新型コロナ禍でどう変わった?賃貸入居者ニーズ最新事情[建築の基礎知識#7]
新型コロナ禍で生活様式は大きく変化しました。賃貸住宅に対する入居者ニーズにも影響を与えました。今後も完全にはコロナ前の状態には戻らないでしょう。では、どのような変化が起きたのでしょうか、人気設備の最新事情とともに紹介しましょう。
ライフスタイルと価値観を変えた新型コロナ禍
いつの時代も、入居者ニーズは変化しています。10年、20年という単位で、いつの間にかライフスタイルや価値観が移り変わるからです。ただ、2020年に新型コロナ禍が始まってからのわずか1~2年、これほど短期間に経験した変化は未だかつてありません。
部屋探しに関して変化したポイントは次の3点です。
1.通勤・通学時間最優先から住環境(広さ・空間)重視へ
2.インターネットが電気・ガス・水道のライフラインと並ぶ第4のインフラへ
3.賃貸住宅にも遮音性・断熱性・省エネ性などの基本性能の向上を求める声
アパート・マンション建築を検討している場合は、こうした大きな変化が起きている点を意識しながらプランづくりを進める必要があります。それぞれのポイントについて解説していきましょう。
通勤・通学時間最優先から住環境(広さ・空間)重視へ~在宅勤務の普及、職住融合の住宅の登場~
在宅勤務やリモートワークが急速に普及したことは周知の通りです。新型コロナに対する最初の緊急事態宣言が出されたときは、在宅勤務・リモートワークの実施率がそれまでの平均10%台から一気に50%を突破。大企業は83%に達しました(図1参照)。
一時は「オフィス不要論」すら飛び出したほどでしたが、その後、オフィス回帰が増加するなど、実施率は下がり、平均では30%台後半で落ち着いているようです。
大企業では実施率が60%を超えていますが、在宅勤務を認める制度は設けていても、実践している従業員は全体の1~3割という企業が半数近くに上ります。
以上の点から、在宅勤務・リモートワークを行っているのは、会社員の3分の1程度と考えおけばいいでしょう。
ただ、以上で述べてきたのは首都圏に関する話で、首都圏以外の都市での事情は少し異なります。たとえば、愛知県のリモートワークを行っている人の割合は東京の半数以下であるというデータがあるなど、製造業など在宅での勤務が難しい業種の企業が多い都市では、そこまで浸透していないのが現状です。
「在宅勤務が増えて、都心から郊外への民族大移動が起きる」「職住近接から職住融合へ」といった論調も飛び交いました。しかし、 “郊外化”はマスメディアが騒ぐほど進んでいません。
国土交通省の調査(※)では、新型コロナ禍で実際に転居した人の割合はわずか6%程度。約8%が転居の希望はあっても実行していない人、残り86%は転居の希望すらないというのが実態です。
※2020年度「テレワーク人口実態調査」
そういう意味では、賃貸市場に影響を与えるほどの人の流れの変化は起きていないと言えるかもしれません。
ただ、新型コロナ禍は人びとの意識に変化をもたらしたのは確かです。リクルートの賃貸契約者に対する調査では、契約の決め手になった項目のうち、従来、最優先されていた「通勤・通学時間」の割合が減り、反対に、リモートワーク実施者の場合は「広さ」を挙げる割合が高まったことが明らかになっています。
在宅勤務からオフィス回帰をした人も、一度在宅勤務を経験し、今の住宅の狭さや居住性能の低さを実感したのではないでしょうか。
テレワークのコーナーを設けられる広いリビングルーム、仕事部屋や書斎に充てられるプラスもう一部屋などを求める声は着実に高まるはずです。こうしたニーズに合わせた企画型プランを提案する建築会社も増えています。
単身向けワンルームや1Kでも、25㎡以下の小さいタイプは空室が埋まりにくくなり、25㎡以上の広いタイプの需要が高まっています。
ファミリータイプも、アパートにはほとんどない70m2以上の3LDKタイプ、つまり大型住戸の賃貸マンションの成約が伸びるなど、すでにニーズの変化は顕在化していることを知っておきましょう。
インターネットが電気・ガス・水道のライフラインと並ぶ第4のインフラへ
次に、設備仕様のニーズがどのように変化したかを具体的に見てみましょう。全国賃貸住宅新聞社が2021年秋に、新型コロナ禍で起きた設備仕様に関するニーズの変化を調査しています(図2参照)。
トップは「インターネット無料」、次いで、光回線などによる「高速インターネット」がランクインしています。インターネット無料は従来から人気がありました。
一方、新型コロナ禍では、インターネットの通信速度が重視されるようになったのが特徴です。別の調査では、インターネットは有料でもいいから、通信速度の速いインターネット環境を求めるニーズが強いというデータもあります。インターネットのスピードに対する不満の裏返しです。
会社員は在宅勤務での書類のやり取りやテレビ会議、学生はオンライン授業が飛躍的に増えました。さらに、仕事や勉強以外の家庭生活でも動画配信サービスの利用、オンラインゲームの需要も増加しています。固定インターネットの通信量は、この2年で2倍近くに拡大しました(※)。
※総務省「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計結果」(2021年5月時点)
生活に欠かせないライフラインといえば、電気・水道・ガスなどの公共公益インフラですが、インターネットも第4のインフラになりつつあるという指摘もあります。今後は、通信速度や安定した通信環境など「通信品質」の良さが物件の競争力になるのではないでしょうか。
なお、コロナ禍で「ペット可物件」の需要が高まっていることも付記しておきましょう。
賃貸住宅にも遮音性・断熱性・省エネ性などの基本性能の向上を求める声
図2の5位に「遮音性の高い窓」がランクインしているのも注目されます。在宅時間が長くなり、外の騒音が気になって在宅ワークやオンライン授業に集中できないといった理由でニーズが高まったのでしょう。
この調査では出ていませんが、壁や床などの建物自体の防音性の高さを求めるニーズも高まっています。
また、夏や冬の在宅時間の増加は、冷暖房費のアップに直結します。「在宅勤務で会社から支給してほしいもの」についての調査(※)のトップに「冷房・暖房等の光熱費」が入るほど、負担が重いようです。
こうした状況を受けて、住まいの断熱性、冷暖房効率の良さに対する要求も強まっています。賃貸住宅でも、省エネにつながる設備仕様が今後は重要になってくるのではないでしょうか。
最後に、新型コロナ禍とは必ずしも関連しない基本的なニーズについても押さえておきましょう。図3は、最新の人気設備ランキングです。
「この設備がないと決まらない」必須設備と、「周辺相場より家賃が高くても決まる」プラスアルファ設備に分け、それぞれ単身者向けとファミリー向けの人気トップ10を指定しています。
図2で登場したインターネット無料はもちろん、TVモニター付きインターホン、独立洗面台、2口以上のガスコンロ、オートロックなどは、単身・ファミリーに共通する必須要素です。
必須設備にはないものの高く貸せる設備にランクインしているものとしては、単身者では「浴室換気乾燥機」「システムキッチン」「ウォークインクローゼット」が挙げられます。
炊事・掃除・洗濯・収納といった基本的な家事全般を支えるアイテムです。“おうち時間”を大切にする志向が高まっているのかもしれません。
ファミリー向けでは、単身者では必須になっている宅配ボックスが高く貸せる設備に入っています。
同じ共用設備として、単身者・ファミリーに共通で高く貸せる設備になっているのが、「24時間出せるゴミ置き場」。リクルートの「2020年度賃貸契約者動向調査」では、「満足度の高い設備」のトップに入っていました。今後、アパートではボックス型のゴミストッカー、マンションならゴミ・ステーションがあるタイプが注目されるでしょう。
その他、従来からニーズが高いセキュリティ関係も、プラスアルファとして根強い人気があります。これらの調査データなどを参考に、プランづくりに生かしてください。
文/木村 元紀
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