建て替え?リノベーション?判断のポイントを解説[建築の基礎知識#4]

築年が古くなって老朽化したアパートを持ち、空室や家賃下落を何とか改善したいというオーナーは少なくありません。現状を変えるために「建て替えるべきか、それともリノベーションがいいのか」、迷ったときの判断基準を解説します。

建て替えか?リノベーションか?4つの分かれ目とは

木造の法定耐用年数は22年、鉄骨造は同27年、鉄筋コンクリート(RC)造は47年です。

アパートや賃貸マンションが老朽化してそれぞれの法定耐用年数に近づいてくると、空室が目立ってきたり、家賃が値下がりしたり、賃貸経営が壁にぶつかってきます。

そんなときに悩むのが「建て替えかリノベーションか」という問題です。売却するのが早道かもしれませんが、代々受け継いだ土地を手放したくないという不動産オーナーも多いでしょう。

ポイントは図1のように、4つあります。それぞれについて解説しましょう。

建て替え?リノベーション?判断のポイントを解説[建築の基礎知識#4]2

ポイント①所在地が賃貸ニーズに合っているか?

まず、現在アパート・マンションが建っている場所が、賃貸ニーズに合っているかどうかをチェックしましょう。

周辺に同様のアパート・マンションがあり、それなりに入居者がいて稼働率が悪くない状態なら、その地域には一定の賃貸ニーズがあると考えられます。

所有している物件の空室が増えているのは個別の原因、つまり、建物が古くなって機能が落ちてきたり、プランが現在のニーズにマッチしなくなったりしているからです。

この場合は、建て替えにしろ、リノベーションにしろ、同じ場所で再投資をして課題解決もできるでしょう。

しかし、同じ地域で、新築でも満室になりにくいとか、築年が古くなると家賃を値下げしても部屋が埋まらないような地域の場合は、再投資は控えた方が良いかもしれません。

地域の人口減少や工場・学校移転などにより賃貸需要そのものが減退しているか、一時期に賃貸住宅が急増して供給過剰になっているか、いずれかでしょう。こうなると、仮に最新のプランや設備で建て替えやリノベーションをしたとしても入居者は確保できません。

このような立地で、建設会社やリフォーム会社の営業に乗って、多額のローンを組んで建て替える、あるいは大掛かりなリノベーションをしてしまうと、見込んでいた収入を得られず、返済に苦労するでしょう。

最悪の場合、土地建物を手ばなさざるをえなくなるかもしれません。売却して現金化するか、賃貸ニーズのある場所に買い換えを検討するのが賢明でしょう。

ポイント②賃貸事業の後継者がいるか?

建て替え?リノベーション?判断のポイントを解説[建築の基礎知識#4]2

次は「建て替えかリノベーションか」の最初の分岐点で、オーナーのライフプランにかかわるポイントといえます。

建て替えとリノベーションでは、おのずと投資金額が違います。

建て替えの場合は、小規模なアパートでも最低4000万~5000万円以上。建築資金はローンで賄うのが一般的ですから、返済が終わるまでの20~30年の事業計画を立てなければなりません。

オーナーがすでに60歳以上なら、自分が経営に携われなくなった後に、誰が経営を引き継ぐかを想定しておく必要があります。事業承継者がいなければ金融機関から融資も受けられません。

一方、リノベーションの投資金額は、数百万円から数千万円。事業計画も3~5年くらい、長くても10年程度でしょう。

オーナー自身の判断で実施できる範囲です。暫定的にリノベーションを行い、抜本的な対策は次の世代にゆだねるというスタンスといえるかもしれません。

ポイント③建物の基本構造や部屋の広さ、維持管理状態に問題がないか?

3番目は、ハード面に関わるポイントで、リノベーションに向くかどうかの条件ともいえます。

a)耐震性

現在の建物が1981年5月以前に建築確認を受けた「旧耐震設計」の場合、耐震補強や耐震改修のコストも合わせて検討しなければなりません。

「リノベーション+耐震改修」では、採算が合わない可能性が高いため、建て替えのほうが有望です。

b)1部屋の面積

現在、広めの住戸を求める声が高まっています。たとえば、ワンルームや1Kでは最低20㎡以上、できれば25㎡以上が人気です。

リノベーションでは基本的に部屋の面積を広げられないため、20m2未満の狭いタイプは内装を変更した効果しかありません。

バス・トイレ別を希望するのが当たり前になっている現在、部屋が狭いと、古い3点ユニットバスをバス・トイレ別に分離するのも難しいでしょう。

ワンルーム2部屋を1部屋にして1LDKにするリフォームも物理的には可能ですが、費用が大きくなるため、投資回収が簡単ではありません。

c) 大規模修繕

外壁補修、屋根・屋上防水などの大規模修繕が10年以内に実施済みかどうか。

もし、耐用年数を越えて老朽化した状態で大規模修繕が行われていない場合、数年以内に必要になるはずです。

リノベーションと大規模修繕をセットで行うと、投資額が大きくなりすぎる可能性があります。この場合の判断も、建て替えに傾くでしょう。

ポイント④投資した資金を短期間に回収できるか?

ここまでのポイントで方針が決まらない場合は、最終的に費用対効果で判断しましょう。図2のように、建て替えとリノベーションでは判定基準が異なります。

建て替え?リノベーション?判断のポイントを解説[建築の基礎知識#4]2

リノベーションの場合は投資回収期間で判断します。リノベーションにかかった費用が、増加した収入の何年分に相当するかという計算です。

投資回収期間が短期かどうかの別れ間は2~3年と言われます。資金回収後に一定期間は事業を続けて、収益を上げることも必要でしょう。

リノベーション後の事業期間の半分以内で資金回収できるかどうかも、判断基準の1つです。

たとえば、総戸数10戸、1部屋の家賃が7万円の場合、満室想定賃料は年840万円。これに対して、空室率が3割の状態だったとすると、実際の収入は588万円です。

リノベーションによって満室にできれば年間252万円の増収になるので、3年以内に回収できる金額は約750万円となります。

短期回収が難しいリノベーション計画の場合、再投資金額を抑えるか、建て替えに変更するかを考えます。

建て替えの場合は、表面利回りが8%以上、できれば10%を目指したいところです。

表面利回りを計算する際に分母となる投資総額は、付帯設備を含む建築費に加えて、外構や造園費用、既存入居者の立ち退きや明け渡し交渉の経費、解体費など、すべてを合計した総事業費を意味します。

実際の賃貸経営では、満室想定賃料から、空室分のマイナスや必要経費を差引いた純収益(NOI)をベースに考えることが大切です。

この純収益を基にした費用体効果の基準は3%以上となります。余裕を持つなら、5%以上が望ましい水準でしょう。

文/木村 元紀

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