高齢入居者の暮らしと健康変化にどう備える?賃貸オーナーが知っておきたいポイント
高齢化が進む中、賃貸住宅でも高齢の入居者が増えています。健康状態の変化にどう対応すればよいのか、オーナーとして知っておきたい基本をまとめました。いざという時に備え、ご家族や地域と連携できる体制を整えておくことが安心につながります。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 安心居住委員
株式会社ハウスメイトマネジメント
伊部 尚子さん
高齢入居者の事情に詳しい管理のプロフェッショナル。「高齢者が安心して住める賃貸社会」の実現に向け、業界で先駆けて入居促進に取り組む。
高齢者の変化に気が付いたら福祉サービスや家族と連携を
ご入居者の多くは高齢になっても元気に過ごされており、ある日突然に変化が起きるわけではありません。外出の回数が減る、話し方や行動が変わる、足もとが少しおぼつかない……。
そんな様子が見られたら、身体や認知機能の衰えが始まったサインかもしれません。気が付いたときは、ご家族や地域包括支援センターに相談し、早めに様子を見てもらいましょう。
心身の状態に不安があるようなら介護認定を経て、必要な支援を受けることが可能です。日常生活で多少の支援が必要な方は「要支援」、日常的に介護が必要な方は「要介護」と判定され、それぞれに応じたサービスを利用できます。
介護度が軽度の方はご家族やケアマネジャーの協力を得ながら賃貸住宅で生活を続けます。足腰の衰えを感じたご入居者が「手すりをつけたい」「トイレを洋式にしたい」と希望する場合、介護保険を利用した入居者負担で設置や改修も可能です。要望があった場合にオーナー様は、できる範囲で応じていただければと思います。
施設入所の検討段階となる判断の目安は?
介護度が進んだり、病気や転倒などを契機に、ご入居者が日常生活を続けにくくなるケースもあります。
「掃除や洗濯が滞る」、「室内で転倒が増える」といった身体機能の低下や、「ゴミの分別がわからなくなる」、「鍋を焦がす」、「カギを頻繁に失くす」といった認知機能の低下が見られたら注意が必要です。認知症の症状から「誰かが侵入した」「物が盗まれた」といった訴えが出ることもあります。
目安となるのは「自立した生活」が送れるかどうかです。「買い物やゴミ出しができない」、「認知症によるトラブルが頻発する」などの状況が見られたら、ご家族や支援機関と相談します。自立した生活が難しいとなれば、施設入所のために退去される方が多いです。「お金の問題は?」と思われるかもしれませんが、ほとんどの方は退去や入所の費用を準備されています。
高齢のご入居者を福祉サービスにつなごうとしても、多くの方は「自分は元気だから」と最初は拒まれるものです。
だからこそ、私たちは定期的な巡回などでお話し相手になり、小さな変化にも気付ける信頼関係づくりをしています。万一の際の対応を決めておけば、過度に不安を抱く必要はありません。
何か起きたらすぐに次の行動を取れる準備を
高齢ご入居者の対応では、何か起きたときにすぐ次の行動を取れるように備えておくと安心です。2年ごとの契約更新時にご家族などの緊急連絡先等を記入してもらう「身上書」は、ご入居者の状況を把握する手がかりにもなります。返答がない場合、手紙や電話で連絡を取ることで変化に気付けます。
ご家族や地域の支援者との協力関係ができると高齢の入居者を安心して受け入れられ、ご入居者の幅も広がるように感じます。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年12月1日時点のものです。
取材・文/藤谷 スミカ
ライタープロフィール
藤谷 スミカ(ふじたに・すみか)
同志社大学文学部英文学科卒。広告制作プロダクション、情報誌出版社を経て、フリーランスのコピーライターとして30余年。ハウスメーカーの実例取材記事、注文住宅、リフォーム、土地活用に関する情報誌の記事、企業PR誌の著名人インタビュー記事、対談記事、企業単行本の執筆等を手がける。

















