相続した土地の売却にかかる税金はどのくらい? 使える控除と手続き、起こりうる相続トラブルも解説!
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親や親族から相続した土地などの不動産を売却する際には、税金や様々な手続きに関わる費用もかかってきます。スムーズな売却を実現するためには、税金の種類や必要な手続きなどを正しく把握・理解し、適切に進めていくことが大切です。この記事では、相続した不動産の売却で発生する税金や計算方法、活用できる控除の種類、手続きでの注意点までもれなく解説していきます。スムーズな相続不動産の売却を実現するために、ぜひ参考にしてみてください。
相続した土地の売却で発生する税金の種類
まずは不動産を売却するときにかかる代表的な税金を説明します。税金がどの程度の金額になるかをあらかじめ把握しておくと安心です。
1.譲渡所得税・住民税・復興特別所得税
不動産売却によって生じた所得(譲渡所得)には、所得税と住民税が課されます。さらに、所得税には復興特別所得税が加算される仕組みです。譲渡所得税は売却した不動産の所有期間によって適用される税率が異なるので、所有期間を正確に把握しておきましょう。相続で土地不動産を取得した場合でも、元の被相続人が土地を取得した日から計算する点に注意してください。
税率 | ||
長期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるもの | 所得税15% 住民税5% |
短期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のもの | 所得税30% 住民税9% |
譲渡所得は、売却価格から不動産の「取得費」と「譲渡費用」を差し引いて求められます。取得費には、購入代金のほか仲介手数料や登記費用など、購入時にかかった経費を含めることができます。
一方、譲渡費用として計上できるものは「売るために直接かかった費用」となり、不動産会社への仲介手数料や売却に際してかかった広告費などがあります。これらを正しく計上することが譲渡所得税の節税につながります。譲渡所得の計算に必要となる売買契約書などの書類や領収書はきちんと整理しておきましょう。
計算式:譲渡所得 = 譲渡収入金額 −(取得費 + 譲渡費用) |
2.登録免許税
相続による不動産の名義変更や登記には、登録免許税を支払います。土地の評価額や名義変更の内容に応じて税額が変わるため、あらかじめ自分のケースに合った費用を試算しておくことが大切です。
計算式:登録免許税 = 固定資産税評価額 × 0.4% |
3.印紙税
売買契約書を作成する際には印紙税がかかります。印紙税は、契約書の記載金額によって税額が異なります。不動産譲渡に関する契約書については、印紙税の軽減措置により税率が引き下げられています。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円を超え 50万円以下のもの | 400円 | 200円 |
50万円を超え 100万円以下のもの | 1000円 | 500円 |
100万円を超え 500万円以下のもの | 2000円 | 1000円 |
500万円を超え1000万円以下のもの | 1万円 | 5000円 |
1000万円を超え5000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
(国税庁ホームページより)
税負担を軽減するには? 活用できる特別控除の種類

各種特例や控除を活用することで、不動産売却時にかかる税負担を抑えることができます。まずは、土地や建物を売ったときに特例として受けられる特別控除の種類を見ていきましょう。
(1)公共事業などのために土地や建物を売った場合の5,000万円の特別控除の特例
(2)マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
(被相続人の居住用財産(空き家)を売った場合の特別控除の特例)
(3)特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特別控除の特例
(4)特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特別控除の特例
(5)平成21年及び平成22年に取得した国内にある土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除の特例
(6)農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除の特例
(7)低未利用土地等を売った場合の100万円の特別控除の特例
国税庁ホームページ「譲渡所得の特別控除の種類」より
ただし、それぞれの特別控除額は特例ごとの譲渡益が限度となり、その年の譲渡益の全体を通じて合計5,000万円が限度となります。5,000万円に達するまでの特別控除額の控除は、上記の(1)から(7)の特例の順に行います。
以下は、売却する土地・不動産のケースごとに活用したい特別控除をピックアップしてご紹介します。
1.居住用家屋の場合:居住用財産の3,000万円の特別控除

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、最大で3,000万円までの特別控除が受けられるものです。被相続人が住んでいた家屋を相続した場合でも適用条件を満たせば控除の対象となる場合があります。
これを活用すれば大幅な節税につながる可能性がありますが、適用には家屋の取り壊しや住居形態などの細かい要件があります。ご自身のケースが当てはまるかどうかなどの詳細は、税理士などの専門家に必ず確認してください。
2.空き地の場合:低未利用土地の100万円特別控除

低未利用土地の活性化を目的とした制度として、最大100万円の特別控除があります。市町村ごとに指定された区域内の土地であるなど、要件がそろっていればこの特別控除を利用でき、譲渡益から差し引くことが可能です。
ただし適用要件には、土地の活用目的や売却後の利用計画などが求められるケースが多く、自治体に事前の確認が必要です。
3.空き家になっている場合:空き家特例で最大3,000万円の特別控除

相続によって取得した空き家を売却し、一定の要件に当てはまる場合は空き家特例の対象となる可能性があります(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)。この特例を活用すると最大3,000万円までの特別控除が受けられるなど、大きな節税効果が得られます。対象となる家屋の主な要件は以下の通りです。
相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるもの(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限る。)
・昭和56年5月31日以前に建築されたこと。 |
国税庁ホームページ「譲渡所得の特別控除の種類」より一部抜粋
家屋を取り壊し、土地として売却する場合には「建物解体後の土地が事業用や貸付用に供されていないこと」が必要になります。ただし、売却までの間に時間貸し駐車場等にしてしまった場合は特例を利用できなくなる等、細かな要件が定められています。相続した空き家をどう活用するか迷っている場合は早めに専門家に相談し、建て替えやリフォーム、取り壊して活用、売却など様々な可能性を検討して判断するとよいでしょう。
相続から3年以内であれば、取得費加算の特例を利用できる
相続税を納付した場合、一定の要件を満たしていれば相続税額の一部を取得費に加算できる特例があります。この特例を利用することで譲渡所得が減少し、結果として支払う税額の軽減が期待できるのでぜひ活用したいところです。適用要件として相続開始から3年10カ月以内などの期限が設けられているため、相続してから早めに検討しましょう。
税負担が軽減される各種特例はぜひ上手に活用したいところです。適用を受けるためには、特定の期間内での売却や書類提出が前提となる点に注意しましょう。また、このような控除や特例は間違った申告を行うと修正申告や追加徴税が発生するリスクがあります。必ず条件を確認し、税理士などの専門家に相談しながら手続きを進めることが大切です。
特例が使えない場合はどうする? その他の節税対策
特例や控除は「相続から3年以内」といった期限や細かな適用条件があるため「活用できない」という方もいるでしょう。特例・控除を活用できない方も節税できる代表的な方法を紹介します。
譲渡費用をもれなく計上する

売却にあたって発生する測量費や仲介手数料、広告費など、実は譲渡費用として計上できる支出は多岐にわたります。これらを正しく計上することで譲渡所得が減少し、結果として支払う税金をおさえられる可能性があります。売却時に費用が発生した時は、領収書や請求書をきちんと保管し、確定申告の際にスムーズに書類を提出できる体制を整えておきましょう。
不動産取得費がわかる資料を用意する

相続した不動産の取得費が不明なケースでは、売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」が適用されます。ただし、実際の購入時点の取得費が5%よりも大きい場合は、実際よりも譲渡所得が増えてかかる税金も高くなってしまいます。実際の取得費と概算取得費の差が大きければ大きいほど税額に影響してくるため、譲渡所得を確定する前に購入時点の金額を証明できる資料があるかどうかをしっかりと確認しておきましょう。
ふるさと納税を活用する

ふるさと納税は、所得税および住民税の一部を軽減できる制度として注目を集めています。利用されている方も多いでしょう。土地・不動産売却によって譲渡所得が増えた年でも一定の控除を受けることができるため、タイミングを合わせて活用することでトータルの実質課税を抑えられる可能性があります。控除上限額や申告手続きのルールをしっかり理解して活用しましょう。
相続土地を売却する際の手続きと注意点
相続した土地を売却する際には、名義変更や遺産分割など複雑な手続きが必要になります。ここでは主な手順と注意点を解説します。
相続登記や名義変更は、土地売却をスムーズに進めるための最初のステップです。相続人が複数いる場合は遺産分割協議が必要になるなど、手続きに時間がかかるケースもありますので、早期の準備を心掛けましょう。また、売却価格を算定する前に、境界線の確定や土地の測量が必要になる場合もあり、実務的な手間や費用が発生しやすい点にも注意が必要です。
1.相続が発生したら:名義変更、相続登記

相続が発生したら、まずは相続登記をして名義変更しておくことが肝心です。名義変更を放置していると、後に売却手続きを進める際に追加の書類が必要になったり、他の相続人との間でトラブルが発生するリスクが高まります。特に売却する計画がある場合は、早めに法務局で手続きを行い、不備があれば修正できる時間を確保しておくようにしましょう。
相続人が複数いる場合は、土地や建物などをどのように分割して取得するかを決めるために遺産分割協議を行う必要があります。協議が整わないと、売却自体が進められないだけでなく、相続登記や所有権移転にも支障をきたします。全員の意見を十分に調整し、必要に応じて専門家を交えて公平な合意を形成することが、スムーズな売却と良好な人間関係を維持するコツです。
2.売却前の準備:測量、登記手続き

土地の境界が不明確になっている場合や面積に誤差がある場合は、一般的には売却前に測量や分筆登記を行います。境界が曖昧なままでは買主が安心して購入できず、売却価格にも影響を与えかねません。測量士などの専門家に依頼するとお金はかかりますが、売却後のトラブルを未然に防ぐためにも、正確な情報を提示できる状態にしておきましょう。
3.売却活動:売却価格の査定

不動産会社に査定を依頼して、相続土地の実勢価格や将来の需要を考慮した上で売り出し価格を決めていきます。。売却価格の設定は高すぎても売れず、安すぎても損になります。適正な価格付けがスムーズな売却のカギです。複数社に依頼し、査定結果を比較検討することで過大評価や過小評価を避けやすくなります。より有利な条件での売却を進めるためには、市場の需要や周辺の取引事例を総合的に踏まえながら、売却スケジュールや価格戦略を立てていくことが大切です。。
4.売却後:確定申告の準備

相続した土地の売却によって利益が出た場合、譲渡所得として確定申告を行う必要があります。申告にはあらゆる関連書類の提出が求められ、譲渡費の領収書や取得費を示す書類などを準備しておかなければなりません。税金を適切に納付しないと追徴課税のリスクもあるため、必要書類を早めに揃えておくことと、不明点があれば税理士や専門家に相談しましょう。
相続登記や税金計算は専門的な知識を要します。不動産会社だけでなく税理士や弁護士に早めに相談することで、想定外のトラブルを未然に防ぐことにつながります。相続した土地の売却には複数のステップがあるため、それぞれのタイミングで専門家による適切な助言を得ることが最終的な満足度を高めるポイントです。
不動産相続で起こりうるトラブルも事前にチェック!

不動産の相続でトラブルになりかねないケースについて事前に知識を得て、円滑な売却が行われるようにしっかり準備しておきましょう。ここでは弁護士による解説をQ&Aで紹介していきます。
Q1:父の不動産は、相続で3人姉妹の共有となりましたが、妹が持分を第三者に売却してしまいました。
不動産を同じ持分で相続して共有にするのは、一見公平な相続の方法に見えます。しかし、共有には、多くのマイナス面もあります。今回のように、持分の一部が第三者に譲渡されると、第三者を交えた共有となり、相続財産維持の大きな障害となります。
他方、相続財産を売却する場合でも、第三者の協力が必要で、第三者に残った持分も買ってもらう等の検討をしなければならなくなります。ほかにも、不動産の処分方法が共有者間で合意できない等のトラブルは少なくありません。さらに相続が重なると、持分が細分化され協議をすることすら不可能なことにもなりかねません。結局、共有による相続は問題を先送りするだけです。遺言でも遺産分割でも、共有を避けるのが基本といえます。
Q2:認知症だった父の遺言は無効だと主張され、遺産分割がまとまりません。
遺言をめぐるトラブルは「そんなこと父が言うはずがない」という思いが根本にあります。そこで、その客観的な根拠として「認知症で意思決定などできなかった」という事情がしばしばクローズアップされます。公正証書遺言の場合は、公証人が直接被相続人と会って意思確認をしていますので、それ自体で遺言が有効だという大きな証拠になります。
それでも遺言無効が争点になると、認知症の度合いを示すテスト結果や、医師作成のカルテ、会話の録音テープ等々が証拠として提出され、解決までには長時間を要することが少なくありません。認知症が疑われる状態になる前に、被相続人が完全に自らの意思で遺言を作成するということが、遺言トラブルを回避する最も基本的な対策なのです。
Q3:母の遺言で唯一の不動産を私が相続しましたが、兄弟姉妹から遺留分を主張されて困っています。
民法は法定相続分の半分を遺言によっても排除されない遺留分としています。唯一の不動産を一人が相続する場合、相続が一人に集中することで他の相続人はわずかな財産しか相続できず、遺留分減殺請求がなされることになります。遺留分だけ不動産を共有にする方法もありますが、後々のトラブルを回避するために代償金を支払うという解決がよく行われます。
しかし、代償金は相当高額になるケースも少なくなく、だからといって相続財産の維持の見地から売却もできず、結果、売れない不動産を相続した代わりに貯蓄を全て崩し、借金も残ったということになりかねないのです。このような事情を丁寧に説明し、減額や長期の分割など相続で生活が破綻しないよう交渉をすることになります。
まとめ
相続した不動産の売却は、複雑な手続きだからこそ正しい知識を身につけて慎重に進めることが不可欠です。特例や控除の活用によって税負担を抑えられる可能性がある一方、期限や適用条件を満たさないと逆に税金が高くなってしまうケースも。大切なのは、情報を整理しながら専門家のサポートを受け、最適な売却プランを時間的余裕を持って組み立てることです。名義変更や遺産分割協議を迅速に進めておくことで、トラブルを回避しながら納得のいく売却を実現できるでしょう。