約6割が退去費に不満。「原状回復トラブル」を防ぐ賃貸管理のポイント
賃貸住宅の退去手続きはスムーズに進んだと感じる入居者は多い。しかしその一方で、退去費や原状回復費について約6割が不満を感じていることが、株式会社いえらぶGROUPの調査で明らかになりました。背景には、修繕範囲や費用負担に対する認識の違いがあり、不動産会社でもトラブルの要因として挙げられています。こうした行き違いは、オーナーにとって不要なクレームや空室期間の長期化につながる可能性もあります。ここではこの調査結果をもとに、退去トラブルを未然に防ぎ、入居者との信頼関係を築くための管理のポイントを解説します。
手続きは満足でも退去費に不満。“隠れクレーム”がオーナー経営に与える影響

出典元の調査データ:「退去修繕・原状回復に関するアンケート調査」 株式会社いえらぶGROUP
株式会社いえらぶGROUPが実施した「退去修繕・原状回復に関するアンケート調査」では、賃貸物件の退去経験がある入居者の72.4%が「退去手続きはスムーズに行えた」と回答しました。

出典元の調査データ:「退去修繕・原状回復に関するアンケート調査」 株式会社いえらぶGROUP
その一方で、「退去費・原状回復費の金額がわかりにくかった」と回答した人は59.5%に上り、「掃除・修繕の必要範囲」が48.5%と続いています。この結果から分かるのは、退去手続きそのものに大きな不満があるわけではなく、費用や修繕内容に対する納得感が十分に得られていないことが課題として浮かび上がりました。

出典元の調査データ:「退去修繕・原状回復に関するアンケート調査」 株式会社いえらぶGROUP
さらに、退去修繕・原状回復について不満を感じた内容では、「原状回復の範囲がわかりにくかった」が35.8%、「修繕費の根拠がわかりにくかった」が27.5%、「修繕費が高かった」が26.0%という結果となっています。
これらの結果から見えてくるのは、「説明不足」や「認識のズレ」が、退去時の不満につながっているという現状です。賃貸経営では、退去時のトラブルは次の入居募集にも影響しかねません。口コミや評判が重視される時代だからこそ、退去時の対応品質は管理会社だけでなくオーナーにとっても重要な経営課題といえるでしょう。
原状回復を巡る認識の違いが招くトラブル
同調査では、不動産会社にも退去修繕・原状回復に関するトラブルの内容を尋ねています。その結果、最も多かったのが「費用負担の割合」(50.7%)で、次いで「修繕範囲の認識のズレ」(46.3%)となりました。こうした結果からも、入居者と管理会社の双方が「認識の違い」を課題として捉えていることが分かります。
本来、原状回復には一定のルールがあります。判断の基準となるのは、国土交通省が公表している原状回復ガイドライン、2020年施行の改正民法、そして契約書に記載された特約です。
たとえば、通常の生活による経年劣化や通常損耗は、原則として貸主負担とされます。一方、故意や過失による損傷、善管注意義務違反による汚損などは借主負担となるケースが一般的です。
しかし実際には、「どこまでが通常損耗なのか」「このキズは借主負担なのか」といった判断は、必ずしも一律ではありません。また、契約内容や室内の使用状況によって結論が変わることもあり、十分な説明がないまま請求が行われると、入居者は納得しにくくなります。
退去時のトラブルを減らすには、請求額そのものよりも、「なぜその費用が必要なのか」を理解してもらうプロセスが重要となります。
「言った・言わない」を防ぐ。入居時からできる説明と記録の工夫

出典元の調査データ:「退去修繕・原状回復に関するアンケート調査」 株式会社いえらぶGROUP
今回の調査では、「退去・原状回復について事前に知りたかった情報」として、「修繕費の目安」が59.8%、「原状回復の基準」が50.6%、「退去時のチェック項目」が49.1%という結果になりました。つまり、多くの入居者は退去時ではなく、入居時から必要な情報を知りたいと考えていることが分かります。
オーナーや管理会社として取り組みたい対策には、次のようなものがあります。
・入居時に原状回復の考え方を分かりやすく説明する
・契約書の特約について具体例を交えて説明する
・入居時と退去時の室内状況を写真や動画で記録する
・退去立会い時に修繕箇所を一緒に確認する
・見積書や請求書の内訳をできるだけ明確に示す
こうした取り組みは特別なものではありませんが、「言った・言わない」のトラブルを防ぐ効果があります。近年はスマートフォンで簡単に写真や動画を共有できるため、記録を残すハードルも以前より低くなっています。退去後の交渉では、客観的な記録が双方の安心材料となり、不要な対立を避けることにもつながります。
入退去手続きのデジタル化が管理品質を高める

出典元の調査データ:「退去修繕・原状回復に関するアンケート調査」 株式会社いえらぶGROUP
調査では、「契約更新・退去手続きをスマートフォンやパソコンで一元管理できたら便利だと思う」と回答した入居者が多数を占めました。退去経験者では76.6%、未経験者でも62.4%が利便性を感じています。
一方、不動産会社では「デジタル化したい」が37.3%にとどまり、「どちらともいえない」が58.2%と慎重な姿勢も見られました。導入コストや既存業務との兼ね合いなど、課題があることも事実です。
しかし、電子契約やオンラインでの書類管理、写真データの共有、チャットによる履歴保存などを活用すれば、説明内容や手続きの記録を残しやすくなります。こうした仕組みは業務効率化だけでなく、入居者との認識の共有にも役立ちます。また、担当者が変わった場合でも情報を引き継ぎやすくなり、管理品質の均一化にもつながります。
今後は、単なる業務効率化ではなく、「トラブルを未然に防ぐためのデジタル活用」という視点が、管理会社選びの一つの基準になるかもしれません。
まとめ
今回の調査からは、退去手続きそのものへの満足度は高い一方で、退去費や原状回復費に対する不満を抱く入居者が少なくない実態が明らかになりました。その背景には、費用負担や修繕範囲に関する認識の違いがあり、不動産会社側も同様の課題を認識しています。
原状回復を巡るトラブルは、必ずしも高額な請求が原因とは限りません。修繕の必要性や費用の根拠を分かりやすく説明し、写真や動画などの客観的な記録を残すことで、入居者の納得感は大きく変わります。また、契約更新や退去手続きのデジタル化は、情報共有や履歴管理を容易にし、管理品質の向上にも寄与します。
賃貸経営では、退去時の対応も入居者満足度を左右する重要な接点です。原状回復を巡る認識のズレを減らし、透明性の高い管理体制を整えることが、オーナーと入居者双方に安心感をもたらし、長期的に安定した賃貸経営につながるということがいえるでしょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年7月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















