家賃高騰・築古人気・地方都市躍進・外国人需要ー2025年の賃貸市場を振り返る
賃貸市場における2025年は、まさに「家賃上昇」をキーワードに動いた一年でした。なかでも東京23区をはじめとする都市部において顕著であり、住まい探しはもちろん、不動産投資や賃貸経営に与えた影響は決して小さくありませんでした。そんな2025年を振り返るべく、アットホーム(株)は「2025年の賃貸市場における4大ニュース」を発表。この内容を詳しく解説し、今後の賃貸経営のヒントを探っていきたいと思います。
①東京23区のシングル向きマンション平均家賃が10万円超に
4大ニュースとして挙げられた一つ目のニュースは、「東京23区のシングル向きマンションの平均家賃が10万円を超えたこと」です。
アットホーム(株)が毎月公表している「全国主要都市の『賃貸マンション・アパート』募集家賃動向」によると、2025年の5月に初めて10万円を突破した後も上昇を続け、2025年9月まで16カ月連続で最高値を更新しています。
ちなみに、家賃10万円の壁を越えた区は以下の13区となっており、特に都心部や交通利便性の高いエリアに集中していることがわかります。このことからも、家賃上昇は23区全体で一律に起きているわけではなく、需要が集まりやすいエリアの周辺区で顕著に見られることが明らかです。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
さらに、主な単身層である20~34歳を対象とした東京23区の人口移動を見ると、コロナ禍を挟んだシングル向きマンションの家賃の上昇・下落は、転入超過数の推移とほぼ同じ動きをしています。
地方移住が注目された時期もありましたが、実際のデータを見る限り、東京への人口集中が反転したとは言い切れず、都心部の賃貸需要は引き続き堅調な状況にあると言えます。
地方移住が注目された時期もありましたが、実際のデータを見る限り、東京への人口集中が反転したとは言い切れず、都心部の賃貸需要は引き続き堅調な状況にあると言えます。
今後も東京への一極集中は収まる気配はありませんが、「東京23区ならどこでも家賃を上げられる」と判断するのは早計です。物件ごとの差別化ポイントはもちろん、エリアごとに需要の差があることは考慮すべきです。
②「築古」「アパート」など低家賃物件に注⽬が集まる
2025年の4大ニュース、2番目には「『築古』や『アパート』といった低家賃帯の物件への関心の高まり」が挙げられています。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
上記の図表④のとおり、新築や比較的築浅の物件の家賃が軒並み上昇しているのとは反対に、築30年を超える物件は、2024年半ばまで家賃の上昇はほとんど見られません。その結果、「築年数より家賃を重視したい」「新築でなくても駅近など立地を優先したい」と考える層が増え、築古物件にも目を向けるようになったのです。
また、アパートはマンションに比べて賃料が2割~4割程度安く、築浅でも7万円台で借りることができるなど、価格面で現実的な選択肢となっています。
さらに1物件あたりの反響を見ると、2024年時点ではマンションの反響の方が高いものの、2025年の反響はアパートが逆転しています。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
反響の2024年比を見ても、アパートの方がシングル向き・カップル向きともに20ポイント以上高くなっており、検討者が家賃負担を抑えるために、より手頃なアパートに対象を広げたことは明らかです。
今後は、資材や人件費の高騰などを背景に建築コストが下がりにくい状況が続くと思われます。そのため、新築・築浅の家賃が高止まりする限り、相対的に「築古」「アパート」は、検討者から選ばれやすいと考えられます。
しかし「築古」物件自体の付加価値が高まっているわけではありません。給排水管の劣化や修繕コストの負担といった管理面の難しさもあり、価格の安さだけを投資判断の基準とするべきではありません。
③福岡市が躍進。家賃上昇率トップ3の常連に
3番目は、「福岡市が『全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向』において、平均家賃の前年同月上昇率トップ3にランクインしたこと」でした。
シングル向き、カップル向き、ファミリー向きと、入居者層による差もほぼなく、毎月トップ3に入るなど、家賃の上昇は顕著です。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
さらに、家賃水準が比較的近い名古屋市・大阪市・福岡市の3都市の家賃を比較してみましょう。最も高い都市は大阪市ですが、福岡市はカップル向きで2024年10月に、ファミリー向きで2023年2月にそれぞれ名古屋市を逆転しており、以降その差は広がっています。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
このように福岡市で家賃上昇が顕著なのには理由があります。まず、新幹線や飛行機の他にも、船やバスといった交通インフラが充実しており、暮らしやすいこと。さらには「天神ビックバン」に代表される大規模再開発が堅調に推移しており、インバウンド向きの企業や人を誘致できる下地があることが主な理由として挙げられます。
今後、福岡市のような地方都市を投資先にするという考えもあるかと思いますが、行政の施策や再開発の予定だけを判断基準にするのは危険です。
特に再開発においては計画の有無よりも、その実行具合が重要で、建築資材の高騰や、職人・技術者の不足といった諸問題を理由とした計画の修正や延滞は名古屋市や中野区を見れば明らかです。予定通りに進まないことも多々ある再開発を頼みにするにはリスクがあります。
④賃貸市場で外国⼈の存在感が⾼まる
最後に挙げられたトピックは、「賃貸市場で外国人の存在感が高まっている」ことです。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
国内の外国人の数は年々増加の傾向にあり、2012年からの在留外国人数の推移を見ると、コロナ禍で一時減少したものの、2022年以降徐々に回復し、2025年6月末には過去最高の約396万人に達しました。
また、アットホーム(株)では四半期毎に「地場の不動産仲介業における景況感調査」を公表しています。その中で賃貸仲介の業況に関する不動産店の2025年Ⅰ~Ⅲ期のフリーコメントを期毎に集計したところ、「外国人」というワードが最も多く登場していました。
さらに、「外国人」を含むコメントをした不動産店の業況DI(Diffusion Index)は、3期全てで「景気がよい」とされる50を超えており、外国人増加は業況に対し概ねプラスの影響を与えていると考えられています。

画像引用元:2025年の賃貸市場における4大ニュース|アットホーム株式会社
こうした状況に、不動産会社からは「外国人入居者数は年々増加し、今年も前年を上回っている」といった声も少なくなく、外国人の存在感が一段と高まっていることがうかがえます。また、「外国人実習生の法人契約が増えている」「高家賃の部屋は外国籍の方が成約するケースが目立つ」など、法人契約や富裕層の増加など客層の変化も指摘されています。
このように、賃貸住宅に外国人入居者を受け入れるケースも当たり前のように見られます。さらに人手不足による企業の積極的な採用を背景に、今後も外国人の数は増加していくでしょう。この状況に対応できるか否かが賃貸経営において重要な岐路となります。
例えば、文化の違いによるトラブルへの対応などは、契約時の丁寧な説明や入居後のフォロー、受け入れ体制の工夫などが考えられます。こうした取り組みが進めば、多様な入居者を受け入れる柔軟な賃貸市場が形成され、ひいては「地域の活性化=新しい投資先」の開発にもつながっていくことが期待されます。
まとめ
2025年の賃貸住宅市場は、「家賃上昇」を軸に住まい選びの価値観が大きく変化した一年でした。東京23区ではシングル向きマンションの平均家賃が10万円を突破し、都市部を中心に賃貸需要の底堅さが改めて示されました。コロナ禍以降、都心回帰の動きは依然として強いまま、都心部や利便性の高いエリアに人気が集中する一方、家賃の負担増加が顕在化しています。
こうした状況を受け、検討者の視線は築古物件やアパートといった低家賃帯の物件にも向きはじめました。「築年数よりも家賃」「新築より立地」といった現実的な判断が主流となり、住まいの選択肢はむしろ多様化してきています。
2025年は、賃貸市場が量から質、そして柔軟性を重視する新たな段階へと進んだ年でした。オーナーにとっては、家賃戦略の見直し、築古物件の付加価値向上、外国人対応の体制整備が急務です。今こそ、データを踏まえた賃貸経営のアップデートを始めましょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年12月22日時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。

















