耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説

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公開日:2025年1月23日
更新日:2025年2月12日
耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説1

日本では、今後30年以内に大きな地震が発生する確率が高いと予想されています。所有している賃貸物件が築年数を重ね、そろそろ耐震工事の必要性を感じているオーナーもいらっしゃるかもしれません。今回は、耐震工事を行うための費用相場や流れについてまとめました。

耐震工事の費用相場ってどのくらい?

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

耐震補強全体でかかる費用の目安

耐震改修については、国交省が工事費目安のパンフレットを2020年に発行しています。

実施されている耐震改修工事の全体的な傾向は、木造住宅(2階建て)では100~150万円の工事が最も多く、3~5階建ての共同住宅では半数以上の工事が約10,000円/㎡未満で行われ、中央値は9,421万円/㎡でした。

耐震改修工事費の目安として示されているのが、以下の算定式です。

木造住宅(2階建て)の耐震改修工事費の目安
耐震改修工事費(万円)=12.1 × 延べ面積(㎡)0.58

 

共同住宅(3〜5階建て)の耐震改修工事費の目安
耐震改修工事費(万円)= 43.8 × 延べ面積(㎡)0.47

 

例えば、3階建てのマンションなどで建物の延床面積が300㎡の場合は640万円、500㎡で820万円が耐震改修工事費の目安となります。

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

しかし上記の耐震改修工事費は5年前の目安となるため、昨今の資材・人件費高騰により、直近の状況で計算するともう少し高くなるかもしれません。

また、耐震診断の結果(建物の状況)によって工事費にはバラつきが生じます。特に1981年5月31日以前に建築確認をとった「旧耐震基準」の建物は現行の基準を満たしておらず、耐震改修工事の費用が高額になりがちです。

耐震補強の費用次第では、建て替えを選んだ方が良い場合もあります。建て替えるかどうかの判断基準は後の項で解説します。

場所別の耐震補強方法と費用の目安

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

築年数がそこまで古くない建物であれば、全体のバランスが崩れないように配慮しつつ、耐震性が気になる部分のみに補強工事を行うことも可能です。場所別の耐震補強工事の内容と費用の目安は次の通りです(耐震診断の結果や建物の使用状態、立地などによっても工事費は変わるため、あくまで目安となります)。

壁の耐震補強方法と費用の目安

壁の耐震補強は、柱と柱の間に筋交いを設置したり、構造用合板や耐震パネルを取り付けたりすることで強度を増す方法で行います。補強費用の目安はだいたい1カ所あたり9万〜15万円程度となります。

柱の耐震補強方法と費用の目安

柱の耐震補強としては、柱と土台などの接合部に耐震金物を設置する方法が一般的です。耐震金物は1個1万〜3万円程度で、10個取り付けたとして10〜30万円+取付工事費が目安です。柱そのものが老朽化し、基礎や柱周りの梁を含む大規模な工事になった場合は100〜300万円程度になります。

屋根の耐震補強方法と費用の目安

屋根は軽量であれば建物にかかる荷重が少なく、地震の揺れも軽減できます。屋根を軽量のスレート屋根に吹き替える工事は1㎡あたり5,000〜7,000円ほどが相場となっています。

基礎の耐震補強方法と費用の目安

基礎部分の耐震補強は、ひび割れがあればそこに樹脂を注入し、中の鉄筋が錆びないようにします。その場合は数万円〜20万円程度が相場です。また、既存の基礎自体が弱い場合は鉄筋コンクリートの増し打ち、さらに基礎の劣化が進み打ち直す場合は数百万円単位での工事となります。

住宅タイプ別の耐震補強費用の相場

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

耐震工事にかかる費用は建物の構造によっても異なります。主な構造における耐震補強工事の費用相場は以下の通りです。

木造住宅の場合

日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)の調査データによると、木造住宅の耐震補強工事の平均額は161万4,920円です。そのうち、旧耐震基準で建てられた建物の工事費平均額は182万9,944円、新耐震は 145万9,843円となっています。

鉄筋コンクリート・マンションの場合

個人の住宅と違い、建物の規模が大きい鉄筋コンクリートのマンション。東京都が2013年に行ったマンション実態調査によると、旧耐震分譲マンションの耐震改修工事費用で最も多かった金額帯が500超〜1,000万円(22.6%)で、次いで1,000超〜3,000万円(20.4%)でした。1億円超も9.7%と1割近くあります。

旧耐震の賃貸マンションに関しては最多の費用帯が100超〜300万円(34.4%)、次いで500超〜1,000万円(25.0%)となっています。

アパートの場合

冒頭にご紹介した国交省の耐震改修工事費目安のパンフレットを参照にすると、共同住宅(3〜5階建て)は建物の延床面積が200㎡の場合は530万円、300㎡で640万円、500㎡で820万円、750㎡で990万円、1000㎡で1,130万円となります。

木造2階建てアパートは木造住宅(2階建て)の算定式を当てはめると、建物の延床面積が150㎡の場合は230万円、200㎡の場合は270万円、300㎡で340万円です。この金額に共用部分の工事費がプラスされます。また、工事費とは別に、工事期間中の入居者の仮住まい費用などが必要になる場合もあります。

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耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

耐震補強工事の費用をおさえる!補助金・減税制度をピックアップ

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

耐震補強工事に活用できる補助金・助成金

各市区町村では、耐震診断や耐震補強工事に様々な助成金が設けられています。自治体によって旧耐震の建物のみが対象のものや、耐震リフォームだけでなく建て替えや除去まで助成するものなど内容が異なります。

東京都のホームページでは区市町村の耐震化促進事業に係る助成制度一覧を検索することができますので、参考にしてみてください。

例えば足立区では、区の耐震診断助成を受けて補強の必要があると認められた木造アパートに対して工事費用の2分の1以内、上限3,000万円の助成制度があります。元々は令和5年度までの助成金でしたが、令和7年度までの3年間限定で大幅に拡充されました。

お住まいの自治体でも助成制度がないか検索してみましょう。

減税制度

耐震改修には税制優遇制度も設けられています。一定の要件を満たす住宅に耐震改修工事を行った場合、工事金額の10%が所得税から控除されます(令和7年12月31日まで)。

さらに、昭和57年1月1日以前に建てた住宅を現行の耐震基準に適合する耐震改修工事を行った場合、翌年度分の固定資産税が1/2に減額されます(令和8年3月31日まで)。

耐震補強か建て替えか。判断のポイント

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

耐震補強工事にかかる費用を考えると、いっそのこと新築の物件に建て替えた方がいいのかと迷われるオーナーもいるかもしれません。

アパートの建て替えにかかる費用は大まかに「建築費用+諸費用」「入居者の退去費用」「解体費用」に分けられます。仮に全8戸の木造2階建てアパートを建築するとなると、建築費6,000万円+諸費用1,200万円(建築費の20%)+退去費用400万円(50万円×8戸分)+解体費400万円として、8,000万円程度がかかります。

また、建て替えのための立ち退きもスムーズにいくとは限らず、建築中の1年余りは家賃収入が途絶えてしまうことになります。建て替えるのか、このまま耐震工事をしつつ経営を続けていくのかは10年後、20年後のキャッシュフローを計算して慎重に判断する必要があります。

一般的には、築50年以上で建物の耐久性に不安があり、空室率5割超が続いている状態であれば建て替えを検討した方が良いとされます。しかし、周辺環境の変化などで高さ制限や建ぺい率・容積率が変わっている場合もあるので、同じ土地に同規模の建物が建てられるとは限りません。耐震診断を行ったうえで、耐震補強を含めた大規模修繕を選ぶこともあるでしょう。

耐震工事が必要なシチュエーション

次の地震がいつ起きるかは誰にもわかりません。まずは建物の耐震診断と、その結果をふまえた耐震補強工事が必要かどうかをご自身で確認してみましょう。耐震工事が必要なケースには次のようなものが考えられます。

旧耐震基準の建物

1981(昭和56)年6月1日に建築基準法の改正により定められた新耐震基準では、震度6強~7程度の揺れで家屋が倒壊・崩壊しないことを基準としています。建築確認の日付が「1981年5月31日以前」であれば「旧耐震基準」、つまり現在の基準においては不十分な耐震性能ということになります。

2000年5月以前に建築した建物

2000(平成12)年6月の耐震基準改正で、建物の接合部の金物使用や耐力壁の配置について詳細な基準が設けられました。これが「2000年基準」です。いわゆる「新耐震基準」であっても、2000年5月までに建てられた建物は耐震性にばらつきがあるため、耐震診断を受けておいた方が安心です。

地盤が弱い土地に建っている

いくら耐震性の高い建物でも、地盤が弱ければ地震で沈下したり、傾いてしまったりする危険性があります。新築の際の地盤調査は2000年から義務付けられていますが、それ以前の建築であれば、地盤の状態がわからないことも。河川や海が近い場所や埋立地などは地盤が弱い可能性があります。

信頼できる耐震補強の工事業者を選ぶポイント

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

耐震診断・耐震補強については残念ながら詐欺まがいのトラブルも多く、工事業者選びは慎重に行う必要があります。具体的には、以下のようなポイントで複数の候補を挙げて検討しましょう。

これまでの耐震補強実績

新築工事と違い、耐震補強工事は建物の状況や地盤、施主の求めるレベルなどすべてがケースバイケースです。また、実際に解体してみると竣工図面通りでないこともよくあるといいます。このような工事では経験と実績が特に重要になるので、お持ちの物件と同規模の賃貸物件で耐震補強工事を多く手がけている業者であればさらに安心です。

保有資格

「国土交通大臣登録耐震診断資格者講習」を受講修了した耐震診断資格者や、耐震改修技術資格者であることを確認しましょう。資格の他にも、一定の要件を満たす業者の登録制度をとっている市区町村もあります。登録業者が工事を行うことを助成の条件にしている自治体も多いため、まずは登録制度があるか確認してみましょう。

相見積もり

何社かの業者に絞れたら、相見積もりをとって検討します。見積金額の高い・安いだけでなく、どうしてその金額になっているのか、安全のために必要な費用であることなどを納得がいくまで説明してくれる業者を選ぶようにしましょう。

耐震補強工事の流れ

耐震工事をするのに費用はどのぐらい必要?詳しい方法や補助金などを解説2

ここからは、耐震診断から耐震補強工事までの具体的な流れを見ていきましょう。耐震診断や補強工事の手順は、建物の構造によっても変わりますが、大まかには次のように工事は進みます。

耐震診断を行う

耐震診断を行う前に、建物の状況や予算、スケジュールを確認します。耐震診断のやり方や費用は構造によっても違い、いくつかの業者から見積もりをとって判断するのおすすめです。

耐震診断費用の助成を受ける場合は業者が決まっている場合や、先に自治体による簡易診断が必要な場合があるため、あらかじめ調べておきましょう。

診断費用の目安

(一財)日本耐震診断協会によると、耐震診断の料金(費用)の目安は延床面積が120㎡程の木造在来軸組構法の建物でおおよそ60~100万円です。ただし竣工時の図面が無い場合は、建物を実測して耐震診断に必要な図面を作成する料金が発生します。

S造(鉄骨造)で延床面積が1,000~3,000㎡の建物で診断費用目安が約2,500~4,000円/㎡、RC造(鉄筋コンクリート造)で延床面積1,000~3,000㎡の建物で約2,000~3,500 円/㎡としています。

予備調査

予備調査では、建物の設計図書の有無の確認、建物の概要(延床面積や竣工年など)、建物の構造種別や増改築の履歴、建築確認通知書、検査済証などの有無を事前に把握・収集します。現地調査を行うにあたって支障がないかを確認します。

現地調査

現地調査は、木造の場合には専門家が目視で診断するのが一般的ですが、伝統工法などで建てられた建物では精密診断を行う場合もあります。木造以外のRC造などの建物は1次診断法、2次診断法と進み、コンクリートの強度や鉄筋量などを計算します。

耐震補強案・設計案の作成

診断によって算出された基準値によって耐震性能のレベルを判断します。基準値は構造耐震指標と呼ばれ、鉄骨造やRC造、SRC造の診断をする際に使われる「Is値」と木造住宅の診断をする際に使われる「Iw値」があります。

Is値は0.6以上、Iw値は1.0以上で耐震性OK(=倒壊、崩壊する危険性が低い)とされます。この値以上になるように、耐力壁の量とバランスを考慮しながら建物のどの位置にどのような補強が必要かを計画します。

補強工事の実施

補強設計図をもとに、まずは補強箇所の解体を始めます。実際に解体してみると壁や梁の位置やサイズ、老朽の度合いが想定と異なっていることも。そのような場合は実状に合わせて補強設計を見直しながら、工事を進めていきます。

まとめ

地震大国といわれる日本。世界中で起きるM6.0以上の地震の約20%が、地球の表面の1%の面積に過ぎない日本とその周辺で起きています。もし地震で建物が損壊し、入居者がけがをしたり亡くなったりしてしまった場合、賃貸オーナーに賠償責任が生じるケースもあります。

入居者に安全な住まいを提供することはもちろん、自身の資産を守るためにも早めに耐震診断を受け、必要に応じて耐震補強工事を行うようにしましょう。

※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2024年1月21日時点のものです。

取材・文/石垣 光子

ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。

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