改正民法内で見直し!「相隣関係」とは?”枝の切り取り”など施行のポイントをわかりやすく解説
- その他トラブル
何かと話題の「所有者不明土地問題」に対処するため、長い歴史を持つ民法の相隣関係規定が改正され、2023(令和5)年4月1日に施行されます。今回は賃貸オーナーの関心が高い主な改正点について、久保原弁護士に解説していただきました。
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〈久保原弁護士プロフィール〉京都大学大学院法学研究科修了。2008 年、九帆堂法律事務所設立。最高裁で勝訴した更新料裁判では、首都圏で唯一の弁護団所属弁護士として様々な情報を発信。
〈伊藤弁護士プロフィール〉東京大学法学部、同法科大学院修了。2018年、九帆堂法律事務所入所。大家さんの代理人として多数の賃貸借案件を扱う。
「所有者不明土地」の急増で相隣関係規定を見直し
相隣関係規定は、隣り合った土地の権利調整に関し定めています。例えば、囲まれた土地から公道に出るための通行権や、工事等での隣地の使用、隣地に流れ込む雨水、境界標や障壁などについて規定されています。
明治期に民法が制定された際、海外の民法を手本としつつ、日本の生活環境・文化に即して相隣関係規定が定められましたが、それから社会状況は大きく変化しています。
また、隣地間で調整すべき問題の多くは、判例や特別法の制定によって対応されてきましたが、条文上明確にする必要性も高まっています。
特に、現在は、「所有者不明土地問題」が極めて深刻な社会問題となっています。民法の相隣関係規定は、必要に迫られた場合には隣地の所有者と訴訟等により紛争解決が可能なことを前提に設計されています。
しかし、所有者が誰か分からない土地、所有者が所在不明の土地が増加し、この前提は崩れつつあります。そこで相隣関係規定が改正されることになりました。
①隣地使用権について
隣地使用について現行民法では、土地所有者は、土地の境界・その付近で、「障壁又は建物を築造し又は修繕するため」に「隣地の使用を請求することができる」と定めています。
あくまで「使用を請求することができる」と定められており、当然には使用権は認められず、隣地と争いがある場合は訴訟で認められて初めて隣地の使用が可能になると解釈されています。
しかし、隣地が所有者不明もしくは所在不明の場合、隣地所有者の調査や追加の手続きをしたうえで訴訟をしなければならず、非常に大きな負担です。そこで改正後民法は、「隣地を使用することができる」と、隣地使用権を明確に規定しています。
また、使用目的も、「障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕・境界標の調査又は境界に関する測量・枝の切取り」と拡大し、隣地使用に際しての負担を軽減する内容となっています。
他方で、隣地側の権利が過度に制限されないよう、①損害が最も少ない日時、場所、方法を選んで使用しなければならないこと、②隣地所有者らへの(原則事前)通知義務、③損害に応じた隣地への償金の支払義務という各規定も定められます。
賃貸経営の中で、建物や設備の建築・補修・解体や、境界の確認・土地の測量等のために隣地使用の必要が生じた場合に、改正法を確認すると良いでしょう。
②ライフラインの設置等の権利について
ライフラインに関する隣地の使用権等について、現行民法に規定はありません。今回の改正で初めて、民法が正面からライフラインについて規定することになります。
土地所有者は、ライフライン(電気、ガス、水道、電話、インターネットなど)を設置・使用するための、隣地等への設備の設置権、他人所有の設備の使用権が認められます。
ライフラインを使うために複数の土地をまたぐ必要がある場合、直接接していない土地への設備設置、使用権も認められます。
①損害が最も少ない場所・方法を選ばなければならないこと、②事前通知義務、③損害に応じた償金の支払義務の各規定が定められるのは隣地使用権と同様です。
なお、ライフライン設置に際し承諾料を要求されることがありましたが、改正法では承諾料支払義務の規定は盛り込まれず、承諾料を支払う法的義務はないことが示されたと考えられています。建物の建築や大規模修繕、マンションの電話・インターネット工事等の際に、本条項が関係します。
③枝の切り取りについて
越境した枝の切り取りに関する規定も改正されます。現行民法は、竹木の「根」が土地の境界を越えて生えてきたときは土地の所有者は「自ら根を切ることができる」一方、境界を越えてきたのが「枝」であるときは、土地の所有者は、その「竹木の所有者に枝を切らせることができる」と定めるに留まっています。
そのため、竹木の所有者が枝を切らない場合や所有者が不明・行方不明の場合には、基本的には毎回裁判が必要となりえます。枝が伸びるたびに裁判を起こす必要があるとすると非常に大きな負担であり、解決方法として不十分です。
今回の改正は、「竹木の所有者に枝を切らせることしかできない」という原則は変えずに、次の3つの場合には隣地所有者が枝を切ることができる、と定めるようにしました。
①枝を切るよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当期間内(基本的には2週間程度と考えられています)に切らないとき
②竹木の所有者が不明若しくは所在不明のとき
③急迫の事情があるとき
「所有者不明土地」を作らないことが重要
今回は相隣関係規定について説明しましたが、改正の背景にある所有者不明土地問題は、深刻な問題です。私どもへの法律相談も増えています。
まずは、自分が所有者不明土地を作らないようお願いしています。仮に価値がないと思われる土地を相続したような場合でも、適切な管理・処分を検討していただきたいと思います。
また、相続問題を次世代に先送りせず、細分化された共有持分を作らないことも重要です。隣地との関係も含めて土地の管理と考え、隣地が所有者不明土地にならないよう、常に注意を払っていただきたいと思います。
先人から受け継いだ土地の管理に責任感を持つことこそ、土地の価値の維持のみならず、地域社会の崩壊を防ぐための強力な対策となりえます。
まとめ~「改正民法内の相隣関係の見直し・施行」のポイント~
◎隣地の使用が「請求できる」から「使用することができる」ように改正。使用目的も拡大(使用にあたっては通知義務などの規定あり)
◎電気やガスなどのライフラインを設置・使用するための隣地等への設備の設置権、他人所有の設備の使用権が認められた
◎境界を越えた枝を切るよう催告しても相当期間に切らない、所有者不明、急迫の事情がある場合は自ら枝を切ることができるようになった
※この記事内のデータ、数値などに関しては2022年9月7日時点の情報です。
イラスト/黒崎 玄
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