賃料はどこまで上げられる? 入居希望者の予算上昇から読み解く「値上げの条件」
物価や建築費、修繕費などの上昇を背景に、賃貸経営でも賃料の見直しが重要なテーマになっています。しかし、「家賃を上げれば入居者が決まりにくくなるのでは」と考え、なかなか値上げに踏み切れないオーナーも多いのではないでしょうか。今回はリーシング・マネジメント・コンサルティング株式会社(LMC)が首都圏の賃貸不動産仲介担当者333人を対象に実施した調査から、賃料を見直す際のヒントを探ります。
入居希望者の「あと1万円」が増えている? 予算上昇の実態

「【賃貸住宅市場調査】2026年上半期、賃貸市場で何が変わったのか ― 6年間の定点調査が示す変化と定着 ―」
LMCが2026年6月23日から7月13日にかけて、首都圏1都3県の賃貸不動産仲介担当者333人を対象に実施した「【賃貸住宅市場調査】2026年上半期、賃貸市場で何が変わったのか ― 6年間の定点調査が示す変化と定着 ―」では、入居希望者の予算について興味深い変化が見られました。
「昨今、家賃相場が上昇しているなかで、お客様の予算はどのように変化していますか」と尋ねたところ、「上がっている」と回答した割合は52.0%。前回の43.0%から9ポイント上昇し、過半数に達しています。
もちろん、これは「どの物件でも賃料を上げられる」ということを意味するものではありません。しかし、賃料相場が上昇するなかで、入居希望者側も予算を引き上げているという実態は、オーナーにとって見逃せない変化です。

「【賃貸住宅市場調査】2026年上半期、賃貸市場で何が変わったのか ― 6年間の定点調査が示す変化と定着 ―」
さらに、予算の上昇幅を見ると、単身者とディンクス、ファミリーでは違いが見られます。
単身では「1万円程度」が46.8%で最も多く、「5,000円程度」が20.8%、「1万5,000円程度」が13.9%と続きました。一方、ディンクスでは「2万円以上」が27.7%となり、前回の13.7%から大きく増加。ファミリーではさらに顕著で、「2万円以上」が53.2%と、前回の4.3%から48.9ポイント上昇しています。
つまり、予算上昇は単身者だけの動きではありません。特にファミリーでは、より大きな予算を許容する入居希望者が増えている可能性があります。
物件の賃料を考える際には、「周辺相場だからこの金額」という一律の考え方だけではなく、ターゲットとなる入居希望者がどの程度の予算を持っているのかを見ることも重要になりそうです。
企業が払うなら、更に高い家賃も選択肢に? 法人契約の変化

「【賃貸住宅市場調査】2026年上半期、賃貸市場で何が変わったのか ― 6年間の定点調査が示す変化と定着 ―」
入居希望者の予算を考えるうえでは、法人契約にも注目したいところです。
LMCの調査によると、2025年と比較した法人契約の家賃補助額について、「上がっている」と回答した割合は単身で20.4%、ファミリーで18.6%となりました。一方、「下がっている」は単身3.3%、ファミリー1.5%にとどまっています。「上がっている」が「下がっている」を大きく上回っていることから、法人契約では家賃補助が増加する傾向が見られます。

「【賃貸住宅市場調査】2026年上半期、賃貸市場で何が変わったのか ― 6年間の定点調査が示す変化と定着 ―」
実際の家賃補助の平均額は、単身で5.1万円、ファミリーで9.0万円でした。最も多かった価格帯は単身で「3~4万円」、ファミリーで「5~6万円」ですが、前回は単身が「2~3万円」、ファミリーが「4~5万円」であり、中心となる価格帯も上昇しています。
法人契約では、家賃の一部を企業が負担するため、入居者本人がすべてを負担する個人契約とは予算の考え方が異なります。そのため、法人需要が見込めるエリアや間取りであれば、個人の家賃負担だけを基準にするのではなく、企業の住宅補助を含めた「実際に選択肢となり得る賃料」を考えることも重要です。
高くても選ばれる物件は何が違う? 入居希望者が見るポイント

「【賃貸住宅市場調査】2026年上半期、賃貸市場で何が変わったのか ― 6年間の定点調査が示す変化と定着 ―」
では、入居希望者は物件のどのような部分を重視しているのでしょうか。
LMCの調査で、入居希望者から需要が高い専有部設備を尋ねたところ、「独立洗面台」が71.5%で最も多く、「バス・トイレ別」が68.8%で続きました。そのほか、「通信速度の速いインターネット環境」が41.4%、「無料のインターネット環境」が38.7%、「部屋の広さ」が35.4%、「防音性の高さ」が32.4%となっています。
ここで注目したいのは、上位に挙がっているのが必ずしも「豪華な設備」ではないことです。独立洗面台やバス・トイレ別といった基本的な住みやすさに直結する設備が高く評価されています。さらに、インターネット環境や広さ、防音性など、日々の生活の快適性に関わる部分も重視されています。
また、職場との距離については、「職場に近い駅が好まれるようになった」と回答した割合が全体で33.6%。単身では45.3%に達しており、職住近接へのニーズが強くなっています。
一方、「職場から遠い駅でもあまり気にしなくなった」という回答も22.4%あり、賃料を抑えるために多少の距離を許容する動きもあります。
こうした結果を見ると、入居希望者の予算が上がっているからといって、「高ければ高いほどいい」というわけではありません。支払う賃料に見合った利便性や快適性があるかどうかが重要だといえます。
「この設備なら高くてもいい」入居希望者が納得する設備とは
では、具体的にどのような設備であれば、「相場より高い賃料でも納得できる」と感じてもらえるのでしょうか。
LMCが「家賃が相場より高くても納得できると思う専有部設備」を複数回答で尋ねたところ、トップは「食洗機」で48.3%でした。次いで「床暖房」と「防音設計」が42.3%、「ディスポーザー」が34.5%となっています。
この結果から分かるのは、入居希望者が単に「新しい設備」を求めているのではなく、家事負担の軽減や快適性など、生活の質を高める設備を評価しているということです。
ただし、支持率が高いからといって、すべての設備を導入すればよいわけではありません。オーナーにとって重要なのは、設備の人気だけでなく、導入費用や維持費、物件のターゲットとの相性まで含めて考えることです。
◆まずは「便利」を身近なところから
設備投資を抑えながら付加価値を高める方法もあります。共用部設備では、「24時間利用可のごみ置場」が47.7%と高い支持を集めました。これは「ジム/フィットネスルーム」の52.9%に次ぐ水準です。物件によっては、新しい設備を設置するのではなく、ごみ出しのルールや運用方法を見直すことで対応できる可能性があります。
また、専有部でも「高級シャワーヘッド」6.3%、「プロジェクター」7.8%、「プロジェクター付き照明」11.7%など、さまざまな設備が挙げられています。支持率は食洗機などに比べると低いものの、ターゲットとなる入居者にとって魅力的であれば、こうした小さな改善も物件の差別化につながります。
重要なのは、「何か高価なものを付ける」ことではありません。今ある物件の弱点や、入居者が不便に感じている部分を見つけ、少ないコストで改善できないかを考えることです。
◆少しの投資で「欲しい」を取り込む
一定の設備投資が可能なら、「食洗機」や「ディスポーザー」なども候補になります。とくに食洗機は48.3%と、今回の調査で専有部設備のトップでした。家事の負担を軽減し、日々の生活を便利にする設備として、入居希望者から評価されていると考えられます。
ただし、設備の導入費用を賃料にそのまま上乗せできるとは限りません。導入時の工事費だけでなく、故障時の修理や交換など将来的な維持費も考慮し、「この設備によって、どの程度まで賃料の上乗せが見込めるのか」を慎重に判断する必要があります。
◆大きな投資は「本当に家賃に反映できるか」で判断
「床暖房」「防音設計」などは、それぞれ42.3%と高い支持を集めています。共用部でも、「ジム/フィットネスルーム」が52.9%、「ラウンジ」が43.8%となっており、相場より高い賃料でも納得できる設備として評価されています。
しかし、こうした設備は導入費用が大きくなりやすく、既存物件への後付けも簡単ではありません。とくに自主管理のオーナーの場合、大規模な設備投資を単独で判断するのではなく、物件の立地やターゲット、周辺の競合物件、将来的な修繕計画などを踏まえ、管理会社や施工会社などとも相談しながら検討する必要があります。
「人気の設備だから導入する」のではなく、「この物件の入居者が、その設備のために追加の賃料を支払う可能性があるか」という視点が欠かせません。
まとめ:値上げのカギは「高くても納得できる理由」
LMCの調査では、入居希望者の予算が「上がっている」と回答した仲介担当者が52.0%に達し、前回の43.0%から上昇しました。
さらに、ファミリーでは「2万円以上」予算が上昇したとする回答が53.2%に達しています。法人契約でも家賃補助の平均額は単身5.1万円、ファミリー9.0万円となっており、入居者側の予算環境には変化が見られます。
こうしたデータは、賃貸オーナーにとって賃料を見直す一つの材料になります。ただし、「予算が上がったから家賃も上げる」という単純な話ではありません。重要なのは、入居希望者が「この物件なら多少高くても住みたい」と思える理由をつくることです。
独立洗面台やバス・トイレ別といった基本性能、インターネット環境、防音性など、日常生活の快適性を高める要素に加え、食洗機や床暖房など、付加価値につながる設備も選択肢になります。
また、設備投資は必ずしも大がかりである必要はありません。24時間利用可能なごみ置場のように、運用方法を見直すだけで利便性を高められる場合もあります。
賃料を上げる際に見るべきなのは、「周辺相場よりいくら高くできるか」だけではありません。
「その賃料を払ってでも選びたいと思える価値が、物件にあるか」という視点が重要です。
入居希望者の予算が上昇している今だからこそ、自分の物件が持つ強みを見直し、必要な設備やサービスに絞って投資する。そうすることで、単なる「値上げ」ではなく、入居者にも納得される賃料設定につなげられる可能性があります。
※この記事内のデータ、数値などに関する2026年9月時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















