地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも

管理/空室対策
その他
この記事が気になる

【この記事が気になるとは】
会員様限定のサービスです。 会員の方は、「ログインする」そうでない方は、
会員登録して再度アクセスしてください。

ログインする ⁄  会員登録する
閉じる
公開日:2025年7月15日
更新日:2025年7月15日
地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも1

隣地との境界や面積などが正確に把握されていない土地が、実はまだ多く存在しています。これら土地の基礎情報=地籍を調査する「地籍調査」について、国土交通省が最新の実施状況を発表しました。スムーズな土地取引だけでなく、災害復旧やインフラ整備にも大きな役割を持つ地籍調査の概要を解説します。

地籍調査とは?土地の戸籍でトラブルを防ぐ仕組み

地籍とは、各土地の所有者、地番、地目、境界、面積などの基礎情報を指します。

土地ごとに所有者等に確認しながら地籍を調べていく作業が地籍調査です。1951(昭和26)年に制定された国土調査法にもとづき、70年以上にわたって全国で続けられています。

地籍調査の結果は地籍図・地籍簿として登記所備付地図となります。また、登記所備付地図は、2023(令和5)年よりオープンデータとして、G空間情報センターのウェブサイト上で無償公開もされています。

地籍調査によって土地の境界が明らかになることで、相続や売買の際のトラブルを防ぐことができます。さらに、万が一災害が発生したときにも、あらかじめ土地の境界が明らかになっていることで、道路やライフライン施設の復旧、住宅の再建などがスムーズに進みます。

地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2
地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2
地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2

地籍調査の効果は?災害復旧や都市開発で活躍する地籍調査

地籍調査は防災対策や都市開発に役立っている具体例に、次のようなものがあります。

東日本大震災における防災集団移転促進事業(2011年)

東日本大震災では、国の事業として被災区域から住民の集団移転を行っています。宮城県名取市では、約7カ月で移転事業を実施。地籍調査未実施の場合(推定)と比較すると、事業完了までの期間が半年から1年ほど短縮できました。

西日本豪雨における直轄砂防事業(2018年)

7月の豪雨により、広島県南部を中心に1,200カ所以上で土石流や地すべりなどの土砂災害が発生。広島県呉市天応地区では地籍調査が完了していたことで、県内調査未実施の地区と比べて砂防ダムの建築などに約3カ月早く着手することができました。

西九州自動車道の建築(2008年~2017年)

道路の建設はおおまかに用地買収と調査、道路工事から成り立っています。長崎県の伊万里松浦道路の建築においては、事業地区が地籍調査実施済みであったことで、事業期間が少なくとも約2年短縮できたとしています。

これらの例とは逆に、東京都港区の虎ノ門・麻布台地区の再開発事業では、地籍調査が未実施だったことで、土地の境界の確認や地籍の確定に約10年を要しました。

地籍調査の進捗は全国53%、優先地域は81%に

国土開発にも大きな恩恵をもたらす地籍調査ですが、70年以上前から始まり、全国の対象地域(国有林や河川などを除いた地域)での進捗率は53%。土地取引が行われる可能性がある「優先実施地域」での実施率は81%となります。

地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2

引用:「土地の戸籍」に関する最新の調査実施状況を公表します|国土交通省

全国の登記所に備え付けられている図面のうち、正確な測量に基づき作成された地図は全体の半数程度で、残りは明治時代に作られたものが大部分を占めているのです。

進捗率トップは和歌山県、災害対策が背景に

地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2

和歌山県和歌山市(坂ノ上丁方面)

2020(令和2)年度からの「第7次国土調査事業十箇年計画」中の進捗率は全国平均で1%程度と、なかなか進んでいないように思える地籍調査。しかし、進捗率が大きく伸びている県もあります。

全国1位の伸び率となったのが和歌山県で、8%調査が進みました。南海トラフ地震による被害が懸念される同県では、地籍調査によって津波浸水想定地域の地籍が明確化され、高速道路の整備などの効果が表れています。

2位の鳥取県(6%進捗)では、高精度な空中写真や航空レーザ測量等のリモートセンシングデータを利用することで、現地に行かずに調査できる新しい手法に積極的に取り組み、進捗を大きく伸ばしました。

3位の徳島県(5%進捗)も、南海トラフ地震に備えて「津波浸水想定2m以上の区域」を重点的に実施するなど防災・減災対策関連エリアを重点的に着実に調査が進んでいます。

調査加速へ「みなし確認制度」創設で対応強化

地籍調査が進まない要因のひとつに、土地の境界の明確化には所有者双方の合意のうえの確認が必要なことが挙げられます。

土地の資産価値が高い都市部では売買などで所有権が移動しやすいことや、権利意識の強さやトラブルを避けたい心理から、現地での立ち合いなどの協力が得られないことも多く、調査に費用と手間がかかります。

逆に、山村部では元々の図面の精度の低さや、所有者の高齢化・不在化によって境界の確認が困難に。加えて、地籍調査を実施する自治体で予算や職人の確保が難しく、元々の土地取引が少ないため調査の優先順位が高くなりにくいという実態があります。

そこで2024(令和6)年「地籍調査作業規程準則の一部を改正する省令」により、「土地境界のみなし確認制度」(無反応土地所有者への対応)が創設されました。

地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2

引用:「土地境界のみなし確認制度リーフレット」より

これは、土地の境界を確認する現地調査等の通知に応えない所有者等がいる場合に、書留郵便など複数回の通知を経て、市町村等が土地境界に関する情報を総合的に考慮して「筆界案」を作成。

その後、筆界案を所有者等に書留郵便で送付。受け取り後20日以内に所有者等が意見申し出をしない場合は、確認があったものとみなすという制度です。

地籍調査の確認方法と住民からの働きかけの可能性

地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2

地籍調査の費用は町村、都道府県、国が折半するため、所有者などの個人が負担することはありません。もし取引を検討している土地や相続予定の土地で地籍調査が行われているかを知りたければ、登記所に備え付けられている図面を確認しましょう。

また、最初の項でも触れた通り登記所備付地図は、G空間情報センターのウェブサイトでユーザー登録・ログインすることでも確認できます。地図の種類が「地籍図」となっていれば調査済みです。

地籍調査は各市町村が計画を立てて実施しています。今後の調査計画予定が気になる方は、各市町村の地籍調査担当窓口に問い合わせてみましょう。現在地籍調査がまだ行われていない場合、住民から実施の要望をあげ、町内会などを通じて働きかけていくことも可能です。

※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年7月15日時点のものです。

取材・文/石垣 光子

ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。

出典元

年4回無料で賃貸経営情報誌「オーナーズ・スタイル」をお届け!

地籍調査とは?70年以上前から続けて約半分の進捗。未調査の土地は相続や売買時のトラブルのリスクも2

この記事をシェアする

関連する企業レポート

関連するセミナー・イベント

関連する記事