材を塗るのが「塗膜防水」です。防水材としては「ウレタン系」がほとんど。施工方法には「密着工法」と「通気緩衝工法」の2種類があります。

密着工法

屋上の下地コンクリート(※1)へダイレクトにウレタン防水材を塗布して、下地と防水材を密着させます。既存の防水層を除去せずに、かぶせて塗ることも可能です。ウレタンを2~3層塗り、最後に保護仕上げ材のトップコートを塗ります。

※1.新築時は、アスファルト防水が施工されているのが一般的。防水層の上に押さえコンクリートを打ち込む保護防水仕様と、ゴミやほこりの附着を防ぐ砂を防水層に塗布した露出防水砂付き仕上げがある

ウレタン防水材は液状で流し込むように塗るため、継ぎ目のないシームレスな防水層ができます。

その半面、2つのデメリットがあるのが密着工法です。1つは、下地から蒸発する水分などにより、浮きや膨れが生じやすくなること。2つ目は、下地コンクリートが地震による揺れや熱による伸縮で動くことに追従できずに、ひび割れが生じる可能性がることです。

プライマーと呼ばれる接着剤で補強用クロスを張った上からウレタンを塗ることで、浮きやひび割れを抑える仕様もありますが、浮きや膨れを完全に防ぐことはできません。これらのデメリットを解消できるのが「通期緩衝工法」です。

通気緩衝工法

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下地と防水材の間に、孔のある不織布でできた通気緩衝シートを挟んで、水蒸気などを脱気装置から排出します(図2参照)。下地と防水材が絶縁されるので、下地の挙動に影響されてひび割れることを防げるのが特徴です。現在、ウレタン塗膜防水といえば通気緩衝工法が一般的でしょう。

場所によって密着工法と通気緩衝工法を使い分けるケースもあります。屋上に受電変電設備やエアコン室外機などの機械類設を置く架台の防水など、部分的なところは密着工法、それ以外は通気緩衝工法といった形です。

シート防水は接着工法と機械的固定工法の2種類

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塩ビシート防水

シート防水は、塩化ビニルや合成ゴム製のシートを下地に貼りつける工法です。大規模修繕で使用されるのは、塩ビシート防水が一般的でしょう。

シート防水にも「接着工法」と「機械的固定工法」があります。

「接着工法」は、文字通り下地に接着剤を塗り、防水シートを張り付ける工法です。下地に全面的に張り付けるため強風のあおりなどに強い半面、下地の収縮や挙動に影響を受けて、継ぎ目や端末部の膨れ、しわなどができ、破断につながるおそれがあります。

「機械的固定工法」は、下地に絶縁シートを敷き、一定の間隔でプレートやディスク状の金具をアンカーでコンクリートに固定。その上に塩ビシートを敷き詰めて、固定金具の位置をヒーターによる熱融着、または溶剤による溶着で密着させます。そのため、「接着工法」で起こりうる劣化が起こりにくいと言えるでしょう。

ウレタン塗膜防水とシート防水のうち、どちらかに優位性があるわけではありません。屋上の状態によって、向き不向きがあると言えます。施工面積が広く凹凸がない屋上はロール状になっているシートを敷き詰めやすいのでシート防水向き。機械類の架台など凹凸が多い場合は、ウレタン塗膜防水のほうが柔軟に対応できます。

5年ごとの屋上点検とトップコートの必要性

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トップコート塗布

冒頭で屋上防水の耐用年数を10~15年程度と記載しました。これは材料の耐久性や工事方法に基づいた標準的な年数で、メーカー保証が付く期間でもあります。しかし、10年以上、何もしないでいいかというと、そうではありません。建物によって個別性があり、様々な劣化が進んでいる可能性があります。

例えば、ウレタン塗膜防水は5年目に点検をして問題がなければ10年保証を付けるというメーカーもあります。つまり少なくとも5年点検が前提になるわけです。その時点で、劣化が進んでいる場合、トップコートを塗り替えるなどの対応も必要になるかもしれません。

また、塩ビシート防水は特にメンテナンスをしなくても10年以上の耐久性があると言われます。ウレタン塗膜防水のようにゴミが付着しやすいわけではないため、トップコートをしないケースも少なくありません。

しかし、トップコートをせず、メンテナンスを怠ると、10年たったあたりから表面がパサパサになり、全面張り替えが必要になります。トップコートをした上で、5年ごとに点検・補修しておけば、10年目の張り替えが不要で、20年以上もたせることができるといわれます。トータルコストはトップコートをしたほうが安いようです。

屋上防水の劣化チェックポイント

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防水層の劣化が進んでいるかどうかを判断するチェックポイントを最後に紹介しておきましょう。

ウレタン塗膜防水のポイント
チョーキング(手で触ると白い粉がつく白華現象)
ひび割れ、浮き
膨潤(ウレタン塗膜材が水分を吸収してスポンジ状になる現象)

 

シート防水
シートのふくれ、しわ
ジョイント部の剥離(シートの重ね合わせ部のはがれ)
入隅のつっぱり(シートの硬化、収縮による浮き上がり)

 

共通
ドレン(排水口)周辺のつまり(落ち葉・ゴミ等)、水たまり
鳥害(鳥がくちばしで突いて防水層に穴が開く)
雑草の繁殖
(風雨で砂や種子が飛来、ひび割れ部などで繁殖し、根が広がる)
伸縮目地の亀裂
(下地の押さえコンクリートの伸縮調整目地の上でひび割れ、破断など)

 

こうした状態を放置していると雨漏りの原因になります。屋上は足場がなくても点検、補修ができますから、最低でも数年に一度は屋上の状況確認、清掃などを行い、5年を目安にトップコートの塗り替えなどのメンテナンスを怠らないようにしましょう。

文/木村 元紀

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