【築古を価値に変える不動産再⽣】築古を「ビンテージ」というブランドに。「共感不動産」の広がりが老朽ビルと地域のこれからをつくる
築年数が進み、空室や家賃下落に頭を悩ませているオーナーは少なくありません。リノベーションという言葉が一般的でなかった時代に、承継した老朽ビルの経営再生に着手し、「ビンテージビル」という概念を生んだ𠮷原さんに、現場で実感している「今、オーナーが考えるべきポイント」を語っていただきました。家賃を下げる前に見直すべきこと、築古だからこそ生かせる考え方とは何か。机上の理論ではなく、実務経験に基づいたリアルなアドバイスは必見です。
株式会社𠮷原住宅 代表取締役
株式会社スペースRデザイン 代表取締役
𠮷原 勝己 氏
1961年福岡市生まれ。九州大学理学部卒業後、製薬会社にて研究開発に従事。経年不動産再生事業のかたわら、オーナー向け勉強会「オーナー井戸端ミーティング」も主宰。
4月18日(土)の大家さんフェスタに𠮷原氏が登壇!イベントの詳細・予約はこちら
「共感」を生むことが築古ビル再生のカギ
親から引き継いだ老朽ビルや、60棟以上の経年不動産の経営再生事業を通して、私は古い建物の可能性を知ることができました。古くなるほど価値を持つ「ビンテージビル」という賃貸のあり方を、多くのオーナーと共有する活動を行っていますが、築古再生の鍵は「共感」を生むことにあると考えています。
最初に経営再生に取り組んだのは2003年、福岡市にある当時で築40年の山王マンションです。外観も室内もひどく荒れ、何も手を打たなければ数年後には会社が倒産するような経営状況でした。
「うちの物件がボロボロなんだけど、こんな部屋に住めたらいいなというアイデアがほしい」と友人たちに訊ねると、素晴らしい案がたくさん出てきました。新築には建築のプロが必要ですが、不動産再生には必ずしもそうではない。「生活者目線」の意見は、リノベーションに大いに役立ちました。
この学びをもとに、新進気鋭のデザイナーやアーティストに部屋のデザインを依頼したり、地域の学生を巻き込んだデザインコンペを開催。入居者と一緒にDIYで部屋をつくる企画では、リフォーム費用が抑えられただけでなく、部屋に愛着が湧くことで大切に使ってくれるようになり、入居者との距離も近くなりました。
こうした取り組みを続けていくうちに、私たちの理想やビジョンに共感する人が次第に集まり、クリエイターやアーティストをはじめ、いろんな人たちが物件づくりの「仲間」になってくれたのです。

賃貸リノベーションの先駆けで、全45 室中37 室に異なるデザインが施されている
そんな中、ある入居者から「建築当時の内装や外観も良い」と言われ、それを支持する人がどんどん現れました。考えてみると、ピカピカに磨かれた古い老舗旅館は満足度が高い。賃貸物件にその発想がなかったのが不思議なくらいですが、「経年は劣化ではなく優価」という視点に、入居者のおかげで気づくことができました。
世の中には、古いからこそ共感を持って集まってくる人たちがいます。賃貸物件にもかかわらず、山王マンションでは入居者が自発的に集まり、パーティーを開催することもありました。レトロなものやリノベ好きが集まるこの建物だからこそ、ごく自然に良好な人間関係が生まれるのです。

築古ビル文化が体験できるイベントも実施。アメリカのウェブマガジン「Architizer」の住宅インテリア部門審査員賞(2014)や、福岡県美しいまちづくり建築(2015)を受賞
また、文化祭やマルシェなど、地域の人たちが参加できるイベントも開催しています。このように、共感して集まった人たちによって文化が生まれることで、物件の魅力が増し、価値が高まるのです。
山王マンションは2014年に第一期耐震補強工事を実施しました。現在は建築当時の外観やパーツを活かしたビンテージビルとして、新築と競合せず、新築並みの賃料でフル稼働しています。
【事例】スラム化したビルが人とまちをつなぐ拠点に
老朽化でスラム化した集合住宅を事務所ビルへ。イベントや見学会を開催し、文化を発信する拠点となっています。
イベントや見学会を開催し、文化を発信する拠点となっています。福岡市都市景観賞(2012)受賞。2024年には戦後の民間RC造集合住宅として初の国登録有形文化財(建造物)に指定されました。
【事例】リノベーションだけに頼らない都市部以外での築古物件の再生
久留米市にある団地の再生事例。木陰があれば自然とそこに人が集まるという「アフォーダンス」の考えのもと、ウッドデッキやピザ窯、菜園といった入居者などから募ったアイデアでランドスケープを描き、入居者と一緒に実行しています。
築古物件はオーナーだけでなく地域の資産になりうる
これからの時代、賃貸オーナーはただの大家ではなく、経営者にならないといけません。経営の基本はビジョンです。どんな思いで経営しているのか明言できなければ、入居者に選ばれません。
そして、ビジョンに基づいて適切な修繕や改修を行い、入居者や地域などあらゆる人との関係性づくりが必要です。そのために、学び合い、伝え合い、共感し合う。これをやり続けられるかどうかで、数十年後の物件に差が出てきます。
築古ビルは町の資産です。特に地方再生において、築古物件の再生は重要だと感じます。オーナー目線で見ると、空室が目立つ物件がビンテージビルという考え方でブランドに変わる。そこに共感し集まった入居者にとっては、無縁社会が人と人とのつながりに変わる。
衰退している地域にとっては、ビルが元気になることで町づくりにつながる。築古は自らの経営どころか、町や地域を変える力があります。賃貸オーナーは単なる資産家ではなく、町を維持し、未来を創る役割を担っているのです。
※本記事は2025 年9月27日開催の「賃貸経営+相続対策大家さんフェスタin 福岡」での講演を再編集したものです














