アパート・賃貸マンションにかかる大規模修繕費用の目安はどのくらい?[資金#1]

「資金的な余裕がない」というのが、大家さんが大規模修繕をためらう理由のトップ。そもそも、いくらぐらいかかるかを把握していない大家さんも少なくありません。そこで、アパート・賃貸マンションの大規模修繕の費用の目安について解説します。

木造1Kの1戸当たりの修繕費は30年間で約200万円

修繕費は、建築費のような公的データが整備されていません。しかも、工事種目、内容、仕上げグレードによってかなり幅があるため相場と言える数値を把握しにくいのが実態です。

そこで、賃貸管理会社の業界団体である公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)が公表した「賃貸住宅版 長期修繕計画案作成マニュアル(改訂版)2014年」を基に推計してみましょう。2014年から2022年9月までのコスト上昇率を、建設物価調査会の「建築費指数」を基に試算して補正しました。

図1:計画修繕の費用の目安(1戸あたり)

図1は、建物が完成してから30年目までに、計画的に修繕を実施した場合にかかる費用を示したものです。室内設備の更新費用も含まれています。

10年以内は大きな修繕はなく、小中規模の補修などに止まります。11~15年目と21~25年目が大きく膨らんでいるのがわかるでしょう。間取り(1室の面積)、構造によっても異なります。

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木造1Kの場合、30年間トータルで1戸当たり201万円。木造アパートの建築費の相場は700~800万円。建築費に占める割合を計算すると、25~29%に達します。RC造2LDKの場合は338万円。建築費を仮に2,000万円とすると、割合は17%です。

また、1棟当たりの総額は、木造1Kが10戸なら2,010万円、RC造2LDKが20戸なら6,760万円となります。このデータは、あくまでも一定のモデルを用いて試算した目安のため、個別の条件によってばらつきがある点は注意が必要です。ただ、金額のイメージをつかむうえでは参考になるでしょう。

なお、図1のRC造2LDKの修繕費の試算は、10戸程度の小規模なマンションを想定しています。エレベータ、受水槽・揚水ポンプ、機械室・などのメンテナンス費用は含まれていません。規模の大きな中高層マンションの場合は、プラスアルファの費用を想定しておく必要があります。

修繕箇所によってかかる費用の違いは?

次に、修繕する箇所によって、かかる費用がどう違うかについて解説します。

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図2は、木造1Kアパート1棟当たりの工事種別ごとの修繕費の目安をピックアップしたものです(データの出典は図1と同様)。

計画修繕の中で、大規模修繕は、屋根・外壁などの建物全体に及ぶ工事を指します。個別に見ると、屋根(カラーベストの塗り替えなど)は72万円、外壁補修は88万円と、個別箇所ごとにかかる費用の目安はそれほど大規模というイメージはないかもしれません。

ただ、屋根や外壁の修繕には足場が必要になることや、修繕周期が11~15年目に重なることから同時に実施するのが一般的です。同様に、外廊下や階段、ベランダの防水工事も一緒に行うケースが多いでしょう。屋根、外壁、防水をまとめて実施すると272万円。それなりの金額になってしまいます。

共用部の鉄部塗装は修繕周期が少し短いため、単独で実施することも珍しくありません。屋根や外壁も一括施工にせず、分割施工にする方法もあります。

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ちなみに、室内設備は11~15年目に531万円となっています。大規模修繕よりも高額ですが、これは一度に出費があるとは限りません。通常は退去のタイミングで原状回復と併せて補修や入れ替えるケースが多いでしょう。

ただ、設備の寿命が近づき、一斉に不具合が出て複数の部屋で同時に交換しなければならない事態が発生することもあります。

トータルで見ると、これぐらいの予算を見込んでおいたほうが良いという意味で、計画修繕に含めて解説する傾向があるため、図1の1戸当たりコストも室内設備メンテナンスを含めています。室内設備を除く建物本体の修繕のみの目安は、総額の4割前後と考えておけばいいでしょう。

共用設備にかかる費用にも要注意

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共用設備・施設についてはここでは詳しく触れていませんが、例えば、給排水管の交換は築30~40年が目安と言われています。

しかし、従来、木造アパートは法定耐用年数の22年から30年程度で解体や建て替えられてしまうケースが多く、給排水管の交換まで進んだケースがまれでした。その結果、給排水管の修繕費に関するデータが集積されていないため、費用の目安も出しにくくなっています。

高層マンションでは30年を超えると、エレベータの交換も視野に入ってきます。エレベータは1基当たり1,000万円単位になるようです。技術の進化によって改善される可能性もありますが、長期的な視野に立って準備しておかなければなりません。

今後、建物や設備の長寿命化が進む中で、こうした費用の相場も明らかになってくるでしょう。

文/木村 元紀
※この記事内の情報は2022年9月30日時点のものです

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