首都圏中古マンション市場から読む今後の不動産市場の動き。在庫は横ばいも高額物件に変化の兆し
(公財)東日本不動産流通機構(以下、東日本レインズ)は、2025年9月度の首都圏中古マンションの在庫件数、新規登録件数は下落し、成約㎡単価は65カ月連続で上昇したことを発表しました。海外マネーの流入増加や、金利上昇の影響等によるローン返済額の増加など、今後の不動産市場の動向を見ていきます。
市場全体の動向は?
東日本レインズが2025年10月に公表した「月例速報 Market Watch」によると、2025年9月の首都圏中古マンション市場では、新規登録件数は前年同月比で微減、在庫件数はほぼ横ばいとなりました。
一部報道では「在庫減少」が強調されていますが、これは直近数カ月の推移だけを見た場合の話です。不動産市場には季節要因があり、夏から秋にかけては取引件数や登録件数が変動しやすいため、連続する月の比較だけでは市場の実態を正しく把握できません。そのため、前年同月比での分析が重要です。
今回のデータでは、前年同月比で見ると新規登録件数はわずかな減少にとどまり、在庫件数はほぼ横ばいで推移しており、急激な変化は見られません。
海外からの日本への不動産投資が初の3兆円に
2025年1~6月の日本市場における不動産投資額は3兆1932億円となり、調査開始以来、初めて上半期で3兆円を突破しました。アメリカの不動産サービス会社「ジョーンズラングラサール(JLL)」の発表によると、前年同期比22%増と高い伸びを示し、世界の主要都市別の投資額ランキングでは東京が首位となりました。
この背景には、日本の低金利な環境が海外投資家にとって相対的に有利である点が挙げられます。特に金利上昇が続くアメリカや欧州に比べ、日本の安定した金融環境は魅力が高く、東京都心のオフィスビルや商業施設などへの投資が活発化しています。また、円安傾向も追い風となり、海外から見た日本の不動産の割安感が投資意欲を後押ししていることがうかがえます。
過去にもコロナ禍の影響により、2020年に東京が世界一となった例はありましたが、当時の投資額は150億ドル(約1兆6000億円)と限定的でした。2025年はその約2倍の規模となっており、海外資金の存在感は格段に高まっています。こうした大規模な資金の流入が、不動産の成約価格を押し上げる要因となっています。
投機目的のマンション取引、千代田区で規制か
アメリカにおいては不動産価格の高騰を背景に売買の動きに鈍化が見える一方、中国人富裕層をはじめとする外国人による中古住宅の購入件数が前年同期比で4割増加していると報告されています。さらにこうした動きを受け、一部では購入規制の議論が進んでいます。
日本でも同様に、外国人投資家による不動産の「転売」への警戒感が強まっています。東京都千代田区は、投機的なマンション取引を抑制するため、原則5年間の転売規制を(一社)不動産協会に要請しました。中野区もこの動向を見極めつつ検討する姿勢を示しており、国交相も投機的取引への懸念を表明しています。
今後、こうした転売規制の動きが加速すれば、市場の過熱が抑えられる一方で、不動産価格が下落に転じる可能性も出てきそうです。
「バブル期並み」という表現は正しい?
最近では「1㎡あたり85.18万円はバブル期並み」という表現を目にすることがあります。しかし、この比較には注意が必要です。
現在の平均単価は確かに高水準ですが、その背景には高額物件の増加があり、平均値が押し上げられている状況です。バブル期との比較を正しく行うには、中央値を用いることが適切です。実際、郊外の中古マンション価格はバブル期の方が現在よりも高額でした。つまり、単純に平均値だけで「バブル期並み」と判断するのは誤りであり、より細やかな分析が求められます。
住宅ローンが家計を圧迫。不動産市場は鈍化?
株式会社LIFULLが2025年7月に公表した「住宅ローンに関する意識調査」によれば、世帯月収に占める住宅ローン返済額の割合が「3割以上」と回答した人は21.7%となり、前回調査の18.1%から3.6ポイント上昇しました。このことからも金利上昇の影響で返済が重荷になっている世帯が増えていることは明らかです。
また、借入額に対する意識を尋ねたところ、返済額が月収の1割以上を占める層では「もっと借入額を減らせばよかった」と後悔を口にする回答が前回の調査より増えており、家計の余裕が削られる厳しい状況が浮き彫りになりました。
さらに、住宅ローンを将来まで払いきれるかという不安については、購入者の24.7%が「大いに不安がある」と回答し、前回調査の18.7%から増加しました。一方、購入検討者では57.4%と半数を超える人が返済に不安を示しており、こちらも前回調査の50.2%から大幅に上昇しています。金利の先行きが読みにくい中で、購入を検討する段階から不安を抱える人が増えている状況です。
こうした返済の負担増加や将来への不安の高まりは、住宅の取得意欲の低下につながる恐れもあり、先述の「転売規制」とあわせて、今後の不動産市場の動きが鈍化することも懸念されます。
まとめ
2025年9月の首都圏中古マンション市場では、新規登録件数が3ヵ月連続、在庫件数が2ヵ月連続で減少しました。その一方で、成約件数は11ヵ月連続で増加し、成約㎡単価は65カ月連続で上昇、1㎡あたり85.18万円となり、前年同月比12.3%の大幅な伸びを記録しました。
高額物件の在庫急増は、価格調整の兆しと考えられます。過去の市場動向を振り返ると、値崩れは高額物件から始まり、その後中価格帯や低価格帯へと波及する傾向があります。
このため、現在7000万円以上の物件で見られる在庫増加は、今後7000万円未満の物件にも影響を及ぼす可能性があります。特に、金利上昇や景気動向によっては、価格下落が広がるスピードが加速することも考えられます。購入を検討している方や投資家にとっては、こうした兆しを見逃さないことが重要です。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年11月12日時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















