家賃値上げに強い物件とは?入居者調査から読み解く「選ばれ続ける賃貸経営」の条件
物価や維持コストの上昇を受け、家賃の見直しを検討するオーナーが増えています。しかし単純な値上げは退去のきっかけにもなりかねません。株式会社クレアスライフが実施した「賃貸マンションで一人暮らしをしている社会人の本音調査」から、家賃が上がっても住み続けたいと思える条件と、値上げを成功させるためのポイントを解説します。
入居者が求めるのは「安さ」より「納得できる価値」
これまでは「周辺相場より安い家賃設定」が空室対策の定番でしたが、近年は管理費・修繕費などの維持コストも上昇しており、家賃を適正水準へ見直すことはオーナーにとって重要な選択肢になっています。
一方で入居者にとって家賃は毎月の固定費です。「維持費が上がったから」という理由だけでは納得を得にくく、家賃に見合う価値を感じてもらえる物件づくりが欠かせません。調査でも、入居者が求めているのは単純な安さではなく、通勤・生活の利便性や快適な住環境であることが分かりました。

値上げ許容範囲
実際、家賃値上げへの許容範囲を尋ねた設問では「金額にかかわらず許容できない」という回答も多く、値上げに慎重な入居者が一定数いることも分かっています。
住み続けたいと思われる4つの価値
調査結果から、入居者が家賃上昇を受け入れる際に重視するポイントは、大きく4つに整理できます。
立地の価値:通勤・通学の利便性や最寄り駅からの距離は、決め手としても退去理由としても最上位に挙がる要素です。立地自体は変えられませんが、物件の強みを正しく伝えることはできます。
室内環境の価値:室内の広さ・間取りは決め手・不満・後悔のいずれでも上位。必要な広さは「25㎡以上~30㎡未満」が最多で、収納や生活動線も含めた「暮らしやすさ」が評価されています。
設備・機能の価値:トイレ独立・温水洗浄便座、独立洗面、洗濯機置場、収納、エアコン、キッチンが必須設備の上位。「あったら嬉しい」ものとしては24時間ゴミ捨て可、ウォークインクローゼット、防音、水回りの三点独立などが挙げられました。高額な最新設備より「日々の不満をどれだけ減らせるか」が重要です。
管理・安全性の価値:オートロック、防犯カメラ、モニター付きインターホンが安心感の上位。管理会社・警備会社の対応品質や宅配ロッカーの有無も評価されており、「困ったときに対応してもらえる」安心感も物件価値の一部です。
年収別に見る、値上げの現実的な受け入れライン

年収×値上許容範囲
年収別クロス集計では、年収200万~400万円未満の層は「3,000円未満」の少額値上げを望む声が目立つ一方、400万~800万円未満の層は「5,000円~15,000円未満」までの値上げも一定数許容しており、年収が上がるほど許容範囲が広がる傾向が見られました。ただし高年収層でも「金額にかかわらず許容できない」人は一定数いるため、収入だけで判断せず、物件の家賃帯から想定される入居者層に合わせた無理のない値上げ幅の設定が重要です。
退去理由から見る、値上げ前に確認すべき弱点
過去の退去理由は「通勤・通学の利便性」「働き方の変化」「家賃・共益費」が上位。また「妥協すべきではなかった」と後悔した項目では、「最寄り駅の距離」「通勤・通学の利便性」「防音・遮音性」「室内の広さ・間取り」が挙げられました。今後の引っ越し検討理由も同様の傾向で、これらは入居後に日常的に感じる不満として住み替えのきっかけになりやすいポイントです。働き方の変化はオーナー側でコントロールできませんが、その他の要因は物件の伝え方や値上げの進め方次第でリスクを減らせます
設備投資は「暮らしの不満解消」を優先
設備投資では、収納不足の解消、水回りの使いやすさ向上、防音性の改善、ゴミ出しの利便性向上など、日常の不満を解消する内容が効果的です。必要な設備は入居者層やエリアによって異なるため、所有物件の特徴に合わせた投資判断が求められます。
なお、次に住むマンションの築年数については「年数は気にしない」が最多回答でした。築年数よりも設備の状態や管理品質、室内の使いやすさが重視されており、築古物件でも設備投資や管理品質の向上によって「住み続けたい」と思われる余地は十分にあります。
値上げのタイミングと伝え方
家賃見直しでは金額だけでなくタイミングや伝え方も重要です。周辺相場との比較、物件価値の確認、修繕・設備改善の実施状況を踏まえたうえで、「物件を維持するために必要な見直しであること」「今後も快適に暮らせる環境を維持すること」を丁寧に説明することが大切です。実施の際は契約条件や法的なルールもあるため、管理会社や専門家への確認が必要です。
◆立地:最寄り駅まで徒歩10分以内か、生活・買い物施設は充実しているか
◆室内環境:専有面積25㎡前後を確保できているか、収納・生活動線に無理はないか
◆設備:水回りの独立性、防音性、ゴミ出しの利便性に不満は出ていないか
◆管理・安全性:セキュリティは整っているか、管理会社の対応品質は伝わっているか
◆説明材料:値上げ理由を入居者に分かりやすく説明できる状態か
◆想定入居者層の年収:値上げ額は無理なく受け入れられる範囲に収まっているか
まとめ:値上げに強い物件とは「住み続けたい理由」がある物件
入居者が住み続けたいと感じる理由は、単純な家賃の安さだけではありません。通勤や生活の利便性、駅からの距離、快適な室内環境、使いやすい設備、安心できる管理体制といった日々の暮らしを支える価値と、想定する入居者層の年収に見合った値上げ幅の設定が、値上げを受け入れてもらうための鍵になります。
家賃を見直す前に、まずは自分の物件がどのような価値を提供できているのかを確認し、必要に応じて設備改善や管理品質の向上に取り組むこと。それが、入居者から選ばれ続ける物件づくり、そして安定した賃貸経営につながる第一歩です。
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















