原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは

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公開日:2024年8月7日
更新日:2024年9月18日
原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは1

賃貸経営において正確に把握しておきたいのが、入退去の際の原状回復費です。原状回復はどこまで必要で、そのための費用は賃貸物件の持ち主である賃貸人(オーナー)と、賃貸物件を使っていた賃借人(入居者)がそれぞれどう負担するべきなのでしょうか。国土交通省が定めるガイドラインに沿ってケース別に解説します。

原状回復ガイドラインとは

賃貸住宅では、入居者が退去するときに建物を傷めたり、汚してしまったりした箇所を修繕するための費用を敷金から精算するのが通例となっています。

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」表紙

しかし、住んでいれば自然にできる汚れや色あせもあり、これらの修繕についてはオーナー負担とされています。

この線引きがあいまいだったため、かつては退去時に敷金の返還をめぐるトラブルが多発。そこで1998(平成10)年に国土交通省が公表したのが「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。

建物の耐用年数をふまえて入居者が負担する原状回復費と、「経年劣化」や「通常損耗」をきちんと区別するのが目的で、それぞれのケースを具体的に示しています。

原状回復ガイドラインの概要

ガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義。その費用は賃借人(入居者)が負担するものとしています。

一方でいわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしています。また、原状回復とは、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないと明確化しています。

ガイドラインは、2011(平成23)年に公表された再改定版が最新で、実際にトラブルになりやすい事例についての判断基準や入退去時のチェックリスト、トラブル解決のために活用できる制度(少額訴訟手続きなど)の紹介、実際の判例の動向などで構成されています。

東京都の条例「賃貸住宅紛争防止条例」とは
原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

東京都では、2004(平成16)年に「賃貸住宅紛争防止条例」が制定されています。いわゆる「東京ルール」と言われる条例です。

全世帯の4割にあたる約270 万世帯が民間賃貸住宅に居住している東京都では、賃貸借契約についての相談が多く寄せられており、その4割近くが退去時の敷金精算についてのものでした。これらのトラブルを防止する目的で作られたのがこの条例です。

「賃貸住宅紛争防止条例」では、宅地建物取引業者に対し、原状回復や修繕の基本的な考え方、特約の有無や内容、入居中の修繕や維持管理などに関する連絡先について貸借人に説明することを義務付けています。

「賃貸住宅紛争防止条例」で説明するべきとしている内容は、国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に沿ったものですが、ガイドラインと違って法的な拘束力があります。

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負担するのは大家?入居者?原状回復費用の負担割合区分表

ここからは「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で具体的に示された原状回復費用の負担区分を見てみましょう。ガイドラインでは、以下のように定めています。

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン|国土交通省住宅局

入居者負担

賃借人(入居者)のその後の手入れ等管理が悪く発生・拡大したと考えられるもの、賃借人の使い方次第で発生したりしなかったりするもの(明らかに通常の通常の使用による結果とはいえないもの)

オーナー負担

賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの、次の入居者を確保するための化粧直しやグレードアップの要素があるもの

入居者と大家の原状回復費用の負担区分表

 箇所 入居者負担 オーナー負担
壁紙(クロス)、天井 ・台所の油汚れ(使用後の手入れが悪くススや油が付着している場合)

・結露を放置したことにより拡大したカビ、シミ

・タバコ等のヤニ・臭い(喫煙等によりクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合)

・壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもので、下地ボードの張替が必要な程度のもの)

・クーラーから水漏れし、放置したため壁が腐食(クーラーの所有に関わらず、水漏れを放置した場合)

・天井に直接つけた照明器具の跡

・落書き等の故意による毀損

・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)

・壁に貼ったポスターや絵画の跡

・エアコン(入居者所有)設置による壁のビス穴、跡

・クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)

・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)

・カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ

・冷蔵庫下のサビ跡

・引越作業で生じたひっかきキズ

・畳やフローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)

・落書き等の故意による毀損

・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

・畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)

・畳の裏返し、表替え(特に破損等していないが、次の入居者確保のために行うもの)

・フローリングワックスがけ

建具や窓、柱など ・飼育ペットによる柱等のキズ・臭い

・落書き等の故意による毀損

・地震で破損したガラス

・網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)

・網戸の張替え(破損等はしていないが次の入居者確保のために行うもの)

設備機器(給湯器など) ・ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす

・風呂、トイレ、洗面台の水あか、カビ等

・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損

・戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

・設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの)

・エアコンの内部洗浄

・消毒(台所、トイレ)

・浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のため行うもの)

・鍵の紛失、破損による取替え ・鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)

 

その他、専門業者による全体のハウスクリーニングは、入居者が通常の清掃を実施している場合、次の入居者確保のためのものであり、オーナーが負担するのが妥当と明記されています。

通常の清掃とは具体的には、ゴミの撤去や掃き掃除、拭き掃除、水まわり、換気扇、レンジまわりの油汚れの除去などを指します。

原状回復ガイドラインにおける費用の負担割合表

部屋の各部位の原状回復費用の負担区分について見てきましたが、次に問題となるのが原状回復費用の「負担単位」です。

例えば、入居者が過失によって畳を焦がしてしまった場合、その畳一枚分を取り替えるだけで済むのか、部屋の畳すべての取り替え費用を負担するのか、といった単位が部位ごとに定められています。

また、「通常の使用の範囲内での劣化」といっても、1年で退去する場合と、10年住んで退去する場合では判断が異なります。この「経過年数」が考慮されることで、入居者とオーナーの負担割合が変わってくるのです。主な部位の負担単位と経年年数について詳しく見てみましょう。

賃貸人の負担単位と経過年数等の考慮

 箇所 入居者の負担単位 経過年数の考慮
 床 畳:原則1枚単位。毀損等が複数にわたる場合は、その枚数(裏返しか表替えかは毀損の程度による)

カーペット、クッションフロア: 毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体

フローリング:原則㎡単位 毀損等が複数箇所にわたる場合は当該居室全体

畳表:消耗品に近いものであるため経過年数は考慮しない

畳床、カーペット、クッションフロア:6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する

フローリング:経過年数は考慮しない。ただし、フローリング全体にわたる毀損でフローリング床全体を張り替えた場合は、当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような負担割合を算定する

壁・天井 壁(クロス):㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえないとする。喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当該居室全体のクリーニングまたは張替費用を入居者負担とする 壁(クロス):6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する
建具・柱 ふすま:1枚単位

柱:1本単位

ふすま紙、障子紙:消耗品であるため経過年数は考慮しない

ふすま、障子等の建具部分、柱:経過年数は考慮しない

設備・その他 設備機器:補修部分、交換相当費用

鍵:紛失の場合はシリンダーの交換

クリーニング:部位ごともしくは住戸全体

流し台:5年で残存価値1円となるような負担割合を算定する

エアコン、冷蔵庫、ガスレンジ、インターホン:6年で残存価値1円となるような負担割合を算定する

金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶ダンス):8年で残存価値1円となるような負担割合を算定する

便器、洗面台、金属製の器具・備品:15年で残存価値1円となるような負担割合を算定する

ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの):当該建物の耐用年数を適用する

鍵:紛失の場合、経過年数は考慮しない

クリーニング:経過年数は考慮しない。賃借人負担となるのは通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を負担する

 

原状回復費用負担額の計算例

ここまでで、入居期間中の経年変化や通常の使用による劣化分についてはオーナーが負担することがわかりました。しかし、消耗品と判断されるものは「経過年数は考慮しない」、つまり、入居者の負担で原状回復を行うこととなります。

それでは経過年数を考慮する場合はどのようになるのでしょうか。設備等の経過年数と負担割合は次の表のように定められています。

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン|国土交通省住宅局

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

毀損場所を壁(クロス)として考えてみましょう。法定耐用年数は6年で、原状回復に10万円かかったとします。まず、6年を超えて退去した場合は、原状回復費の10万円はすべてオーナー負担となります。

6年以内に退去した場合のオーナー負担割合は入居年数÷法定耐用年数です。

入居
年数
計算例
1年 100,000円×(1÷6)= 16,666円がオーナー負担、83,334円が入居者負担
2年 100,000円×(2÷6)= 33,333円がオーナー負担、66,667円が入居者負担
3年 100,000円×(3÷6)= 50,000円がオーナー負担、50,000円が入居者負担
4年 100,000円×(4÷6)= 66,666円がオーナー負担、33,334円が入居者負担
5年 100,000円×(5÷6)= 83,333円がオーナー負担、16,667円が入居者負担

※小数点以下切り捨てのため、1円のずれが生じています

原状回復費用の相場と地域差

原状回復費用は工事や改修を依頼する会社によって異なります。リフォーム会社マッチングサイトの「リショップナビ」によると、2024年時点で部位別の原状回復費用の相場は以下となっています。

◆フローリングの張替え・傷の補修
張替え=2万円~6万円/畳
傷・へこみの補修=8,000円~6万円
◆畳の裏返し・表替え・交換
4,000円~3万5,000円/畳
◆壁紙(天井)クロスの張替え・穴の補修
張替え費用 = 750円~1,500円/㎡(+500円~2,000円程度、廃材処分費がかかる場合あり)
傷・穴の補修費用 = 1万円~6万円
◆ハウスクリーニング
1万5,000円~7万円(1R~2LDKの集合住宅の場合)

 

原状回復費用は多くの場合、敷金から差し引いて清算されます。しかし、もともと敷金(保証金)や礼金は慣習から生まれたものであるため、地域差も存在します。

一般的には、敷金は家賃滞納があった場合や原状回復費のための担保のようなもので、それとは別に入居者に返還されない礼金を設定するのが主流となっています。

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

関西では「敷金」ではなく「保証金」という呼び方をすることが多かったのですが、保証金のなかに「敷引き」という名目がふくまれているケースがあります。

敷引きは入居者に返還されない、いわば関東での礼金のような性格のお金です。しかし最近はインターネットでの情報共有が盛んになったこともあり、地域間での商習慣の違いはなくなりつつあります。

原状回復費用をめぐって起こりやすいトラブルと対処法

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

原状回復費用をめぐるトラブルは年間1万件以上の相談が(独)国民生活センターに寄せられています。ほとんどが貸借人(入居者)によるもので、最近の事例としては以下のような相談が紹介されています。

・賃貸アパートの退去時、ペットが傷をつけたと言われ、クロスの張替え費用を請求された。傷の写真を見たが、ペットが付けた傷かはわからず納得できない。

 

・賃貸マンションの入居時にルームクリーニング代を支払った際、「退去時のルームクリーニング代は不要」と言われたにもかかわらず、退去時に請求され納得できない。

 

・賃貸アパートを退去後、原状回復費用の清算書が届いた。入居時から傷ついていた床等の原状回復も求められ納得いかない。

 

・10年以上住んだ賃貸アパートを退去したらクロスの張替えなど高額な原状回復費を請求された。全額支払う必要があるのか。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、トラブル解決のための制度として、「少額訴訟手続」や「裁判外紛争処理制度」が紹介されています。少額訴訟手続は、民事訴訟のうち60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争を解決する手続きです。

訴訟はハードルが高い、という場合は裁判外紛争処理制度の利用を検討してみましょう。これは、国民生活センターや消費生活センターなどの紛争調整機関が立ち会って紛争を調停・仲裁してくれる制度です。

当事者同士ではなかなか交渉が進まない原状回復をめぐるトラブルも、これらを利用することによって迅速な解決が期待できます。

原状回復トラブルを防ぐポイント

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

原状回復トラブルの大きな原因のひとつは、物件のキズや損耗が入居時にあったものかそうでないのかはっきりとしないことにあります。

そのため入居前の状況は必ず写真に残し、物件の状況をガイドライン内のリストで確認しておくようにしましょう。オーナーと入居者の双方が内容を把握し、署名しておくとより万全です。退去時に通常の使用を超える破損になるかどうかの判断材料となります。

トラブルが発生したときの相談先

もしトラブルが発生した場合、まずは付き合いのある管理会社に相談してみましょう。これまでの経験から対処法を提示してくれるはずです。

自主管理の場合は地方公共団体の相談窓口や消費生活センターなどの行政機関のほか、(公社)全国賃貸住宅経営者協力連合会がコールセンターを開設し、無料相談を受け付けています。

訴訟などが関わってくるときに心強いのが弁護士。不動産関連の法規に詳しい弁護士と普段から顧問契約を結んでおくと安心です。

入退去時のトラブル対処法を弁護士が解説!

原状回復費用の負担割合を表で解説!ガイドラインで定められている範囲とは2

オーナーズ・スタイル・ネットでは、弁護士の久保原先生・伊藤先生に寄稿いただいた「入退去時によくあるトラブル」の事例と対処法をQ&A形式でわかりやすくまとめています。以下で公開中ですので、こちらもぜひ参考にしてみてください。

まとめ

オーナー、入居者のそれぞれの原状回復の負担範囲や、原状回復トラブルなどについてまとめました。トラブルを未然に防ぐには、オーナーがまず原状回復ルールをしっかり理解することが第一。そのうえで入居者にも周知するようにしましょう。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は100ページを超えるボリュームがありますが、東京都によるガイドラインの概要版はカラーイラスト入りで読みやすく、入居者への配布にもおすすめです。英語版や中国語版はじめ6か国語分がリリースされています。

また、日常的な使用に伴う汚れや損耗の修繕については、原則オーナーが原状回復義務を負うため、普段から計画的な物件管理や、修繕資金の準備を心がけておくようにしましょう。

※この記事は2024年8月5日時点の情報をもとに作成しています

記事・文/石垣 光子

ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。

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