アパート・賃貸マンションの寿命をデータで見える化。建物は何年もつ?[基礎知識#7]

大規模修繕を検討するにあたって「住宅って何年ぐらい長持ちするの?」「そもそも住宅の寿命って何年ぐらい?」といった疑問を持つオーナーも少なくないようです。そこで、様々なデータのグラフを駆使し、住宅の寿命について解説していきましょう。

日本の住宅「平均寿命30年説」の誤り

インターネット上では、未だに「日本における住宅の平均寿命は30年」といった記述をしばしば見かけます。これは誤解を与える表現なので、まずは、この点から解説していきましょう。

日本の住宅に対する「平均寿命30年説」が出回ったきっかけは、今から20年ほど前に国土交通省から発表された『滅失住宅の築後経過年数の国際比較』というデータです。

図1のピンクの棒グラフ(2003年時点)がその調査に当たります。日本が30年なのに対して、アメリカは55年、イギリスは77年。欧米に比べて、あまりにも短いというわけです。

※グラフでは、本来の「平均寿命」とは違うため「“平均寿命”」と表記しています。

図1:住宅の”平均寿命”の国際比較
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このデータを引き合いに、「平均寿命は30年」と解釈されてしまったわけです。しかし、「住宅の平均寿命」と「滅失住宅の築後経過年数」は意味が違います。

「平均寿命」は、人間で言う「0歳時の平均余命」の考え方と同様に、「今、住宅を新築したら、使用できる残存期間は何年ぐらいか」という意味。「滅失住宅の築後経過年数」というのは、理由のいかんを問わず、取り壊された時点の築年を平均すると何年だったかという統計です。また、構造の違いも区別されていません。

元の資料に対する国交省の解説は、あくまでも「欧米に比べて利用期間が短い」であり、「寿命が短い」とは言っていません。つまりグラフの“平均寿命”は、正しくは「平均利用期間」と言い換えられます。何千万円も投資して建築したのに、社会資本として蓄積されずに、短期間で安易に解体されていることに対する警鐘でした。

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建物としてはまだまだ使えるはずなのに、様々な理由で解体して建て替えられるケースは珍しくありません。そのため、時代背景や人々の価値観などから利用期間の平均値は変動します。

図1には、2003年時点だけでなく、1995年時点と2018年時点のデータも併せて表示しました。日本の平均利用期間は、新しいほど伸びていることがわかります。

1995年時点で取り壊された住宅の利用期間が26年と短いのは、1960~70年代の住宅不足時代に「質より量」の風潮の下で建てられた住宅が中心だからです。

安普請で耐震性が低い建物もたくさんありました。維持管理の意識も低く、木造住宅は土台が腐朽したり、マンションも鉄筋コンクリートの劣化が進んでいたり、住宅としての機能が衰えている事例が多かったのも事実でしょう。

さらにプラン面でも、当時は床面積が狭く、和室中心で、内風呂がない住宅も珍しくありませんでした。生活スタイルの洋風化が急激に進み、広い住まいや快適な設備を求めるニーズが高まった結果、建物本体はまだ十分に使えるのに次々に建て替えられたわけです。

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その後も、高度経済成長から平成バブルにかけて定着した「土地神話」の下で、「建物より土地が大事」という考え方が広まり、建物を取り壊して更地化する取り引きが常識化。地価高騰で相続税を払えず、広いお屋敷のある土地を売却するケースも頻発しました。

2000年以降は、住宅の品質性能も底上げされ、生活スタイルも大きく変化していまいません。経済も低成長に入り、なるべく長持ちさせて住み続けるという意識も普及してきました。

図1で、日本の利用期間が2018年になって38年に増えているのは、こうした変化を反映しているのでしょう。欧米はあまり変化していません。

ちなみに、人間の平均寿命の算定方法に近い手法(※)で住宅の平均寿命を推計したデータが図2です。図1の平均利用期間よりは大幅に長く、次第に長寿命になっていることがわかります。

また、意外なことに、一戸建てとマンションの差はありません。2011年時点では共に60年程度になっています。構造の違いよりも、床面積の広さ、利用方法などが影響するようです。

※建築時期ごとに残存率が50%になった時点の経過年数を平均寿命とする区間残存率推計法

図2:日本の住宅の平均寿命は段々伸びている
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アパート・マンションの寿命を左右する3つのポイント

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ここで、改めて住宅の寿命とは何かについて整理しておきましょう。住宅の寿命には図3のように、「物理的」「経済的」「機能的」という3つの要素が絡み合っています。

物理的寿命

一番のベースになるのが「物理的寿命」です。建物本体の劣化状態が限界まで来て、住宅としての基本性能を維持できなくなる時点と言えます。

住宅としての基本性能のうち、もっとも重要なのは、大地震が来ても大きな損害を受けず、雨風をしのげる室内空間を維持できること。安心安全に住み続けられることです。

例えば、木造の場合、土台や柱がシロアリ被害や腐食により強度が落ちたり、屋根や外壁のひび割れにより雨漏りが発生したり、それらの被害を放置しておくと、骨組みから朽ち果てて、住まいとしての機能を保てません。

また、物理的寿命は、必ずしも構造や素材によって絶対的に決まっているわけではありません。きちんと維持保全をしているか否かによって、伸びたり縮んだりします。

住宅は、柱・梁・土台などの構造躯体、屋根や外壁などの外装材、給排水管などの設備機器など、劣化の進み方や耐久性の異なるたくさんの部材でできあがっているため、それぞれ適切な維持管理をして、必要なタイミングで修繕をしていかなければなりません。

経済的寿命

建物の骨組みがしっかりしていても、建て替えられるケースは少なくありません。その理由の中で大きいのが経済的な要素です。

築年が古くなって建物の劣化が進み、メンテナンスや修繕の費用がかさんで、建て替えるコストを上回るようになった時点で建物として維持していく合理性は失われてきます。賃貸オーナーの場合は、特に大きなターニングポイントになるでしょう。

また、市場価値という観点もあります。日本の中古流通市場では、住宅として問題なく住める状態でも、木造の場合は築10数年で建物の価値はゼロと見なされて、査定価格に反映されません。昨今、見直されつつありますが、まだまだ、土地重視の傾向は強いままです。

機能的寿命

物理的、経済的に問題がなくても、利用価値が下がって取り壊されていくケースが出てきます。

技術革新による住宅設備機器の発達、ライフスタイルや価値観の変化に伴い、より快適な暮らし、より広い住空間を求めるニーズが高まると、住まい手の要求性能に合わなくなった住宅は陳腐化して廃れていくわけです。この点は、ハードよりソフト面、心理的な要素が強いかもしれません。

これらの3要素を期間の長短で並べると

物理的寿命>経済的寿命>機能的寿命

という関係になるでしょう。

100年前、SRC造の法定耐用年数は100年だった

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SRC造の建設現場イメージ

次に、建物の寿命について語るときに、必ず取り上げられる「法定耐用年数」について考えてみます。「法廷耐用年数=平均寿命」と考えていいのでしょうか。答えは半分正解です。

法定耐用年数は、財務省の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で定められています。なぜ財務省が決めるかというと、企業の法人税や個人事業主の所得税を計算する際に、固定資産の減価償却費を割り出すために必要だからです。

固定資産税評価基準にも使われています。つまり、法定耐用年数は、会計処理のために設定された基準で、必ずしも建物自体の平均寿命を意味しているわけではりません。

もちろん、法定耐用年数を算出するベースには、建物が目的に応じた機能を果たせる期間がどのくらいか、いつまで使用に耐えられるかという観点も考慮されています。現状の法定耐用年数が、図3のように、構造や用途によっても分けられている点からもわかるでしょう。

図4:財務省令の法定耐用年数
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住宅は、鉄筋コンクリート(RC)造が47年、軽量鉄骨造が27年、木造が22年です。耐用年数は事業収支にダイレクトに関わりますし、将来的な修繕や建て替えの経営判断にも影響します。

ただ、前述した図2の推計値に比べると、かなり短い印象です。その理由は、図3の「寿命の3要素」のうち「物理的寿命」以外の要素が大きいのではないでしょうか。この点は、法定耐用年数がこれまで改正されてきた過去の経緯をたどると理解できます。

図5:住宅の法定耐用年数の変遷
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図5は、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造。RC造も同じ年数)と木造の法定耐用年数の変遷です。最初に減価償却の考え方が会計に取り入れ、法定耐用年数が決められたのは今から100年以上前の1920年。

当時のSRC造の法定耐用年数(住宅・事務所共通)は100年でした。現在の倍以上です。木造も現在の1.5倍の35年でした。当時は、物理的な耐用年数を基本に設定したと記録されています。

その後、1940年代の第2次世界大戦前後は変則的な動きをしますが、一貫して右肩下がりに短縮しています。時代の変化に合わせて、経済的、機能的な側面が考慮されるようになったからでしょう。耐用年数=償却期間が短いほど、経費計上できる金額が増えて税負担が減るため、法定耐用年数の改正には政財界に意向も強かったようです。

RC造も木造も、寿命100年以上は難しくない

最後に、物理的な寿命について参考データを示しておきましょう。図6は、RC造の建築物を設計する際の基準です。

図6:コンクリート構造躯体の耐久設計の区分
計画供用の等級 計画供用期間
(およそ)
供用限界期間
(およそ)
耐久設計
基準強度
(N/mm2
短期 30年 65年 18
標準 65年 100年 24
長期 100年 200年 30
超長期 200年 36

出典:日本建築学会「コンクリート構造躯体の計画供用期間」

この表は、現在の技術水準なら設計次第で200年以上の耐用年数も可能ということを示しています。

図の「計画供用期間」というのは、大規模な改修を行わなくても保てる耐用年数。「供用限界期間」は、構造躯体の大規模修繕を行えば延長して使用できる予定の期間。「耐久設計基準強度」は、コンクリートの圧縮強度のこと。単位のNは「ニュートン」と読み、1N/ミリ平方メートルは1平方メートル当たり約100トンの圧力まで耐えられることを意味します。

一般的なマンションでは標準の「24N/ミリ平方メートル」、つまり計画供用期間が65年で設計するケースが多いようです。これは構造躯体のメンテナンスをしなくても60年以上の寿命があり、大規模修繕をすれば100年もたせることができるレベルです。コンクリートの強度を高めるほど長持ちしますが、その分、建築コストはアップします。

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木造についても、築100年、200年の古民家が珍しくないように、部材の選び方、設計の仕方、メンテナンス次第で寿命は長くなります。

つまり、漠然とした「住宅の寿命は何年か」という問いは、あまり意味をなしません。

「何年もたせたいか。そのためにいくらコストをかけられるか」と、オーナー自身が賃貸経営を続けたい目標年数を想定して建築発注し、竣工後に、適切な維持管理と計画的な修繕をして目標年数まで長持ちさせるように努力するかによって、変わるからです。住宅の寿命は与えられるものではなく、オーナー自身が実現するものといったほうがいいのではないでしょうか。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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