大規模修繕は何年ごとに必要?賃貸マンションとアパートで異なるポイント[基礎知識#5]

大規模修繕は、5~6年から数十年という長期的なスパンで実施していきます。いつ頃、どの部分を修繕すればいいのか、修繕周期の目安について紹介しましょう。併せて賃貸住宅の修繕周期についての考え方を解説します。

マンションの鉄部塗装、外壁塗り替えの修繕周期

大規模修繕の必要性はわかっていても、いつ、どんなタイミングで行えばいいのかわからないオーナーも多いようです。まずは、おおざっぱな目安を最初に示しておきましょう。図1は、国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」に記載されている修繕周期です。

図1:賃貸住宅の修繕周期の目安
大規模修繕は何年ごとに必要?賃貸マンションとアパートで異なるポイント[基礎知識#5]2

 

もっとも短い周期は、階段や外廊下の手摺などに使われる鉄部の塗り替えで4年~10年。大規模修繕の代表的な対象として取り上げられる外壁の塗り替えは、11年~18年というスパンです。

どちらも年数の幅が6~7年と広くとられていることがわかります。これでは期間が長すぎて、参考になりにくいと思うかもしれません。期間の幅が広いのは、建物の種類や階数を問わずに賃貸アパートやマンション全体の目安として示しているからです。

図2:マンションの修繕周期の目安
工事項目 修繕周期 工事区分
建物本体 鉄部塗装 5~7年 塗装
屋上防水(陸屋根・傾斜屋根) 12~15年 補修・修繕
24~30年 撤去・新設
開放廊下・階段・バルコニーの床防水 12~15年 補修
外壁補修(塗装) 12~15年 塗り替え
  24~30年 撤去・新設
タイル・シーリング 12~15年 補修・打ち替え
外部建具 12~15年 点検・調整
34~38年 取り換え
金物類(集合ポストなど) 24~28年 取り換え

 

工事項目 修繕周期 工事区分
共用設備 給水管 19~23年 更生
30~40年 取り換え
貯水槽 12~16年 補修
26~30年 取り換え
給水ポンプ 5~8年 補修
14~18年 取り換え
排水管 19~23年 更生
  30~40年 取り換え
ガス管 28~32年 取り換え
受変電設備 28~32年 取り換え
屋内消火栓、連結送水管 23~27年 取り換え
エレベーター 12~15年 補修
26~30年 取り換え

※赤字は代表的部位。ピンク色で網掛けした枠はアパートにない部位

出典:国土交通省「長期修繕計画作成標準様式(記入例)」(2021年改訂)より抜粋

鉄部塗装は5年~7年、屋根や外壁の塗り替えは12~15年と、図1よりも幅が短い期間が示されています(赤字の部分)。3~4年の範囲に入っていますからイメージしやすいでしょう。

共用設備については30~40年という長期スパンも出ています。こちらは、同じ国土交通省が分譲マンションの管理組合向けに出している資料ですが、構造が同じ賃貸マンションにも応用できると考えてください。

修繕周期は早すぎても遅すぎてもNG!過剰修繕&手遅れを防ぐ

図1や図2を見れば、賃貸アパートやマンションの大規模修繕時期を、ある程度はイメージしやすくなるでしょう。

ただ、これはあくまでも一般的な目安であることに注意してください。修繕周期は、建材メーカーや建設会社の研究、過去の修繕実績の統計などから「これくらいの時期が来たら不具合が出始めるので、大規模修繕を検討したほうが良いでしょう」というおすすめ期間に過ぎません。

すべての建物が、この期間に合わせて実施しなければいけないわけではありません。逆に、「まだ修繕周期よりも早いので、大規模修繕をしなくてもよい」という考えも間違いです。

建物や設備の劣化具合は、構造や設備仕様の素材やグレード、建物が置かれている周辺環境、それまでの維持管理の状況によって差が出てきます。外壁ひとつとっても、東西南北すべての面が同じように劣化するわけではありません。それぞれの建物の状態に合わせて実施するのがベストと言えるでしょう。

大規模修繕は、損傷や故障が起きてから実施するよりも、予防的に行ったほうが建物の耐久性を維持する上では好ましいと言われます。

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しかし、早すぎるのも禁物です。まだまだ十分に耐久性があるにもかかわらず、修繕や交換をすると「過剰修繕」になります。逆に実施するのが遅すぎると、修繕の程度が重くなり、費用がかさんでしまうでしょう。いずれにしても、適切な時期に実施すれば使う必要のなかった修繕費を浪費することになります。

管理会社に任せていれば安心とも限りません。というのも、管理会社は事故や故障が起きるのを危惧するあまり、早め早めの修繕時期を提案する傾向があるからです。

実際、1990年代までは、管理会社に委託している分譲マンションの外壁修繕は10~12年周期が望ましいと言われていました。2003年の「マンション総合調査」では、外壁塗装工事の平均実施時期は10.8年になっています。現在より、かなり早いペースです。

時代の変化や技術の進化もあります。塗料1つとっても、単価の安いもから高いもの、耐久性の短いものから長いものまで出ています。どのタイプを採用するかによっても、修繕周期は違ってくるでしょう。

したがって、修繕周期の数字だけにとらわれず、そろそろ劣化の兆候が現れ始めたら、建物診断をして客観的なデータを取った上で、どのように大規模修繕を進めるかを検討するのが賢明です。併せて、20~30年後までを想定した長期修繕計画を立てましょう。

「マンション」と「アパート」の大規模修繕はどう違う?

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2階建てアパートの修繕・改修工事イメージ

アパートの大規模修繕を見ていきましょう。アパートの場合、マンションとは若干異なる面があります。アパートとマンションとマンションの定義は明確ではありませんが、この記事では次のように定義して解説しましょう。

〇アパート:2階建て以下の低層住宅(1棟当たり10戸程度まで)

構造/法定耐用年数…木造/22年、軽量鉄骨造/27年

〇マンション:3階建て以上の中高層住宅(1棟当たり20~30戸以上)

構造/法定耐用年数…鉄筋コンクリート造/47年

アパートとマンションの最大の違いは共用設備の範囲です。

前述の図2に示したマンションの修繕項目のうち、共用設備のいくつかは低層住宅のアパートには設置されていないため、修繕項目には入りません。具体的には、給水設備(貯水槽・給水ポンプ)、消火設備(屋内消火栓・連結送水管)、エレベータなどです。こうした共用設備の修繕が不要な分、アパートの修繕費の負担は軽くなります。

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アパートにも設置されている給排水管は、交換時期の目安が30年以上です。法定耐用年数よりも長くなりますから、これを実施するかどうかはオーナーの判断次第になるでしょう。30年以内に建て替えを検討しているなら不要です。

しかし、長持ちさせて次世代に引き継ぎたいなら給排水管の交換も視野に入れた長期修繕計画を立てておく必要があります。

また、マンションでもワンオーナーの賃貸の場合は、必ずしも50年以上も長持ちさせる前提で考える必要はありません。物理的寿命はまだ残っていても、用途の異なる建物を開発したり、あえて取り壊して売却したり、様々な選択肢があります。耐用年数が30~40年くらいと言われる給排水管やエレベータは、交換する費用も並大抵ではあません。

建物本体の寿命を仮に60年と想定するか、100年と考えるかによって、それまでに設備交換にかけた費用を回収できるかの判断は分かれます。ニーズが変化して、住戸面積や間取りのトレンドが大きく変わっているとすれば、共用設備だけ交換しても入居者確保が難しくなるかもしれません。大規模修繕か建て替えか、費用対効果の面からも検討する必要があります。

賃貸マンション・アパートの大規模修繕は、単にハード面だけでなく、経営の観点も併せて検討することが大切です。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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