築古物件は壊すべき?賃貸市場の最新データから考える「直す・建て替える・売る」の判断基準
「古すぎる家は、リフォームするより壊したほうがいい」。そう考える人は少なくありません。一方、東京23区の賃貸市場に目を向けると、築30年を超える物件にも注目が集まっています。本記事では、最新の賃貸市場データや住宅関連調査から、築古物件の今後の運用と出口戦略を考察します。
「古すぎる家は壊したほうがいい」が7割超

「古すぎる家の処分・リフォームに関する意識調査」 株式会社フィリアコーポレーション
親から相続した実家や、長年所有している賃貸住宅など、築年数が大きく経過した建物をどうするかは、オーナーにとって悩ましい問題です。
株式会社フィリアコーポレーションが2026年6月に実施した「古すぎる家の処分・リフォームに関する意識調査」では、全国の男女200人のうち70.5%が「古すぎる家はリフォームするよりも解体した方が良い」と回答しました。

「古すぎる家の処分・リフォームに関する意識調査」 株式会社フィリアコーポレーション
また、解体を支持する理由として最も多かったのは「構造修復に限界がある」で39.0%。次いで「耐震基準を今のレベルにするには高すぎる」が29.8%、「気密性が絶望的」が15.6%となっています。
古い住宅では、内装や設備だけを新しくしても、柱・梁・基礎などの構造部分や耐震性、断熱性などに問題が残る場合があります。そのため、一定以上に老朽化した住宅について「修繕するより解体したほうがよい」と考える人が多いのは、ある意味では自然な判断でしょう。
しかし、ここで賃貸住宅オーナーが注意したいのは、「古い=解体」という判断が、そのまま賃貸経営の正解になるわけではないということです。
その物件がある場所にどれだけ賃貸需要があり、どの程度の投資をすれば、どれだけの家賃収入を得られるのか。さらに、建て替えた場合や売却した場合と比べてどうなのか。こうした視点から比較検討する必要があります。
築30年超でも「安く住める物件」に注目

「2025年の賃貸市場における4大ニュース」 アットホーム株式会社
実際、最近の東京23区の賃貸市場では、築古物件を取り巻く環境に変化が見られます。アットホーム株式会社が公表した「2025年の賃貸市場における4大ニュース」では、2025年の賃貸市場を象徴する動きの一つとして、「築古」「アパート」など低家賃物件への注目を挙げています。
東京23区のシングル向きマンションでは、2024年半ばまで、築20年までの物件の家賃が上昇する一方、築30年超の物件はほとんど変化せず、取り残されていました。ところが、2025年5月に東京23区のシングル向きマンションの平均家賃が10万円を超えると、より安く借りられる築30年超の物件にも目が向くようになり、直近では家賃の上昇幅も大きくなったと分析しています。これは、賃貸住宅のオーナーにとって見逃せない変化です。
家賃が上昇する局面では、すべての入居者が家賃の高い築浅物件を選べるとは限りません。立地や広さなどに一定の魅力がありながら、築年数を理由に家賃を抑えられる物件は、むしろ「手の届きやすい選択肢」として存在感を高める可能性があります。
つまり、賃貸住宅のオーナーが考えるべきは、「築30年だから価値がない」ということではありません。「この物件は、築年数を考慮しても入居者に選ばれる家賃設定や訴求ができるか」を考えることが重要なのです。
築古住宅はリフォームによって再活用できる

「令和6年度 住宅市場動向調査」 国土交通省
では、築古物件をリフォームする意味はどこにあるのでしょうか。国土交通省の「令和6年度住宅市場動向調査」では、リフォーム住宅の平均築後年数は29.5年でした。一方、民間賃貸住宅の平均築後年数は19.9年です。
この数字から分かるのは、リフォームの対象が必ずしも築浅住宅に限られないということです。築30年近い住宅もリフォームの対象となっていることが分かります。
賃貸物件においても、すべてを新しくする必要はありません。たとえば、入居者が日常的に使用するキッチンや浴室、トイレ、給湯器、エアコンなどの設備を更新したり、内装を現代のライフスタイルに合わせたりすることで、物件の競争力を維持できる場合があります。
一方、耐震性や断熱性、構造部分など、建物の根幹にかかわる改修まで必要になると話は変わります。
ここで重要になるのが、「すべてを一度に直す」という発想から離れることです。公益財団法人日本住宅総合センターが2026年5月に発行した「既存住宅における部分断熱・耐震改修に関する調査報告書(概要版)」では、築年数の経過した木造住宅について、全面的なリノベーションやフルリフォームには費用負担や工期などの障壁があることを指摘。そのうえで、「部分断熱・耐震改修」という段階的な改修手法に着目しています。
これは賃貸住宅においても参考になりそうです。建物全体を新築同様にするのではなく、安全性に直結する部分、入居者が不満を感じやすい部分、家賃に反映しやすい部分など、優先順位を付けて投資するという考え方です。
「全部直す」ではなく、投資する場所を見極める
賃貸経営において重要なのは、建物を所有者の理想どおりに新しくすることではありません。投じた費用を賃料収入によって回収できるかどうかです。
たとえば、キッチンや浴室、トイレ、給湯器、エアコンなど、入居者が日常的に使う設備の更新は、募集時の印象や入居後の満足度に影響しやすいでしょう。一方、建物全体の断熱改修や構造補強などに多額の費用をかけても、その投資額を家賃に十分反映できないエリアもあります。
その意味では、築古物件のリフォームは「何を直すか」だけでなく、「直した結果、いくらの家賃を何年間維持できるのか」まで考える必要があります。

「建設物価 建築費指数」 一般財団法人建設物価調査会
集合住宅(鉄筋コンクリート造)の7月の工事原価は、146.5と前月比0.6%上昇
また、改修費用そのものも無視できません。一般財団法人建設物価調査会の「建設物価 建築費指数」によると、2026年7月の東京におけるRC造集合住宅の工事原価指数は146.5となり、前月比0.6%上昇しました。建築費指数は、工事費や資材価格、労務費などをもとに建築物の工事価格の動向を示す指数です。
つまり、築古物件をリフォームする場合も、建て替える場合も、工事費が以前より安くなることを前提にはできません。だからこそ、
「どこまで直せば入居者に選ばれるのか」
「その工事によって家賃をいくら維持できるのか」
「空室期間をどれだけ短縮できるのか」
を見極めることが重要なのです。
では、壊して新築すれば解決するのか
ここまで読むと、「それなら古い物件は無理にリフォームせず、壊して新築すればいい」と考える人もいるかもしれません。
確かに、新築には大きなメリットがあります。現行の耐震基準や省エネ性能に対応した設計をしやすく、設備や間取りも現在の入居者ニーズに合わせられます。築古物件では実現が難しい性能を、一から設計できることも新築の強みです。
しかし、「建て替えれば必ず収益性が高くなる」とも限りません。現在は建築費や人件費が上昇しており、新築そのもののハードルも高くなっています。先ほどの建設物価調査会のデータにあった建築費指数の上昇に加え、築古物件を解体して新築する場合には、解体費、設計費、各種申請費用、融資関連費用なども考慮しなければなりません。
また、建築期間中は基本的にその建物から家賃収入を得られません。さらに、建築費を借り入れる場合には返済負担も発生します。新築後に高い家賃を設定できたとしても、想定した入居率を維持できなければ、投資回収が計画どおりに進まない可能性があります。
そのため、建て替えを検討する際には、
・新築にいくらかかるのか
・新築後はいくらで貸せるのか
・何戸つくれるのか
・想定入居率は妥当なのか
・建築期間中の収入減をどう考えるか
・何年で投資を回収できるのか
まで、試算する必要があります。
そして、もう一つ重要なのが土地の法的条件です。接道条件などによっては、現在の建物を取り壊した後に、同規模の建物を建てられないことも想定されます。「古いから壊す」という判断を先にしてしまうのではなく、解体した後に何ができる土地なのかを確認することが先決です。
『直す・建て替える・売る』の3択で考える
ここまでを整理すると、築古物件の今後の選択肢は、大きく3つに分けられます。
①リフォームして使い続ける
立地に賃貸需要があり、建物の基本性能にも大きな問題がなく、必要な改修によって入居者に選ばれる可能性があるなら、リフォームは有力な選択肢です。とくに、家賃を抑えたい入居者が多いエリアでは、築浅物件と正面から競争するのではなく、「立地は良いが築年数が古い分、家賃を抑えた物件」として再設計する方法も考えられます。この場合、重要なのは高額なフルリフォームではなく、入居者が重視する設備や内装、安全性などに優先順位を付けて投資することです。
②解体して建て替える
建物の老朽化が進み、修繕範囲が広い場合や、現状の間取り・設備では賃貸需要を取り込めない場合には、建て替えが選択肢になります。ただし、新築費用と想定家賃を比較し、投資回収が見込めることが前提となります。土地の立地条件が良く、現在の建物が土地の収益力を十分に生かせていないのであれば、建て替えによって収益性を高められる可能性は低くありません。反対に、建築費が高いにもかかわらず、新築後の家賃が大きく上がらないエリアでは、建て替えが必ずしも合理的とは言えません。
③売却する
リフォームにも建て替えにも多額の費用が必要で、投資しても十分な家賃収入を見込めないのであれば、無理に賃貸経営を続ける必要はありません。物件を売却して得られる資金を、別の収益物件や金融資産などに振り向けるほうが、資産全体の収益性を高められるケースもあります。とくに、修繕費や管理の手間が増え、今後の賃貸経営によって得られる収益よりも売却によって得られる資金のほうが魅力的であれば、売却も有力な出口戦略です。
「築年数」ではなく「収益を生む期間」の視点が大切
築古物件の判断で重要なのは、築年数だけではありません。公益財団法人日本住宅総合センターが2026年5月に発行し、6月8日にリリースした「賃貸住宅市場の供給実態と家主の供給行動に関する調査」では、家主へのWebアンケートなどを通じて、賃貸経営の動機や管理、建築計画、家賃決定の方法、今後の経営方針などを調査しています。
同調査では、家主の賃貸経営には収益確保だけでなく、相続税対策、固定資産税対策、不動産の相続・譲受といった複数の動機があることが明らかになりました。
また、事業計画や修繕・建て替え計画を作成していない家主が多いことも指摘されています。これは、築古物件を考えるうえで重要なポイントです。物件の老朽化は突然始まるものではありません。築年数が経過するにつれて、外壁、屋根、給排水設備、空調、内装など、少しずつ修繕の必要性が高まります。
だからこそ、「壊れるまで使う」のではなく、あらかじめ、
「いつまで賃貸経営を続けるのか」
「どこまで修繕するのか」
「どの段階で建て替えるのか」
「売却するならいつなのか」
を考えておくことが重要です。
築年数だけを見れば、築30年、40年、50年という数字は大きく感じます。しかし、賃貸経営で見るべきなのは建物の年齢だけではありません。あと何年使えるかではなく、あと何年、収益を生み出せるか。この視点に立てば、築古物件に対する判断も変わってきます。
まとめ:「古いから壊す」の前に、物件の収益力を診断しよう
今回紹介した調査では、70.5%が「古すぎる家はリフォームより解体したほうがいい」と回答しました。構造の老朽化や耐震性、断熱性などを考えれば、一定の築古住宅についてこの判断が合理的なケースもあります。
一方で、賃貸市場では築30年超の物件にも注目が集まっています。国土交通省の調査でも、リフォーム住宅の平均築後年数は29.5年であり、築古住宅が改修を経て活用されていることが分かります。
さらに、リフォームでも建て替えでも工事費が上昇しているため、「新しくすれば必ず収益性が高くなる」とも限りません。だからこそ、
「古いから壊す」
「新しくすれば安心」
「とりあえずリフォームする」
といった単純な判断では、築古物件の収益性を十分に見極められない可能性があります。まず確認したいのは、
・現在の家賃はいくらか
・周辺の賃貸需要はあるか
・現状のままでどの程度使えるか
・必要な修繕にはいくらかかるか
・リフォーム後にいくらで貸せるか
・建て替えた場合の総事業費はいくらか
・新築後の想定家賃と入居率は妥当か
・売却した場合に得られる資金を別の投資に回したらどうなるか
といった数字です。
その結果を比較して初めて、「直す」「建て替える」「売る」のどれが自分の物件に合っているのかが見えてきます。
築古物件は、単に「古い建物」ではありません。適切に手を入れて収益を生み続けられる資産なのか、それとも次の活用方法へ切り替える時期なのかを見極める対象です。
築年数で物件の寿命を決めるのではなく、収益を生み出せる期間で出口を考える。それが、建築費や修繕費、家賃が変化する現在の賃貸経営において、築古物件を持つオーナーに求められる視点ではないでしょうか。

















