外国人受け入れで成功しているオーナーは何をしている?
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外国人入居者は空室対策の切り札となるのか? 安心して部屋を貸すための対策とは? 長年にわたって外国人入居者を受け入れ、安定経営を続けてきた2人のオーナーの声をお届けしたい。
【Case1】築32年、家電付き、2口コンロ。コリアンタウンのワンルームは、外国人のおかげで空室知らず
国内有数のコリアンタウンとして多くの観光客が訪れる、東京・新大久保。JR「新大久保駅」から徒歩3分の好立地に、竹内恒彦さんが自主管理をするマンションはある。
「ここは隣の寺院からの借地で、父から引き継いだ木造アパートがありました。32年前に土地の一部返却を機に、4階建てマンションに建て替えました」と竹内さん。
新宿の歌舞伎町までも徒歩5分と近く、終電後も歩いて帰れるため、不夜城の歓楽街で働く人にとっては格好の立地。新築当時は相場より高い家賃でもすぐに埋まり、ワンルーム12戸は常に満室だったそうだ。しかし、バブル崩壊で一気に景気が冷え込み、入居者が減って家賃相場も下がり始めた。
「建築費で毎月多額のローンを抱えていましたから危機感が湧き、まずは空室を避けるために外国人を受け入れることにしました」
新大久保がコリアンタウンの賑わいを見せ始めたのは、韓国ドラマ「冬のソナタ」が流行った2003年頃から。ウォン高を追い風に韓国人留学生も増え、やがて街にタイ、ベトナムなどの東南アジア系外国人の姿も多くなっていく。
「この頃から周囲にマンションが増えて競争が激化し、敷礼金なしの看板も立ち始めました。ただ、外国人を敬遠する大家はまだ多く、不動産会社は外国人の借り手が現れると私の物件を真っ先に紹介してくれました。おかげで退去があっても1週間以内に埋まり、今まで空室に悩んだことはありません」
入居期間は平均3年で、中には6年住み続けている外国人もいる。竹内さんは入居者がスーツケース一つで来日しても生活できるよう、エアコン・冷蔵庫・電子レンジ・洗濯機などを備え付けにし、ユニットのミニキッチンは2口コンロに全て交換。今後は既存の3点ユニットもリフォームし、浴室とトイレを分ける予定だ。
現在、入居者の約半数が外国人。飲食店や会社勤めの韓国人やベトナム人、タイ人などアジア系が多いが、特にトラブルはないという。
「ゴミ出しも、分別ルールを最初にきちんと説明するので、外国人もちゃんと守ってくれますよ」
受け入れ態勢さえ整えれば、外国人は優良入居者になることを、竹内さんの笑顔が物語っていた。
新宿アパートマンション協会会長も務める竹内さん
【Case2】間取り変更で広いワンルームにし、ルームシェアも可に。入居者に寄り添うことで安定経営を実現
空室に悩み、外国人に目を向けると一気に状況が好転
東京メトロ副都心線「東新宿駅」から徒歩1分。多くのオフィスビルが立ち並ぶ通り沿いで、2棟35戸の賃貸マンションを経営する清水義夫さん。賃貸経営を始めたのは昭和48年、約50年前のことだ。
「以前はここで父が建材会社を営んでいて、私も大学卒業後、手伝っていました。やがて時代の波もあり、賃貸経営に興味が湧いたことから、建材会社をたたんで跡地に1棟目の4階建てマンション(1R×12戸)を、その4年後に2棟目の8階建てマンション(2DK×25戸)を建てました」と語る。
日本は高度成長期に入り、当初は苦労なく入居が決まったが、古くなるにつれて陰りが見えてくる。
「副都心線ができたので今でこそ駅近ですが、当時は新宿駅などから徒歩10分以上かかるため、客付けに時間がかかりがちで、築20年の頃には空室が目立つようになりました。質の高い部屋を求める日本人に、家賃を下げずに借りてもらうのは難しいと判断し、目を向けたのが外国人でした。歌舞伎町に近いので、飲食店に勤める東南アジア系外国人が、ここにはたくさんいましたから」と清水さん。
外国人を対象にすると、状況は一気に好転。同じ出身国同士のネットワークで物件情報がまわり、退去から1カ月程度で入居が決まるようになった。物件の古さは全く問題にならなかったという。
「入居者に中国系マレーシア人の親切な男性がいて、同郷の入居希望者をよく紹介してくれましたし、家賃が滞ると回収にも行ってくれたので助かりました。こうした経験もあって、外国人には最初から好印象を抱きました」
外国人好みの間取りに変更、複数人でルームシェアも可に
現在、外国人入居者の割合は3割程度。周辺の日本語学校に通うベトナム人やネパール人が多いそうだ。外国人が暮らしやすいよう、元は3畳+6畳の2DKだった間取りを、押入れも取り払って40平米の広いワンルームに改装。ルームシェアも可にした。また、外国人は湯船に浸かる習慣がないので浴槽を撤去してシャワーを付け、洗濯機を設置して利便性を高めた。
外国人との言葉の壁や生活習慣の違いによるトラブルに不安を抱くオーナーもいるが、適切な対処で予防できると清水さんは言う。
「敷金・礼金をなしにする代わりに外国人専門の家賃保証会社と契約してもらい、費用は入居者負担です。万一滞納があれば、母国語で『連絡をください』と書いた張り紙をし、1週間経っても連絡がなければ直接訪問します。実際、今までに大きなトラブルはありません」
長年順調に経営を続ける清水さんだが、決して待ちの姿勢ではない。日頃からネットや情報誌などで不動産会社をこまめにチェックし、空室が出ると、募集図面を持って新大久保界隈の不動産会社を一日10件ほど訪れるなど、積極的に営業を行う。また、ミャンマー人やベトナム人などが集まるイベントに参加し、情報収集も怠らない。
「何よりも気持ちよく住んでもらいたいので、中国語、ベトナム語、ネパール語などの挨拶を覚え、入居者に出会ったら、その方の母国語で声を掛けます」と清水さん。
こうした外国人入居者への温かい眼差しが、長年にわたる安定経営を支えてきたのだろう。
※この記事内のデータ、数値などに関しては2019年6月4日時点の情報です。
取材・文/菱沼 晶 撮影/青木 茂也