建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術

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公開日:2024年6月12日
更新日:2024年7月30日
建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術1

「築30年が経ち、賃貸経営がつらくなってきた……」と悩んでいるオーナーがいる一方で、「築古でも気にしない」と前向きに探している入居者がいます。彼らが求める条件をつかめば、満室経営も夢ではありません。実例を交えて、築古再生への道をご紹介します。

取材・監修

株式会社MEコーポレーション
賃貸住宅のリノベーションや大規模修繕の実績はこれまで4,500 件以上。自社で設計から建築・管理まで行う総合不動産会社。
[お話しを伺った方]
リノベーション事業部 都外川 一気さん
プロパティマネジメント事業部 森 渉太さん、渋谷 康平さん、土方 絵里さん

築年にこだわらない人が増加。今こそ積極的に行動を

所有する賃貸住宅が築30年を過ぎて建物の劣化が進むと、空室の増加や家賃の下落、修繕費の負担などで収益性が低下しがちに。「これから先、どうすればいいのか……」と経営に悩むオーナーは少なくない。

「築年数が経って競争力も落ちて空室が増えているし、もう何をやってもムリ」と思ってはいないだろうか。でもあきらめないでほしい。必要なステップを踏めば、収益改善の未来が拓けてくるのだから。

理由は2つある。1つは、「築年数にこだわらない入居者が増えている」こと。

「部屋選びの際、すべての希望条件を満たすことは難しく、妥協するなら『築年』という人が多いです。築古物件は新築・築浅と比較して家賃を抑えることができ、築年数を条件から外すことで物件の選択肢が増えます」と管理・仲介の現場で入居者ニーズを知る土方さん。同じ家賃でも広い部屋、駅から近い物件が見つかるなど、入居者のメリットが多い。

またリノベーション市場が醸成され、改修済みの築古物件は、内装や設備が新築並みでコスパが良いと好む人も少なくありません。

「積極的にリノベ物件を探している人もいるほどです。きれいであれば築年数は気にしないという声を聞きます」と修繕管理を担当する森さん。

2つ目の理由は、「地域によって家賃相場が上向いている」こと。コストをかけて修繕や改修をした後に、家賃を引き上げやすい環境になっているとも考えられます。国や自治体の住宅に対する省エネ補助金も追い風です。“築古だから”とあきらめずに、積極的に物件再生に踏み出しましょう。

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築古物件の価値再生は3段階のレベルで考える

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

築古物件を現在の賃貸マーケットで通用する物件に蘇らせるには、大きく分けて3つの段階があります(図参照)。

まず始めの「レベル0」は、基本的な居住性能を保つために、建物の劣化を防ぐ大規模修繕や、設備の適切なメンテナンス・更新を行うこと。これまで大規模修繕をしていないのなら必須。昭和時代の設備も交換しておきたいところです。

「バランス釜の浴槽は、今の若い世代は使い方を知らず、選ばれにくい傾向です」(土方さん)

次の段階である「レベル1」は、時代のニーズに合わせること。30年以上前に新築された物件は、当時の生活スタイルに合わせて設計されていることが多くなっています。

「まずは今の入居者ニーズにあわせて、現在当たり前になっている設備の新設や、使い勝手の良い間取りにしましょう」(森さん)

共用部も機能性を高めるなど、入居者が心地よく暮らせる環境に整えることが大切です。

「レベル2」では、周辺の競合物件に対抗するため、付加価値を高めるアプローチを。セキュリティ性能や住宅性能を向上するほか、デザインで他にはない物件を演出することで差別化できます。“見た目”を意識して外観や内装を変えると効果的です。

「入居者はポータルサイトで物件を十分に吟味し、実際に現地に行く数を絞って内見をします。まずはサイトで目に留まる物件になることが大切です」(土方さん)

30年を超えた物件でも、正しく手を加えていくことで、長きにわたって安定経営を実現していくことができます。ここからは、レベル1・2の具体的な対策を紹介していきます。

内からのアプローチ!室内をリニューアル|“ここに住みたい”と入居者を導く住み心地を追求

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

使いやすさ&快適さに見栄えの良さをプラス

新築から何年で室内のリニューアルを考えるべきなのでしょうか。

「古さを感じるかは、築年だけでなく居住年数に左右される傾向が強いです。築30年でも数年ごとに入退去があれば、原状回復時に設備も少しずつ交換されています。一方、10年以上の長期入居になると黄ばみや設備の劣化が目立ち、築20年でも室内全体の改修が必要なことがあります」と原状回復の現場を知る渋谷さん。

Level1|時代のニーズに合わせる!「新しさ」と「使いやすさ」が設備・内装のポイント

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2
建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

3点ユニットの浴室は、今や選ばれにくい設備の筆頭です。「シャワーブースとトイレの分離でOK」という人も増えているので、別々に改修したい。分離が難しい場合は、壁1 面にアクセントカラーのパネルを張ったり大型ミラーを設置したりして、印象を変える方法もあります。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

キッチンはシステムキッチンへの交換がおすすめですが、キャビネット扉の塗り替えで安価に仕上げるのも有効。屋外の洗濯機置き場は間取りの工夫で室内に移動しましょう。

明るさと使い勝手の良さを追求。見た目のインパクトもねらって
建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

和室は、洋室に変更するほうがベター。床材は、フローリングだけではなく木目調のフロアタイルで張り替える例も。巾木や建具枠をクロスに合わせた明るい色へ塗装することや、照明を見直すのも効果大。

間取りは2DKから1LDKにするなど、広めのリビングがある間取りが人気です。押し入れは扉をクローゼットドアにするか、扉を付けないオープンクローゼットにすれば狭さを感じさせない空間づくりができます。

Level2|付加価値を与える!より快適で安全な暮らしを実現

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2
断熱性・防音性・セキュリティ|基本性能を高めて心をつかむ

20 代の若い世代は、実家で高性能な住宅を体感した人が多いため、断熱性・防音性の高さを求める声も珍しくありません。サッシへの内窓設置や玄関ドアの交換などは、開口部の断熱性と防音性アップに有効。補助金を賢く利用しましょう。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

セキュリティへのニーズも高くなっています。録画機能がありスマホと連動するテレビモニター付きインターホン、キーレスで施解錠できるスマートロックなど、安心の暮らしを支える最新設備で+αの価値を加えましょう。

再生事例①築30年|1LDKの広々空間に変更。内装にもインパクトをプラス

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

Before

2DKの木造アパートをリビングの広い1LDKに間取り変更。キッチンは据え置きガステーブルからシステムキッチンへ入れ替えをして、空いたスペースに洗濯機置き場を新設。

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After

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Before

リビングの壁の一面は、インパクトのある板張り風のアクセントクロスを張り、建具とキッチン・キャビネットのデザインも統一しました。

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After

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寝室は和室から洋室へ、押入れもクローゼット化。襖を撤去して、リビングとつながりのある広々した空間を演出しました。

総額/157万円 工期/約1カ月

【物件概要】
所在地:神奈川県足柄下郡
間取り:2DK → 1LDK /専有面積:35㎡
構造:木造/築年数:30年
事例提供:MEコーポレーション

再生事例②築50年|17㎡の狭小1Rをフルリノベ。古さを感じない清潔な印象へ

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

After

キッチンは、IHクッキングヒーターとシンク一体型でデザイン性に優れたカウンター式のコンパクトキッチンに入れ替え。木目調のフロアタイルと流行りのグレイッシュな内装で一新し、広々と感じられる室内に。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2
建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

3点ユニットバスをトイレと「手洗い器付きシャワーブース」に分離。工事期間中に入居者が決定しました。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

収納は、古い押入れを撤去してオープンなクローゼットへ変更。給湯器を交換、洗濯機置き場もベランダから室内へ。

総額/277万円 工期/約2カ月

【物件概要】
所在地:東京都港区
間取り:ワンルーム/専有面積:17㎡
構造:鉄筋コンクリート造/築年数:50年
事例提供:MEコーポレーション

外からのアプローチ!共用部をリフレッシュ|内見の印象アップ!“帰りたくなる”住環境を演出する

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

マイナス要素を取り除き物件の第一印象を高めよう

外まわりは、とにかく「暗い・不潔・乱雑・不便」なマイナス要素を取り除き「明るく・清潔・整理整頓・便利」なプラスに転じる対策がキーポイント。

建物の外観は、大規模修繕のタイミングに合わせて実施したほうがコスト面でも有利。例えば、外壁の劣化を修繕した後に、仕上げ塗料の色合いを変えるだけでもデザインを一新できる。

道路から建物入口までのアプローチや、エントランスの改修もおすすめ。入居者の視線が届く範囲を意識しながらデザイン性を高めると良い。館銘板・植栽・照明の工夫でも印象を変えられる。

「外観や共用部は内見者の第一印象を決める場所。空室対策としても重要です」(都外川さん)

改修や設備の交換・新設には、ある程度のコストがかかるが、総戸数の頭割りで考えれば1戸当たりの負担はそれほど高くない。費用対効果を比べ、収支の試算をしたうえで果敢に実行しよう。築古物件の再生に希望を持って取り組んでほしい。

Level1|時代のニーズに合わせる!美観+設備の更新・導入で機能性をアップ

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

エントランスは、植栽計画や館銘板をリニューアルすると第一印象をアップできます。共用設備は機能を高めたいところ。集合ポストの見栄えや使い勝手は重要な要素の1つ。自分で南京錠をかける旧式タイプはダイヤル錠付きの大型郵便が入る新型タイプに交換して、防犯性と利便性と美観を向上しましょう。

ネット通販に対応した集合ポストと宅配ボックスは必須アイテム
建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

ネット通販の普及で、再配達防止に役立つ宅配ボックスやインターネット設備は、もはやインフラといえます。ネットは通信の速度や安定性がより重視されるようになりました。

住まいの“裏の顔”であるゴミ置き場と駐輪場を整備し、居心地よく
建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

入居者が管理の良し悪しをチェックするポイントが、ゴミ置き場と駐輪場。新築時に整備されていない物件も多くあります。

ゴミ置き場には蓋つきのゴミストッカーを設置することで、鳥害による散乱や臭いを軽減、不法投棄の抑止にもなります。

駐輪場は、乱雑になるのを防ぐために前輪差し込み式の自転車ラックを設けたり、自転車が雨に濡れないように屋根付きにしたりするのも良いアイデアです。管理面も楽になり、入居者の住み心地もアップします。

Level2|付加価値を与える!デザインや安心な住環境で差別化

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2
印象に残る外観デザインと安心感を高めるセキュリティ設備

大規模修繕の際に、外壁のカラーも時代や入居者層に合わせて一新すればイメージアップに。単色ではなく、ツートンカラー、一部のアクセントカラー、ロゴをあしらったサインペイントなど、一度見たら忘れないインパクトのある外観にするのもおすすめです。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

照明はセキュリティ面でも重要。軒下のダウンライトなどで夜間の明るさを確保して、人感センサー付きライトも整備しましょう。防犯カメラがあると安心感が増します。

再生事例③築35年|共用設備の機能を高め、シックで高級感ある外観に

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赤色のアーチが特徴的なエントランスを茶系の格調高いデザインに変更、夜は真っ暗な入り口にダウンライトを新設。外壁はタイルの上に塗装仕上げ、床タイルも小型から重厚な大判に張り替えました。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

After

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After

縦型ルーバーと壁から浮き出る切り文字サインの館銘板が、ブラケット照明で陰影を生み、全体に高級感を醸し出しています。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

植栽スペースを取り除いた後に蓋付きゴミストッカーを設置し、ポストも宅配ボックス付きタイプに交換。工事中に空室4戸が埋まり満室になりました。

総額/427万円 工期/約1カ月半

(内訳)天井・壁・床タイル仕上げ、照明 122 万円/ルーバー 61万円/館銘板 13 万円/ゴミストッカー24万円/ポスト 45万円/解体費用40万円/その他 115万円

【物件概要】
所在地:東京都目黒区
構造:鉄筋コンクリート造/築年数:35 年
間取り:1K /総戸数:15戸
事例提供:MEコーポレーション

再生事例④築35年|大規模修繕の外壁塗り替えで印象に残るツートンカラーに

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

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大規模修繕に合わせて外観デザインをリニューアル。元のベージュ系外壁は落ち着いた色合いで、よくある印象でした。

建物の内と外、両面で築古ハンデを克服!築30年でもあきらめない!物件再生術2

After

下地の亀裂補修を行った後に、メリハリのあるブルーとオフホワイトのツートンカラーに塗り替えをして、パっと見て印象に残る見た目に。駐車場ラインの引き直しや駐輪場の屋根の塗り替えも実施しました。

総額/600万円 工期/約1カ月半

(内訳)塗装・防水450万円/外壁修繕100万円/その他50万円

【物件概要】
所在地:千葉県千葉市
構造:鉄骨造4階建て/築年数:35年
事例提供:MEコーポレーション

まとめ

「まず古さを感じやすい水まわり設備や昔の仕様は、優先的に改修しましょう」と話すのはリノベーションを担当する都外川さん。

内装は築古だからこそデザインで勝負したいところ。素材・配色でインパクトを出すことで、入居者の印象に残りやすくなります。

「キッチンや照明をお洒落なデザインのものにすれば見栄えがアップできます。デザイン性が高くても手ごろな価格の設備は、豊富にあります」(都外川さん)

使いやすく住み心地の良い部屋、写真を見て印象に残るデザイン、この2点を意識してみましょう。

※この記事は2024年6月12日時点の情報を元に制作しています

取材・文/木村 元紀 イラスト/平井きわ

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