アパート・賃貸マンションの外壁塗装、修繕が必要なタイミングはいつ?工法、費用も解説

アパート・賃貸マンションの大規模修繕というと外壁塗装というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。周囲に足場を組み、建物全体を補修、塗り替えする様子を街で見かけるケースも少なくありません。そこで、外壁塗装を行う周期、工事の方法、チェックポイントなどについて解説します。

外装材の修繕周期は接着剤・塗料・コーキングの耐用年数次第

アパート・賃貸マンションの外壁塗装、修繕が必要なタイミングはいつ?工法、費用も解説2

外壁塗装(補修・塗り替え)の目的は、建物全体を雨風の影響から守り、柱・梁・壁などの骨組みが劣化するのを防ぐことです。引いては資産価値の維持につながります。特にアパート・賃貸マンション経営においては、入居者を確保して長期安定的な収益を得るには、住まいとしての居住性能を維持することや、美観を保つ効果も外せません。

外壁の望ましい修繕周期は、分譲マンションでは12~15年程度と言われています。このサイクルは時代と共に変化しているため、あくまでも考え方の目安に過ぎません。賃貸住宅については、国交省の長期修繕計画ガイドラインでは、塗装仕上げの場合が11~18年、タイル張りが12~18年と修繕周期は幅広くなっています。

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これらの修繕周期は、外装材の耐久性を反映しています。外壁材自体の耐用年数ではありません。一戸建てやアパートの外壁材は、現在では9割がサイディング。中でも窯業系サイディングが8割近くを占めます。これらのサイディング自体の素材としての寿命は30~40年です。かつて主流だった「モルタル+塗装」は1割を切っています(図1参照)

マンションも、以前はモルタルに吹付タイル仕上げが一般的でした。しかし、かつて高級グレードだったタイル貼りが一般化しつつあります。タイルの寿命それ自体は石と同様に半永久的。小規模な鉄骨系プレハブではALC版を外壁にしているケースも珍しくありません。ALC版自体もメーカーによっては50年以上の耐久性があると説明しています。

では、なぜ10~15年に一度、外壁の改修が必要になるのでしょうか。その理由は、外壁材自体の耐用年数ではなく、サイディングやタイルを張り付ける下地モルタルや接着剤、すき間を埋めるシーリング材、そして外壁材を保護する塗料の耐用年数にあります。

タイル貼りのマンションは10年ごとに全面打診検査が必須

修繕周期を左右するポイントの1つに「建築基準法第12条に基づく定期報告制度」があります。

「建築基準法第12条に基づく定期報告制度」は、一定の規模、用途の特定建築物に関して、3年に一度、専門家に建物や設備を調査・検査してもらい、特定行政庁に報告することを義務付けた制度です。調査と報告を怠ると100万円以下の罰金など罰則があるうえに、建物の維持管理の不備が原因で人身事故などが起きた場合は多大な損害賠償を求められる恐れがあります。

同制度の対象になる特定建築物の用途や規模は特定行政庁ごとに決められています。アパートや賃貸マンションを含む共同住宅も対象になっていますが、地域によって2階以上、6階以上など規定はまちまち。

また、共同住宅すべてではなく、対象はサービス付き高齢者住宅に限るという例も少なくありません。賃貸オーナーは、所有している物件が該当するかどうか、地域の特定行政庁に確認する必要があるでしょう。

外装仕上げの違いには要注意

例えば東京都が定める「建築基準法第12条に基づく定期報告制度」の対象は、5階以上でかつ延べ床面積が1000㎡を超える共同住宅一般。

小規模なアパートは対象外ですが、賃貸マンションは該当するケースが多いでしょう。このうち、特に注意したいのが、外装仕上げが湿式のタイル貼り仕上げのケースです。

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タイル貼りの外壁は、3年に一度の目視点検に加えて、タイルの落下で歩行者に危害を与えるおそれのある外壁の全面打診検査が10年ごとに義務付けられているのです。打診検査とは、タイル面にテストハンマ―をころがして音の違いで、浮きや剥離しやすい状態になっていないかを判断する検査のことです。上層階では手が届かないため、検査のために足場が必要になります。

全面打診検査のためだけに足場を組むことはコスト倒れになってしまうので、現実問題としては、打診検査に併せて、その他の大規模修繕に関わる部位の劣化診断をして、修繕工事を準備する形になるのが一般的です。そのため、タイル貼りの場合は実質的に10年ごとの大規模修繕が必須になっていると言えるでしょう(※1)。

※1.新築後10年、または直近の大規模終焉から10年経ってから3年以内に全面打診をしなければならない。3年以内に確実に大樹規模修繕を実施することが決まっている場合は、危険回避の対策を行うことで時間的な猶予ができる

なお、定期報告制度は50年以上前に設けられていますが、火災や建材の落下、設備の不具合が原因となり、人身事故が起きるたびに規制が強化されてきました。一定規模以上のタイル貼り外壁のマンションに、10年ごとの全面打診検査が義務付けられたのは2008年からです。現在は、ドローンによる赤外線検査も一定の条件で認められています。

外壁塗装の修繕ではシリコン系塗料が主流

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外壁タイルの剥離

タイル貼りの場合、全面打診検査をするといっても、タイルを全面的に貼り換えるわけではありません。タイルの浮きや剥離のおそれがある部分だけ交換する形になります。

建築時の施工不良がないことを前提に、経年劣化でタイルの浮きや剥離が発生する確率は年平均で0.2%程度という調査結果があります(※2)。15年で3%程度の浮きなら、通常の経年劣化の範囲内。これを大きく越える場合は、何らかの施工ミスがあったと考えて良いかもしれません。

※2.『防水ジャーナル』(2015年12月号)の建築家・鈴木哲夫氏レポート「誤解を招くタイル浮き率指標」

タイル貼りマンション以外は、前記の定期報告義務はありません。しかし、建物や設備の不具合で歩行者や入居者に危険が及ぶことを避けるためにも、定期的な点検や修繕は欠かせないと言えるでしょう。

定期報告制度は災害や事故に伴う人命にかかわる安全性を保つために設けられた仕組みですが、建物の劣化を防ぎ、入居者離れを防ぐためにも計画的な修繕は必要と言えます。

アパート修繕でよく使われる外壁用塗料は?

アパートの外壁で一般的なサイディングの塗装に使われる塗料は図2の通りです。耐用年数の目安も併せて記載しています。

図2:外壁仕上げに用いられる塗料の種類
塗料種別 耐用年数 価格
アクリル 3~8年

安い

高い

ウレタン 5~10年
シリコン 7~15年
フッ素 12~20年

 

現在、修繕の際に使う外壁用塗料の中で、最も普及している塗料がシリコン系塗料です。

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アクリル系塗料のコストが一番低く、新築住宅では未だに主流と言われますが、3年でツヤが落ち、汚れも目立ち始めるようです。

ウレタン系塗料はシリコン系塗料より少し安い程度で、やや汚れが付きやすい性質があります。価格、性能、施工性のバランスが良い塗料はシリコン系塗料と言われています。

フッ素系塗料は耐用年数も長く、汚れもつきにくいことが特徴ですが、その反面コストは一段と高くなります。ただ、サイディングの継ぎ目を埋めるシーリング材の寿命が10年前後と言われていて、塗料とのバランスは必ずしも良くありません。

地盤や建物自体の耐震性の問題で、ひび割れが起きやすい建物もあります。塗料だけ長持ちしても、損傷個所の補修やシーリングの打ち替えに足場を立てる必要が出てくれば過剰スペックになるでしょう。耐用年数の長い塗料を使う場合は、シーリングも長持ちするタイプを採用しておく必要があります。

賃貸オーナーの場合は、中長期の賃貸経営計画を立て、子や孫の世代に引き継ぐ場合には、単価は高くても長持ちする塗料を採用する意義はあるでしょう。将来設計と収支計画のバランスを見て判断してください。

外壁劣化の兆候を判断するチェックポイント

最後に、適切な修繕を行うために、賃貸オーナー自身でも見分けられる外壁劣化のサインを知るためのチェックポイントを紹介しましょう。

モルタル塗装仕上げ
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チョーキング

塗膜の浮き、膨れ
著しい白華(チョーキング)
ひび割れ、剥離

 

サイディング
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外壁のひび割れと目地の劣化

シーリングの変色、目地の痩せ
シーリングのひび割れ、ちぎれ
金属サイディングの場合、パネル面の取り合い部分の著しいサビや変形

 

なお、大規模修繕で外壁塗装を行う場合、仮設足場の設置が必要と言われています。一方で、ゴンドラやロープを吊るしたブランコ作業など「無足場工法」を採用する施工会社も登場しています。足場について詳しく紹介している記事もありますので、参考にしてみてください。

文/木村 元紀

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