賃貸アパート・マンションの経営に必要な初期費用はいくら?[資金・税金#1]
賃貸アパート・マンション経営では、建築費以外にも様々な費用が掛かってきます。どのような費用があるのでしょうか。予算に組み込んでおきたい初期費用の種類と目安について解説します。
初期費用は建築総額の5~15%。建て替えは解体費が大きな負担に
建築費の他に必要な費用は、図1のように多岐にわたります。大きく分けると、建築にともなう費用と、税金や融資の手続きにかかわる諸費用があります。
ざっと、どのくらいの金額になるかを先に紹介しておきましょう。図1の試算は、古いアパートを建て替えた事例です。
新築したのは、25m2の1Kが8戸の木造アパートで、建築総額は7000万円。ローンは建築費の9割を想定しています。結果は、総額で800万円強、建築総額の11.6%です。建て替えの場合は10%前後と見ておけばいいでしょう。
これらの初期費用のうち一部はローンに組み込むことも可能ですが、ローンの実行は建物が竣工して残金決済・引渡しが終わった後のため、支払いは先行します。ローンの頭金以外に、これくらいの手持ち資金は用意しておかなければなりません。
では、具体的な費目について、建築関係から説明しましょう。
解体費
建築関連でもっとも大きな金額になるのは解体費です。昨今、廃棄物の処理・リサイクルに関する規制が厳しくなっていることもあり、年を追うごとに価格が高騰しています。構造別の目安は、木造で1坪(3.3m2)当たり6万円、軽量鉄骨が同8万円、鉄筋コンクリート造は12~13万円です(2021年現在)。
立ち退き料
古いアパートの旧居住者に部屋を出てもらうための経費です。このケースでは8戸のうち3戸に、6カ月分の立退料が発生したと想定しました。
中には、立ち退き料なしに円満に明け渡しが終わる例もあるようですが、だいたい全体の3~4割に立ち退き料が発生する可能性があると見ておいた方が良さそうです。
建て替えではなく更地に新築する場合は、立ち退き料や解体費が不要ですので、初期費用は大幅に低くなります。建築総額の5~7%で収まるケースもあるでしょう。
測量費・地盤調査
測量費目安としては十数万円から数十万円程度。地盤調査は、2~3階建てまでの小規模なアパートであれば、スウェーデン式サウンディング試験という簡易調査で費用は5万円前後です。中高層のマンションでは、ボーリング調査(標準貫入試験)が必要になり、20~30万円くらいが相場と言われています。
この例では、地盤調査のみを計上していますが、軟弱地盤であることが判明した場合は地盤改良工事が必要になるかもしれません。
そうなると、地盤状況や工法によって差がありますが、50~60万円から200~300万円くらいかかるようです。大掛かりな地盤改良が必要になる場合、初期費用全体で建築総額の15%くらいに達する可能性もあります。
地鎮祭・上棟式
着工前と建築中に行われる伝統的な建築儀式に関わる費用です。最近では、こうした儀式は省略されるケースも増えてきました。地鎮祭は実施しても上棟式は見送る例も多いようです。
特にプレハブ系の建築では、骨組みの建て方までと内外装が分業化されているため、職人の慰労や親睦を兼ねた上棟式はなじまないとか、日程調整で工程が遅れることを嫌がる、などの理由があります。
地鎮祭も、事前に神社でお祓いをしてもらい、現場では鎮目物を埋めるだけという簡易化された方式も少なくありませんが、この試算では一般的な目安を採用しています。
意外に大きい不動産取得税とローン保証料
建築した時にかかる税金は、印紙税、登録免許税、不動産取得税の3種類です。他に消費税もありますが、建築費に含まれているものとします。
印紙税
一定の契約書を作成する際に、取引金額に応じて支払う国税です。工事請負契約とローン契約(金銭消費貸借契約)の場合は、図2のように決められています。
登録免許税
所有権や抵当権などの権利を法務局に登記する際にかかる国税です。建物を新築した場合は「所有権保存登記」、ローンを借りた場合は金融機関が担保に取るための「抵当権設定登記」が必要になります。
計算式は、所有権保存登記が「固定資産税評価額×0.4%」、抵当権設定登記が「借入金額×0.4%」です。なお、自分で住むためのマイホームには軽減措置がありますが、賃貸住宅にはありません。
登記をする際には、司法書士に手続きを代行してもらうため、司法書士手数料が併せてかかることも忘れないようにしましょう。
不動産取得税
新築・購入・増改築・贈与・交換などによって不動産を取得した場合にかかる都道府県税です。本則の税率は4%ですが、現在、住宅の場合は3%に軽減されています。税額は、登録免許税と同様に固定資産税評価額に税率をかけて計算する形です。
不動産取得税には、アパート・マンション建築でも、大幅に税額が安くなる軽減措置が設けられています。ただし、床面積(※)が40㎡以上などの条件に当てはまらなければなりません。対象となるのは広めの1LDK以上でしょう。
図1の試算では25㎡の1Kですから、軽減は適用されません。軽減がないと、大きな金額になります。建物の引き渡しを受けた後、自治体ごとに決められた期間内に申告納税を行うことが必要です。
※マンションの場合、専有面積にエントランスホールや内廊下などの共用部分の面積を按分した面積を合算したものになるため、専有面積が40m2弱でも適用対象になる場合もある
ローン関係費
税金以外で、意外に負担が大きいものがローン保証料です。金融機関が提携する保証会社に支払うもので、返済期間に応じて100万円あたりいくらという形で決められています。
従来は、一括前払いが一般的でしたが、現在は借入元金に組み込むタイプ、金利に0.2~0.3%上乗せするタイプなどがあり、初期費用には計上しなくて済むケースも金融機関によっては選べるようです。他に、金融機関に申し込む際に請求される数万円の事務手数料もあります。
他に、建築費の支払いとローン実行のタイミングのずれを埋めるために、つなぎとして先行融資や分割融資を行う場合に、建築期間中の支払い利息(期中利息)がかかる場合もあります。ただ、融資条件や支払い時期によって大きく変わりますので、ここでは試算に入れていません。
以上、建築にかかわる初期費用について解説しました。支払うタイミング、支払先もそれぞれ異なるため、直前に慌てないよう、建築総額の10%前後はあらかじめ準備しておきましょう。
文/木村 元紀
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