その入居者、何年前から住んでいますか?知らぬ間に始まる高齢入居者への対応

「長く住んでくれている入居者」に心当たりがあるなら、すでに高齢入居者を受け入れているかもしれません。今後は福祉サービスとの連携も必要になってきます。入居者の高齢化について解説してもらいました。

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 安心居住委員
株式会社ハウスメイトマネジメント
伊部 尚子さん
高齢入居者の事情に詳しい管理のプロフェッショナル。「高齢者が安心して住める賃貸社会」の実現に向け、業界で先駆けて入居促進に取り組む。
長期入居者が高齢化し、いつの間にか受け入れの当事者に
賃貸住宅では20年、30年と長く住み続けてくれている入居者が少なくありません。
「うちは新規で高齢者を受け入れていないから……」と思っていても、実際はいつの間にか受け入れの当事者になっているというのが現状です。
例えば、新築まもないタイミングで、50代の現役世代が入居し、そのまま20年、30年と暮せば80代の高齢者になります。退職後は年金から家賃を払い、トラブルなく生活している場合は、オーナー様側が高齢化に気付きにくいこともあるでしょう。
しかし、中には家賃の支払いに苦労されていたり、体の衰えを感じながら生活している人もいるのです。
認知機能・身体機能の衰えは急な連絡で気付くことが多い
高齢になってもお元気で、生活サポートの必要がない方は多くいらっしゃいます。しかし、年齢を重ねるにつれて、身体の衰えだけでなく、認知機能の低下も進んでいきます。
ゴミ出しの分別ができなくなったり、掃除ができずに不要物がたまったり、鍵を紛失する、室内で転倒する、火の不始末でボヤを起こすといったトラブルが見られるようになります。本人に自覚がないまま、問題が深刻化していくのが特徴です。
変化に気付くきっかけは「救急搬送で連絡が来た」「設備点検で訪問したときに部屋がゴミ屋敷になっていた」「鍵をなくして入れないと連絡が入った」など、ほとんどが急な出来事です。

高齢の入居者について「室内で亡くなるのでは」と心配されるオーナー様がいますが、実際にはそうしたケースは多くありません。
介護度や病状が進むと、施設へ入所されたり、病院へ入院されることが一般的です。それまではご家族や、ケアマネジャー・訪問看護などの専門職による支援体制が整っていれば安心です。
入居者の様子に変化が生じたら福祉サービスにつなぐ

入居者の高齢化に思い当たる方はいざというときに備え、入居者の様子を把握しておくと良いですね。日常の何気ない対話の中から、違和感を察知することもあります。
高齢入居者の変化に気付いたときは、地域包括支援センターに相談するのが第一歩です。センターには社会福祉士やケアマネジャーが在籍しており、状況に応じて自宅訪問や生活支援につなげてくれます。管理会社が連絡することもありますが、オーナー様自身が直接相談しても問題ありません。あらかじめ所轄の連絡先を控えておくと安心です。
入居者の健康管理は賃貸管理委託契約に入っておらず、管理会社もこれまで想定していなかった分野です。不安に思ったオーナー様からの相談があれば、一緒に対応することができます。
入居者の高齢化は特別なことではなく、誰の物件にも起こりうる「当たり前のこと」になっています。だからこそ、オーナー様・管理会社・地域が連携し、支え合える仕組みづくりが、これからの賃貸経営に求められています。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年8月9日時点のものです。
取材・文/藤谷 スミカ
ライタープロフィール
藤谷 スミカ(ふじたに・すみか)
同志社大学文学部英文学科卒。広告制作プロダクション、情報誌出版社を経て、フリーランスのコピーライターとして30余年。ハウスメーカーの実例取材記事、注文住宅、リフォーム、土地活用に関する情報誌の記事、企業PR誌の著名人インタビュー記事、対談記事、企業単行本の執筆等を手がける。