新設住宅着工の減少と賃貸の市場拡大は何を示唆する?変わりつつある「不動産と個人の関係性」を最新レポートから読み解く

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公開日:2023年8月2日
更新日:2024年3月8日
新設住宅着工の減少と賃貸の市場拡大は何を示唆する?変わりつつある「不動産と個人の関係性」を最新レポートから読み解く1

かつては、永住するために新築の持ち家を建てることが、住宅との付き合い方における最終目的とされる時代でした。しかし「首都圏のマンション市場では、この10年だけを振り返っても、この『常識』は大きく変わってきた」とする不動産マーケットリサーチレポートが三菱UFJ信託銀行(株)より発表されています。住宅着工数予測データと合わせて、内容を詳しく見てみましょう。

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もはや「永住するための家を新築=唯一のゴール」ではない時代

調査レポートでは最初に、ここ10年の新築分譲マンションの供給戸数と中古マンションの成約戸数、貸家の着工戸数を比較しています。それによると、2013年にピークとなった新築分譲マンションの着工戸数が2015年に貸家と逆転しました。2022年には、貸家の着工数が新築分譲マンション着工数の倍近くにもなっています。

中古マンションの成約戸数は増減がありつつも緩やかに上昇していることから、「永住目的で新築住宅を取得する」という、かつては唯一であったゴールに加えて、「中古住宅を取得」、「賃貸住宅を貸借」、「売却ありきで住宅取得」という新しい選択肢が増えている、としています。

賃貸住宅を選ぶ層が拡大している背景

新設住宅着工の減少と賃貸の市場拡大は何を示唆する?変わりつつある「不動産と個人の関係性」を最新レポートから読み解く2

一般的には、首都圏を中心にした分譲マンションの価格高騰が、賃貸マンションを選ぶ層が増えている要因とされることが多いようです。実際に、東京23区の分譲マンションの価格は、2012年から2022年の10年間で新築は55.9%、中古は78.4%も上昇。その一方で、賃貸マンションの賃料は14.3%の上昇にとどまっています。

賃貸マンションの賃料上昇が緩やかな理由について、レポートでは投資家の存在を指摘。コロナ禍でオフィスやホテルなどが影響を受けるなか、賃貸マンションはその安定性で投資家から注目を集めました。

日本の賃貸マンションは安定したイールドギャップ(借入金の金利と投資物件の利回りの差)が確保できると評価されていることや、J-REITは投資家の請求による払戻しができないクローズドエンド型の投資法人であることから、基本的には一度取得した賃貸マンションは保有され続けます。そのことが、今後も賃料の安定に寄与していくとみられます。

個人のモノに対する価値観が「所有」から「利用」に変化

経済的な側面だけでなく、個人のマインドの変化も賃貸マンションの市場規模拡大に影響しているのでは、とレポートでは述べられています。新築志向の弱まりや、中古に対する慣れが個人のマインドの変化にあたります。

国土交通省の「土地問題に関する国民の意識調査」によると、住宅について「土地・建物の両方とも所有したい」と考える人の割合は、ここ10年で79.8%から65.5%へ低下。この傾向は20歳代・30歳代で特に強く、今後の住宅取得者の中心となる年代で、必ずしも「所有」にこだわらない考えが広がっていると考えられます。

過去10年の価格上昇幅も新築分譲マンションより中古分譲マンションの方が大きいことから、入居時点ですでに「中古」である賃貸マンションも選ばれやすくなっているのかも、としています。

「売却を視野に入れた取得」はじめ住宅選びの選択肢が広がる

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さらに、住宅を取得する場合も自身が永住するためではなく、将来の売却を前提とした考え方が広がっている点を指摘。その背景には、マンションの資産性を重視する傾向があるのでは、と分析しています。

三菱UFJ信託銀行(株)の『首都圏新築マンション契約者動向調査』によると、マンション購入時の理由で「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」と回答した取得者は2012年に15.8%でしたが、2022年には30.4%まで増加しました。

「それぞれのライフステージ、置かれた環境に合わせ、固定観念にとらわれない住宅選びを行う個人の傾向が強まっていくだろう」と同レポートではまとめています。

新設住宅着工数も2040年度には約36%減少の見込み

「持たない」選択肢も増えるなか、新築着工数はどのように推移するのでしょうか。それについては(株) 野村総合研究所が『2023~2040年度の新設住宅着工戸数』で推計・予測しています。

それによると、新築着工数は2022年度の86万戸から、2030年度には74万戸、2040年度には55万戸と減少する見込みとなっています。2022年度から2040年は約36%減ということになります。内訳は2022年度⇒2040年度で持家25万戸⇒15万戸分譲住宅26万戸⇒12万戸貸家35万戸⇒28万戸。いずれも漸減しています。

新設住宅着工の減少と賃貸の市場拡大は何を示唆する?変わりつつある「不動産と個人の関係性」を最新レポートから読み解く2

リフォーム市場規模については成長を続け、2021年の約7.6兆円から2040年には8兆円台後半となる見込みです。三菱UFJ信託銀行(株)のレポートにあった「中古市場の拡大」や「マンションの資産価値を重視する傾向」とも連動する結果となっています。

さらに『2023~2040年度の新設住宅着工戸数』では住宅建設技能者数の不足も予測しており、人手不足により人件費も上がることで、建築費がさらに上昇する可能性も考えられます。

国の推進している空き家対策事業等もあり、今後は古いものを活用し資産価値を高めるという考え方が主流となっていきそうです。賃貸物件においても、築年数に関わらず資産価値を高めるための設備投資が重要な時代が来ると思われます。しかし一方で、費用対効果をシビアに見極める判断力も求められます。

新設住宅着工の減少と賃貸の市場拡大は何を示唆する?変わりつつある「不動産と個人の関係性」を最新レポートから読み解く2

これらのレポートや予測データは、すぐに賃貸経営に役立つというものではありませんが、不動産業界の市況や個人の消費マインドを俯瞰して把握するにはとても有効です。ぜひ、新たな経営戦略を練る際や投資物件を選定する際の参考としてみてください。

※この記事内の情報は2023年8月2日時点のものです。

取材・文/丸石 綾野

出典元の調査データを詳しく見る

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