相続きっかけの営業DMが来なくなる? 2026年10月法改正で変わる、賃貸オーナーと不動産会社の付き合い方
相続をきっかけとした不動産の売却や資産整理は、不動産会社にとって重要な仕入れ機会の一つです。しかし、2026年10月に施行される不動産登記規則等の改正により、これまで相続登記の把握に活用されてきた「登記受付帳」の記載事項が見直され、不動産会社の営業手法は大きな転換点を迎えます。株式会社WHEREが不動産会社300社を対象に実施した調査では、相続を起点とした営業の有効性を約8割が評価する一方、約7割は制度変更への準備が十分ではないことが明らかになりました。今回は制度改正の内容と市場への影響を整理し、賃貸オーナーが知っておきたい、不動産会社との付き合い方や資産戦略への影響について考察します。
なぜ相続後に不動産会社からDMが届いていたのか
不動産会社ではこれまで、不動産登記受付帳を活用して相続登記が行われた物件を把握し、地権者へDM(ダイレクトメール)などを送る営業手法が広く用いられてきました。相続は、不動産の売却や活用を検討する契機となりやすく、タイミングを捉えた提案が成約につながるケースも少なくありません。
しかし、法務省による不動産登記規則等の改正により、2026年10月1日から受付帳に記載される「登記の目的」や「不動産の所在事項」が原則として掲載されなくなります。これは受付帳の運用を見直し、登記事務の適正化・効率化を図ることを目的とした制度改正であり、相続営業そのものを規制するものではありません。
一方で、これまで受付帳を起点としていた情報収集は難しくなるため、不動産会社には新たな営業手法や情報収集体制への転換が求められることになります。制度変更は不動産会社の営業活動や、相続案件との接点づくりにも影響を及ぼす可能性があります。
なぜ不動産会社は「相続のタイミング」を狙う?知っておきたい彼らの本音
今回、株式会社WHEREが不動産仕入れに携わる300社を対象に実施した調査では、相続をきっかけとした地権者アプローチについて、「非常に効果がある」「ある程度効果がある」と回答した事業者は77.7%に上りました。
また、通常の仕入れ活動と比較して「成約が多い」と感じている事業者も52.3%に達しており、相続を契機とした営業活動が、業界の有力な仕入れ手法として定着していることがうかがえます。
相続直後は、売却だけでなく、賃貸として運用を続けるか、建て替えるか、あるいは土地活用を進めるかなど、多くの選択肢を検討する時期でもあります。そのため、早い段階で相談先となる不動産会社と接点を持つことには一定の意義があります。
今回の制度改正は、その接点を築く方法そのものを変える可能性があり、不動産会社には従来以上に提案力や信頼関係の構築が求められるようになると考えられます。
「約7割が準備不足」で焦る不動産会社
一方で、制度改正への対応状況を見ると、準備は必ずしも進んでいません。調査では、「制度変更を知っており、代替手段も検討済み」と回答した事業者は31.0%にとどまり、「知っていたが対策はまだ」が43.3%、「制度自体を知らなかった」が25.7%という結果でした。つまり、約7割の事業者が十分な準備を進められていないことになります。
また、新たな地権者アプローチが「必要だと思うが、どう動けばよいか分からない」と回答した事業者は43.3%に上り、「必要だと思い、すでに動いている」の22.7%を大きく上回りました。制度変更への危機感はあるものの、具体策を見いだせていない事業者が多いことが分かります。
こうした状況では、情報収集の方法だけで差別化を図ることは難しくなり、相続相談への対応力や、資産活用・税務を含めた提案力といったコンサルティング力が企業間の競争力を左右する時代へ移行していくのではないでしょうか。
これからは「情報が早いだけの会社」はNG!見極めるべきはコンサル力
今回の制度改正によって大きく変わるのは、単に情報の入手方法だけではありません。不動産会社が「どのように相続案件と接点を持ち、信頼関係を築くか」という営業の在り方そのものが問われるようになります。
調査では、新たな地権者アプローチの必要性を感じている事業者が66.0%に達した一方で、実際に新たな取り組みを始めているのは22.7%にとどまりました。この結果からは、多くの事業者が従来の営業手法から脱却する必要性を感じながらも、具体策を模索している段階であることが分かります。
今後はAIやデータ分析の活用、既存顧客との関係強化、地域ネットワークの構築など、複数の情報を組み合わせて潜在的なニーズを把握する取り組みが進むでしょう。賃貸オーナーにとっても、単に売却を勧める会社ではなく、相続や税務、資産運用まで見据えた提案ができるパートナーを選ぶことが、長期的な資産価値の維持につながると考えられます。
「売却」以外の選択肢も!なぜ法改正の「今」がオーナーの好機なのか?
相続は不動産を売却するタイミングである一方、必ずしも「売ること」が唯一の選択肢ではありません。賃貸経営を継続する、建物を建て替える、土地を有効活用する、共有名義を整理するなど、状況によって最適な判断は異なります。
そのため、制度改正後は「誰よりも早く相続情報を入手した会社」が有利になる時代から、「オーナーの事情を理解し、最適な選択肢を提案できる会社」が選ばれる時代へ変わっていくことも考えられます。
賃貸オーナーにとっても、複数の会社から提案を受け、売却価格だけでなく、管理体制や税務・相続への対応力、将来的な資産活用まで含めて比較検討することが重要です。制度変更は営業手法を変えるだけでなく、不動産会社とオーナーとの関係性にも変化をもたらす契機になるかもしれません。
相続は一度きりではない?今こそ見直すべき「長期的な資産承継」の備え方
今回の制度改正は、不動産会社にとって営業環境の変化であると同時に、賃貸オーナーにとっては相談先を見直す機会でもあります。
相続は一度きりの手続きではなく、その後の資産運用や収益性、次世代への承継まで続く長期的な課題です。だからこそ、相続発生後に慌てて相談先を探すのではなく、日頃から信頼できる管理会社や不動産会社、税理士などと関係を築いておくことが重要になります。
また、自身の物件について家族と情報を共有し、相続後の運用方針や売却の考え方を整理しておくことも、円滑な資産承継につながります。制度変更そのものを不安材料として捉えるのではなく、「資産承継や資産活用の在り方を見直す契機」と考えることで、将来の選択肢を広げることができるでしょう。
まとめ
2026年10月に施行される不動産登記規則等の改正は、不動産登記受付帳の記載事項を見直す制度変更ですが、その影響は不動産会社の営業活動にとどまりません。
株式会社WHEREの調査では、相続を起点とした営業手法に77.7%が有効性を感じる一方、約7割は制度変更への準備が十分ではないことも明らかになりました。これは、不動産業界が従来の情報収集を前提とした営業から、提案力や信頼関係を重視した営業スタイルへの転換期を迎えていることを示唆しています。
一方で、賃貸オーナーにとって重要なのは、「営業手法が変わる」という事実そのものではなく、その変化によって相談先の役割が変わることです。今後は、売却や買取を急ぐ提案だけでなく、賃貸経営の継続、建て替え、相続対策などを含めた総合的な資産活用を提案できる不動産会社の価値が高まると考えられます。
相続は突然訪れることも少なくありません。だからこそ、制度が変わる今こそ、自身の資産をどのように引き継ぎ、活用していくのかを見直す好機ともいえます。信頼できる専門家との関係づくりや家族との情報共有を進めておくことは、将来の選択肢を広げるだけでなく、安定した賃貸経営を続けるための備えにもつながります。制度改正を「相談先を見直す契機」として捉え、その変化を味方につける視点こそ、これからの賃貸オーナーに求められる資産戦略ではないでしょうか。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年7月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















