【2025年の賃貸住宅建築を展望】金利と建築費アップ、工期遅れの三重苦を跳ね返す。大競争・大相続時代へ、逆風に打ち勝つ事業計画を
- 市況・マーケット
「ヒト×モノ」の両面から建築コストは押し上げられ、事業計画の難しさが増している。来るべき相続ラッシュの大競争時代に備え、向かい風を推進力に変えるには、家賃の上昇を付加価値アップに活かす発想の転換がカギ。いま求められる「ソフト」の力を、経済・社会問題評論家の牧野氏が伝授します。
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産で各種不動産投資業務に従事。2015年オラガ総研を設立、代表取締役に就任。著書やメディア出演も多い。
この記事のPoint
●建築費も金利もアップ。コスト上昇でも成立する事業計画を立てる
●エリアの見極めが大事。人口の新陳代謝が活発な街に賃貸ニーズあり
●プラスよりマイナスを避ける。ハードよりソフトの特徴を出すべし
建築費は3割以上アップ。円安と人件費が押し上げ
建築費の高騰については、各方面の報道により、すでにご存じの方も多いでしょう。実際に工事費は7~8年前に比べて3~4割は上昇しています。構造別では、特に鉄筋コンクリート(RC)造の上昇が激しい状況です。
建築費高騰の理由の1つは、資材や設備の価格が、円安の影響などもあって上昇していること。特にバス・トイレ、キッチンなどの水まわり関係の住宅設備機器が顕著に上がっています。
しかし、それ以上に厳しいのが人件費の高騰です。2024年4月から建設業の残業規制が始まり、従来にも増して人材不足が深刻化。各地で大型ビルの建設着工延期が露呈しているほどです。大型マンションの建築現場で、エレベータの設備自体は届いたものの、引き渡し直前までに設置する技能工が確保できないために工事が遅延した例もありました。現場監督の手配も滞っています。
今後も現在のペースで建設着工件数が続くと、建設作業員や現場監督の奪い合いが起きかねません。人材不足の中での需要高が人件費を押し上げており、当面、建築費の上昇が収まる可能性は低いでしょう。
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金利はプラス1%を見込む。家賃への転嫁も検討
賃貸経営に影響する要素としては、先高観が強まっている融資金利の動向も挙げられます。今後、プラス1%程度のアップを見込んで収支計画を立てるべきです。
借入時の金利タイプについては、10年程度の短期で返済できるなら変動型でも良いでしょう。30年の長期返済で変動型を選ぶのはリスクが高まります。住宅ローンでは金利上昇リスクを軽減できる固定と変動のミックス型が出ています。アパートローンでの取り扱いを金融機関で相談してみましょう。
ただ金利上昇は賃貸経営にとってマイナスだけではありません。正常な経済下であれば、金利アップは景気浮揚や家賃アップにつながります。住宅ローンと違って、アパートローンの返済原資は入居者が支払う家賃です。金利が上がっても、家賃を値上げできればキャッシュフローは変わりません。
企業が優秀な人材の確保のため、福利厚生として家賃補助や寮・社宅を整備する例も増えており、家賃アップできる環境でもあります。建築コストが膨らんだ分を家賃に転嫁しても入居者を獲得できる、事業計画の立案が大切です。
固定と変動の組み合わせ「ミックスローン」とは?
「ミックスローン」とは、1人の契約者が固定型と変動型の異なる金利タイプを組み合わせて借り入れるローンのこと。一般に、金利水準は変動型より固定型が高めだが、変動は金利上昇リスクがあります。ミックスローンは双方のデメリットをやわらげ、リスクを低減できます。
単身高齢者の激増で家あまり・土地あまりが加速
では、これから賃貸住宅の新築を予定しているオーナーが具体的に気を付ける事は何でしょうか。
まず、現在の賃貸市場は“大競争時代”に入っていることを認識する必要があります。家余り、土地余りが加速しているからです。
大都市圏では世帯数が増えているため、まだまだ賃貸需要はあります。しかし世帯数の内訳を見ると、高齢単身者が急増している状況。首都圏の高齢者人口は900万人を超え、その半数は75歳以上の後期高齢者です。向こう10年の間に“大相続時代”に突入し、土地・住宅の売却や建て替えが急増するでしょう。
相続対策のために賃貸住宅を建築する動きもあり、賃貸住宅の新設着工もコンスタントに続いています。
賃貸ニーズを呼び込む入れ替わりの激しいエリア
次に、土地を所有しているエリアで、これから数十年にわたって賃貸住宅経営を続けられるかどうかを見極める必要があります。
一般に、人が集まるエリアには賃貸ニーズが期待できるといわれています。しかし、人口増加だけでは十分ではありません。人口動態の中で、転入者と転出者の両方が多く、人の入れ替わりがあることが重要です。いわば“新陳代謝”が活発な街といえるでしょう。
具体的には、自治体の資料で、転出入の合計が総人口に占める割合を調べます。それが10%を超えていれば、土地の価格も上がりますし、賃貸ニーズも高い。転入だけが多いエリアは、開発されたマンションへの一時的な人口流入の可能性も考えられるため、数年の動きを見ることが大切です。
代謝が低いエリアや「立地適正化計画」の居住誘導区域外など、今後、発展の見込みがない地域なら、売却も含めて資産の見直しを考えましょう。
エリアを見極めるカギの1つ。「立地適性化計画」とは?
都市機能を集約したコンパクトシティを目指して自治体が策定する「立地適性化計画」。住宅や店舗、公的施設などを誘導する「居住誘導区域」「都市機能誘導区域」などが定められています。
居住誘導区域外に3戸以上の住宅を新築する場合には、着手の30日前までに市町村長への届け出が必要で、誘導に支障が生じる場合には勧告を受けることがあります。
誘導区域から外れたエリアはインフラ整備や行政サービスが手薄になり、将来的に資産価値が下がるおそれも。建築エリアを見極める要素の1つです。
場所によっては賃貸住宅以外の活用法も
インバウンドの復活で再び注目を集める「民泊」。自治体によって稼働日数が制限されますが、繁華街周辺など、場所によっては1カ月分の家賃を数日で稼ぐケースも。旅館業法の許可を取った簡易宿所を運営会社に任せる方法も増えています。
10年後の標準装備に着目。特典付きサービスも有効
新陳代謝が活発なエリアは継続的な賃貸経営が可能ですが、競合物件も多く、ライバルに勝つためには、プランの工夫が必須です。
設備仕様については、「10年後に当たり前になっている設備仕様」を採用するべきです。例えば、国が推進している省エネ性能の高いZEH(ゼロエネルギー住宅)は、建築コストが上がるため、採用を迷うケースもあるでしょう。
しかし2030年にはZEHの標準化が目指されており、今から建築する際に導入しなければ、将来、確実に競争力が落ちてしまいます。プラスの付加価値を付ける以前に、マイナス要素を避けることが大事。宅配ボックスや高速インターネットは、すでにあって当然の設備になっています。
プランを検討する場合、設備仕様などのハード面に目が向きがちですが、これからはソフト(サービス)が大切です。例えばペットショップと提携して、フードの購入やシッターの派遣を割安で受けられるペット飼育者専用賃貸など「この賃貸住宅ならではのお得感がある」特徴を出しましょう。
また子育て世帯専用や高齢独身者向け、楽器演奏可能など、ターゲットを共通項で絞るのも、これからの競争を勝ち抜く秘訣です。
※この記事は2024年11月26日時点の情報をもとに制作しています。