”新しい当たり前”を知る 「withコロナ時代」の賃貸経営
- 市況・マーケット
コロナ禍で経済が暗転するなか、新しい生活様式や行動パターンが定着しつつあります。難しい舵取りを迫られる賃貸経営オーナーは、どこに向けて進路をとればいいのでしょうか。これからの不動産業界について、不動産評論家の牧野知弘氏に解説していただきました。
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループ、三井不動産、日本コマーシャル投資法人を経て2015 年オラガ総研設立。著書に『2020 年マンション大崩壊』『2040 年全ビジネスモデル消滅』(ともに文春新書)など。
牧野知弘氏が解説!「withコロナ時代」の不動産業界の動き
コロナ前に後戻りできない 不動産業の大変革時代到来
「コロナの影響は一過性で、経済はいずれV字回復する」という当初の期待感は、もろくも崩れました。パンデミックの影響は各方面で長引き、もはやコロナ前には戻れないというのが共通認識です。
壮大な“社会実験”ともいえる急速なテレワークの普及によって、「通勤しない働き方」を前向きにとらえる“マインドシフト”も起きました。企業のオフィス床削減の動きも始まり、不動産業界にとっては由々しき大変革の時代になったと言えるでしょう。
不動産市場には凸凹あり。新たな行動様式にも注目
不動産の種類によって、市場はまだら模様です。インバウンドを当て込んだ都市部のホテルや民泊は壊滅的打撃を受けましたが、リゾートホテルや別荘は、国内富裕層に支えられて好調です。
住宅の売買取引は4~5月にほぼ止まっており、価格も大きく動いていません。しかし、資金繰りが悪化した事業者や収入減で住宅ローン返済が苦しくなった個人からの売り出しが増え、値下がりする可能性はあります。不動産投資家が、今後半年から1年は有利に買えるチャンスと見ているのも事実です。すべてが停滞しているわけではなく、市場のディテールを見極める必要があるでしょう。
賃貸住宅オーナーや管理業界については、家賃減額交渉や滞納が拡大する懸念はあるものの、急激に収益が悪化してダメージを受ける状況ではありません。ただ、勤労者の行動様式が変わることは、家を提供する賃貸オーナーにとって「自分たちのお客さんの生態が変わる」と捉える必要があります。
人々の価値観が交通アクセス重視の “会社ファースト”から、生活のしやすさや住む街の機能性を重視する傾向へシフトするのに伴い、賃貸住宅の立地戦略も変わってきます。
例えば、一日中在宅では窮屈なので、自転車や歩いて行ける範囲にコワーキングスペースやおしゃれなカフェがあるなど、プラスアルファの機能を持つ街かどうかが問われてくるでしょう。
地方移住、多拠点居住…人々のニーズはどこへ?
働き方が中長期的に、会社に属して与えられた業務をこなす「就社型」から、自分の職能に応じた役割を果たす「ジョブ型」に変わってくると、1社に縛られず個人事業主的に働く人が増えます。
そうすると、会社近くに住む必要はなくなり、郊外が見直され、地方移住も視野に入ってくるでしょう。その場合、地域に魅力があるか否かで優勝劣敗が起こるはずです。
さらに、多拠点居住が進む可能性もあります。色々な地域に定額で住み替えられるサブスクリプション型のサービスも普及するかもしれません。こうした変化を生かせるか、今が知恵の絞り所です。
※この記事内のデータ、数値などは2020年9月2日時点の情報です。
文/木村 元紀