相続税で家族を困らせないために――賃貸オーナーが見直すべき盲点
賃貸住宅やアパートを所有するオーナーは、資産形成や税金への意識が高い方が多いはずです。しかし実際に相続税で困るのは、オーナー自身ではなく資産を引き継ぐ家族の方――PR media株式会社の調査でも、相続人となる世代の約7割が「自分の家は相続税の対象ではない、わからない」と回答し、基礎控除を正しく理解している人は17.3%にとどまりました。オーナーの資産管理がどれだけ万全でも、それが家族に共有されていなければ相続の場で立ち止まってしまいます。本記事では、賃貸オーナーが見落としがちな相続税の実務的な盲点と、家族へ引き継ぐための備えを解説します。
相続税は「10人に1人」の時代――負担するのは家族
2015年の税制改正で基礎控除額が4割引き下げられ、相続税の課税対象となる人は改正前のおよそ2倍に増加しました。国税庁の資料によれば、現在では亡くなった人のおよそ1割、つまり10人に1人が相続税の課税対象となっています。
一方で、PR media株式会社が実父母・義父母のいる全国の30〜69歳の男女300人を対象に行った調査では、「親からの相続で相続税がかかると思う」と回答した人は30.3%にとどまり、「かからないと思う」(34.3%)、「わからない」(35.3%)を合わせた69.7%が「自分は対象ではない、または判断できない」と考えていることがわかりました。
この結果が示しているのは、賃貸オーナー自身の認識不足ではなく、資産を引き継ぐ側である家族の認識不足です。オーナーがどれだけ的確に資産を管理していても、相続人がその内容を正しく理解していなければ、相続発生時に慌てて調べ始めることになりかねません。特に収益不動産は評価方法が複雑なため、「知らなかった」がそのまま申告の遅れやトラブルに直結するリスクがあります。
知っているつもりが一番危ない!「評価額の更新忘れ」という盲点
相続税の課税判断は「基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)」を超えるかどうかで決まります。例えば法定相続人が2人なら4,200万円、3人なら4,800万円が目安です。多くの賃貸オーナーはこの計算式自体はご存じかもしれません。
しかし、今回の調査では基礎控除を「言葉も内容(計算方法)も理解している」と答えた人は17.3%にとどまり、82.7%が正しく理解できていないという結果が出ています。制度そのものを知らない一般の相続人が多い一方で、オーナー側に本当に必要なのは「計算式を知っていること」ではなく、「現在の資産評価額が基礎控除を超えているかどうかを、定期的に確認できているか」という視点です。
不動産価格は都市部を中心に上昇傾向が続いており、数年前に試算した評価額のまま放置していると、実際の評価額との間に大きな差が生じている可能性があります。「知識としては知っているが、数字は更新していない」――これが、意識の高いオーナーほど陥りやすい盲点です。
賃貸オーナーが本当に注意すべきは不動産評価
調査では、「不動産(実家など)の評価額が分かりにくい」と回答した人が26.3%に上りました。現金と異なり、不動産は土地の形状や立地、利用状況によって評価額が変動し、実際に売却できる価格と相続税評価額が一致するとも限りません。
賃貸住宅やアパートは、相続税評価額の算定において貸家や貸家建付地として評価されるなど、自宅とは異なる考え方が用いられます。そのため「おおよその資産額は把握している」というだけでは、正確な課税判断はできません。
さらに、不動産は相続人同士で分割しにくい資産でもあります。評価額だけでなく、「誰が引き継ぐのか」「収益物件を今後どう運用するのか」を早い段階から家族で共有しておくことが、将来のトラブル防止につながります。賃貸経営を長く続けているオーナーほど、資産構成は複雑になりがちです。定期的な評価額の見直しと家族との情報共有は、セットで行う必要があります。
相続人は驚くほど「自分は対象外」と思い込んでいる
相続税について「これまでに調べたり対策したりしたことがあるか」という質問には、「特に何もしていない」が72.0%と最多で、「調べたことはある」が23.7%、「具体的に対策や相談をした」はわずか4.3%でした。
注目すべきは、「自分は相続税がかかると思う」と回答した91人に限定しても、具体的な対策を行っていたのはおよそ1割、半数以上がやはり「特に何もしていない」と答えている点です。つまり、対象になる可能性を認識していても、行動に移せていない相続人が多いということです。
これはオーナー自身の話ではなく、将来の相続人になる家族の実態です。賃貸物件を所有している場合、家賃の入金管理や管理会社との契約、入居者対応など、相続後も継続すべき業務が数多くあります。オーナーがどれだけ準備をしていても、引き継ぐ側が「何をすればいいかわからない」状態のままでは、実務が滞ってしまいます。
節税より重要なのは、賃貸経営を「引き継げる状態」にすること
相続対策というと「税金をいかに減らすか」という節税ばかりが注目されがちです。しかし賃貸オーナーにとって本当に重要なのは、資産を円滑に引き継ぎ、賃貸経営を継続できる環境を整えることです。
家族が所有物件の所在地や借入状況、管理会社との契約内容を把握していなければ、相続発生後の対応が遅れ、入居者対応や家賃管理に支障をきたす恐れがあります。修繕履歴や設備更新の記録、契約書類の保管場所なども、引き継ぎに欠かせない情報です。
複数の相続人がいる場合には、「誰が賃貸経営を引き継ぐのか」「収益をどう分けるのか」といった問題も避けて通れません。事前に家族で話し合っておくことが、相続後の混乱を防ぐ最も確実な方法です。
資産の見える化が、家族の安心と経営継続につながる
調査では「相続税がかかるか簡単に知りたい」「資産を“見える化”したい」という声が多く見られました(相談したいことの上位は「簡易診断」36.7%、「節税・生前対策」27.0%)。これは、家族側が「何から手をつければいいのかわからない」と感じている表れです。
オーナー自身は資産状況を把握していても、それが家族に伝わっていなければ「見える化」されているとは言えません。物件ごとの収益状況やローン残高、管理会社との契約内容、修繕履歴などを一覧にまとめ、家族や税理士・司法書士といった専門家といつでも共有できる状態にしておくことが、将来の引き継ぎをスムーズにします。
近年は相続に関する無料相談会や簡易診断サービスを行う自治体や専門機関もあります。不安がある場合は一人(一家族)で抱え込まず、早めに専門家へ相談することも有効な選択肢です。
まとめ
今回の調査からは、相続税が「10人に1人」の時代になってもなお、相続人となる世代の約7割が「自分は対象ではない、わからない」と考え、基礎控除を正しく理解している人はわずか17.3%にとどまるという実態が明らかになりました。
これは賃貸オーナー自身の知識不足を示すデータではなく、資産を引き継ぐ家族側とのギャップを示すデータです。オーナーがどれだけ資産管理をしっかり行っていても、評価額の更新や物件情報の共有ができていなければ、相続発生時に家族が困ってしまう可能性があります。
賃貸オーナーにとって相続対策とは、節税だけを目的とするものではなく、入居者との契約や建物管理、家賃収入など、賃貸経営そのものを次世代へ円滑に承継するための経営課題です。評価額を定期的に見直し、資産の内容を家族と共有しておくこと――それが、将来の安心と安定した賃貸経営の継続につながるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年7月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















