家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢

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公開日:2026年9月10日
更新日:2026年9月10日
家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢1

様々なコストなどの上昇を背景に、賃貸経営でも家賃の見直しが重要なテーマになっています。しかし、いざ値上げをしようとすると二の足を踏むオーナーも少なくありません。そこで今回は帝国不動産株式会社が首都圏の一棟賃貸オーナー1,000人を対象に実施した調査をもとに「家賃を上げたいのに動けない」という賃貸オーナーの悩みに対し、定期借家契約はどのような選択肢になり得るのかを解説いたします。

家賃は上げたい。でも、入居者の退去が怖い

賃貸経営において、家賃の値上げは収益改善の有効な手段の一つです。とくに近年は、物価上昇に加えて設備・資材価格や人件費、修繕費なども上昇しており、以前と同じ賃料では収益を維持することが難しくなっています。

一方、オーナー側の事情だけで簡単に値上げできるわけではありません。入居者にとって家賃は毎月発生する固定的な支出であり、値上げ幅によっては退去を検討するきっかけにもなりかねません。

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

今回の調査では、過去2年間に賃料を引き上げたオーナーは56.7%。半数以上が実際に値上げを行っている一方、「家賃を思うように引き上げられていない」と感じるオーナーも存在します。

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

その理由として最も多かったのが、「普通借家契約のため、更新時に値上げを切り出しにくい」の35.8%でした。続いて「入居者が退去しそうで踏み切れない」が30.0%となっています。

つまり、賃料相場が上昇していても、オーナーが自由に家賃を動かせるとは限りません。ここで注目されているのが、普通借家契約とは異なる仕組みを持つ「定期借家契約」です。

「更新しない」という定期借家の仕組み

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

定期借家契約とは、あらかじめ契約期間を定め、期間満了によって契約が終了する賃貸借契約です。普通借家契約とは異なり、契約期間が満了したからといって原則として自動的に更新されることはありません。借地借家法第38条に定められた制度です。

ただし、契約期間が終われば必ず入居者が退去するというわけではありません。貸主と借主が合意すれば、改めて「再契約」を結んで住み続けてもらうことができます。ここが、定期借家契約を理解するうえで重要なポイントです。

普通借家契約では「契約を更新して入居を継続する」ことが基本となるのに対し、定期借家契約では「いったん契約を終了し、その後に再契約する」という仕組みになります。そのため、再契約のタイミングで、周辺の賃料相場や物件の状態、維持・修繕コストなどを踏まえて、賃料や契約条件を改めて協議することが可能です。

もちろん、定期借家だからといって、オーナーが一方的に希望する金額へ値上げできるわけではありません。再契約には借主の合意が必要です。あくまで「契約期間ごとに条件を見直す機会をつくりやすい」という点が特徴だと考えるべきでしょう。

普通借家が「値上げの壁」になる理由

では、なぜ今、定期借家契約への関心が高まっているのでしょうか。その背景にあるのは、賃料相場と既存契約の家賃とのギャップです。

新規募集では市場相場に合わせて家賃を設定できても、長期間入居している人の家賃は、契約開始当時の水準のままというケースがあります。周辺相場が上昇しているにもかかわらず、既存入居者の家賃だけが低いままでは、物価や修繕費の上昇分を収益に反映しにくくなります。

しかも、普通借家契約では、更新時だからといってオーナーが自由に賃料を変更できるわけではありません。賃料の増額を求めることは可能ですが、借主との協議が必要となるため、交渉が難航する場合もあり得ます。

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

今回の調査でも、普通借家契約を理由に値上げを切り出しにくいと回答したオーナーのうち、77.9%が定期借家契約の導入に前向きでした。また、「入居者が退去しそうで値上げに踏み切れない」と回答したオーナーでも、82.0%が定期借家契約の導入に前向きという結果になっています。

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

さらに、「定期借家契約は賃料改定がしやすそうで興味がある」と回答したオーナーでは、91.3%が導入に前向きでした。こうした数字からも、定期借家契約が「入居期間を限定するための制度」というだけでなく、変化する賃貸市場に対応するための賃料戦略として関心を集めていることが分かります。

定期借家なら、賃料戦略を組み立てやすい

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

定期借家契約を活用するメリットは、単純に「家賃を上げやすい」ことだけではありません。

たとえば、2年間の定期借家契約を結んだ場合、2年後には契約が終了します。入居者に引き続き住んでもらう場合は、貸主と借主が新たな契約について合意する必要があります。

このタイミングで、周辺の賃料相場や物件の競争力、修繕コストなどを確認し、次の契約条件を検討できます。市場が上昇していれば賃料を見直す。一方、競合物件が増えていれば、無理に値上げせず現在の条件を維持する。設備を更新したのであれば、その価値を賃料に反映させる―。こうした判断を、契約期間を一つの区切りとして行いやすくなる点が定期借家契約の魅力なのです。

たとえば、月8万円の家賃で普通借家契約を続けている物件では、更新のたびに交渉が必要になり、実際に上げられても数百円程度にとどまるケースも珍しくありません。一方、2年契約の定期借家であれば、再契約のタイミングで周辺相場(たとえば月8.3万円程度)を踏まえて条件を見直せるため、無理なく段階的に賃料を適正化しやすくなります。

また、定期借家契約は物件の出口戦略とも相性があります。将来的に建て替えや大規模修繕、売却などを予定している場合、契約期間を設定できることはオーナーにとってメリットになります。あらかじめ将来の活用方法を考えたうえで契約期間を設定すれば、物件の運用計画を立てやすくなるからです。

ただし、短い契約期間を設定すれば必ず入居者が集まるわけではありません。入居者にとっては、普通借家契約よりも居住の継続性に不安を感じる可能性があるからです。そのため、定期借家契約を導入する際には、物件の立地や入居者層、契約期間などを考慮し、「この条件でも選ばれる物件か」を見極めることが重要です。

便利な制度だからこそ、契約時の落とし穴に注意

定期借家契約にはメリットがある一方、導入時には普通借家契約以上に注意したい点がいくつかあります。

まず、定期借家契約では、契約の更新がなく、期間満了によって契約が終了することについて、あらかじめ書面を交付して説明する必要があります。契約書を作成するだけでなく、法律で定められた手続きを適切に行わなければなりません。また、契約期間が1年以上の場合、期間満了によって契約が終了することを、期間満了の1年前から6カ月前までの間に入居者へ通知する必要があります。

こうした手続きを適切に行わなければ、思わぬトラブルにつながる可能性があります。実際の導入にあたっては、管理会社や不動産会社などの専門家と相談しながら進めることが大切です。

さらに注意したいのが、現在すでに普通借家契約で入居している物件です。既存の普通借家契約を、オーナーの判断だけで定期借家契約に変更することはできません。入居者との合意が必要になるため、「家賃を上げたいから、次回から定期借家に変更する」と一方的に進めることはできないのです。

そのため、定期借家契約は既存入居者への値上げ対策として急に導入するというより、新規募集や入居者の入れ替わりなどのタイミングで、物件の将来計画と合わせて検討するのが現実的でしょう。

定期借家契約の導入を検討する際は、まず管理会社や不動産会社に、対象物件が向いているか(立地・入居者層・契約期間)を相談し、書面交付や事前通知などの手続きを一緒に確認しておくとスムーズです。

まとめ:値上げだけではない。定期借家を経営の選択肢に

賃料相場が上昇しているからといって、単純に家賃を引き上げれば賃貸経営が安定するとは限りません。値上げによって入居者が退去し、空室期間が長引けば、かえって収益を圧迫する可能性もあります。

重要なのは、現在の市場環境と物件の競争力を見極めたうえで、どのタイミングで、どの程度の賃料を設定するかを考えることです。

家賃を上げたいのに上げられない。その壁を越える「定期借家」という選択肢2

今回の調査では、過去2年間に賃料を引き上げたオーナーのうち、収益が「改善した」と回答した割合は32.1%でした。一方、賃料について「わからない・管理会社任せ」としたオーナーでは、収益が改善した割合は7.5%にとどまっています。

賃貸経営を取り巻くコストや市場環境が変化するなか、家賃を「なんとなく据え置く」のではなく、相場や物件価値を定期的に確認することが重要になっています。

定期借家契約は、家賃を自由に値上げできる魔法の制度ではありません。しかし、契約期間の満了を機に、賃料や契約条件、さらには物件そのものの今後を見直せる点は、賃貸オーナーにとって有力な選択肢となります。

「値上げしたいのに動けない」と悩んだときこそ、現在の契約形態だけを見るのではなく、物件の将来まで含めた賃貸戦略を考えてみる。その選択肢の一つとして、定期借家契約を検討する価値はありそうです。

※この記事内のデータ、数値などに関する2026年9月時点のものです。

取材・文/御坂 真琴

ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

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