賃料アップのチャンス?東京23区の賃貸物件が過去最高賃料を更新。大家さんが取るべき行動とは
都市部を中心に賃貸物件の賃料上昇が話題になっていますが、その中でもすぐに借り手が決まる人気エリアが存在します。本記事では、LIFULL HOME'Sが公開した賃料データや賃貸物件の掲載期間の調査結果をもとに、賃貸市場の最新動向を解説。大家さんがどのように対応すべきかについても考察します。
23区ではシングル・ファミリーともに過去最高賃料を記録!
2024年1月からの傾向
LIFULL HOME’Sでは、掲載された物件データやユーザーがLIFULL HOME’Sを介して不動産会社に問い合わせた物件データをマーケットレポートとして公開しています。
これまでのレポートによると、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)では、シングル向き賃貸物件、ファミリー向き賃貸物件ともに2024年1~3月の引越しシーズンに掲載物件平均賃料が大きく上昇しています。
その後は、横ばいからやや下落傾向でシングル向きは2024年8月から4カ月連続で前月の賃料水準を下回っていましたが、12月は5カ月ぶりの上昇となりました。
シングル向けの平均賃料:7万8,500円(問い合わせのあった物件は8万981円) |
ファミリー向けの平均賃料:13万458円(問い合わせのあった物件は12万254円) |
賃料が一時的に下落しても、エリアによっては再び上昇する傾向があります。需要が高いエリアでは強気の賃料設定が可能ですが、そうでない場合は適正価格に調整することで、早期に入居者を確保できます。大家さんは需要動向に注目し、適正な賃料設定を行うようにしましょう。
東京23区では過去最高の賃料を更新!
2024年12月のデータでは、東京23区のシングル向け平均賃料が10万3,914円に達し、過去最高を更新。ただし、実際に問い合わせがあった物件の賃料は9万4,183円と、賃料の乖離率(乖離率=掲載賃料と実際の契約賃料の差)が10.3%とやや高めでした。
特に、都心6区(千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区、文京区)や城南エリア(港区、品川区、目黒区、大田区)では、乖離率が15%を超えており、やや高めの賃料設定が目立ちます。
ファミリー向けの賃料も過去最高の21万7,710円を記録しましたが、反響賃料(実際に問い合わせのあった物件の賃料)は17万6,058円と、乖離率が23.7%と大きな開きが見られました。
高めの賃料設定をしても、実際に入居者が決まらなければ空室リスクが高まります。競争力を維持するためには、乖離率を考慮しながら現実的な賃料設定を行うことが重要です。
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ファミリー物件では築年数が古めの物件が人気?
レポートでは賃料の他にも専有面積と徒歩分数、築年数の平均を集計しています。首都圏全体で見てみると、平均専有面積と平均徒歩分数はシングル・ファミリーともに、掲載物件と反響物件の大きな乖離はありません。
平均築年数に関しても、シングル向き物件では掲載19年、反響18年と、反響物件の方がやや新しい傾向は多くのエリアと同じですが、特徴的なのが23区のファミリー物件。掲載物件が平均築年数18年なのに対し、反響物件は24年となっています。エリアによって5〜10年、築年数を経た物件に問い合わせが集まっているようです。
ファミリー物件は木造より耐用年数の長いRC造が増えるとはいえ、家賃や徒歩分数で妥協できなかった結果、築年数がやや古めの物件で反響が出ているのではと推測できます。
築年数が古い物件はリフォームや設備更新で競争力アップ
築年数の古い物件でも需要はありますが、内装のリフォームや設備のアップグレードを行うことで、より競争力を高めることが可能です。特に、水まわり(キッチン・バスルーム)の更新や、スマートロック導入などの利便性向上が効果的です。
「部屋探し競争率の高いエリア」はどこ?
2024年12月時点で、掲載占有率に対して反響占有率の方が高いエリア(つまり、競争率が高く人気のエリア)を見てみると、以下のような傾向がありました。
掲載占有率および反響占有率 ( )内が反響占有率 | |
東京都全域 | 49.9%(57.5%) |
23区 | 36.0%(46.9%) |
都心6区 | 7.9%(10.9%) ※千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区、文京区 |
23区その他 | 28.0%(36.0%) |
城東 | 8.1%(10.2%) ※中央区、墨田区、葛飾区、台東区、江東区、江戸川区 |
城西 | 12.3%(15.9%) ※新宿区、渋谷区、杉並区、世田谷区、中野区、練馬区 |
城南 | 6.7%(9.3%) ※港区、品川区、目黒区、大田区 |
城北 | 5.9%(7.6%) ※文京区、豊島区、荒川区、足立区、北区、板橋区 |
市部 | 13.9%(10.6%) |
間取りによる違いはあるものの、掲載占有率に対して反響占有率の方が高いエリアは需要に対して供給が足りていない、人気のエリアと考えることができます。
もし人気エリアに物件を所有している場合、周辺相場を見ながら賃料を適度に引き上げる戦略を取ることで、収益を最大化できます。
「すぐに物件が埋まりやすい街ランキング」から読み解く戦略
「すぐに物件が埋まりやすい街」シングル編1位は「外苑前」
反響占有率から人気のエリアが推測できましたが、もう少し範囲を狭くして見てみましょう。同じくLIFULL HOME’Sに掲載された物件から、2024年の繁忙期(1〜3月)の掲載期間(中央値)を駅ごとに調査した結果が発表されています。
掲載期間が短い=人気が高い、すぐに埋まってしまう物件という解釈です。シングル編の上位3位は以下のような結果となっています。
順位 | 駅名(区) | 掲載期間 |
1 | 外苑前(港区) | 9日 |
2 | 東あずま(墨田区) | 12日 |
3 | 新大久保(新宿区) | 13日 |
1位の「外苑前」は東京メトロ銀座線の駅です。渋谷など主要駅へのアクセスも良くイメージも良いエリアですが、家賃相場は31万円とかなり高額。掲載期間は9日です。
2位の東武亀戸線「東あずま」は、家賃相場が8万9,500円とランキング上位の中では最も手ごろで、複数路線が乗り入れる錦糸町へにも近く、東京や上野へも30分以内で行くことができます。
ファミリー編1位は「地下鉄成増」で平均賃料は約20万円
ファミリー編上位3位の駅は以下のような顔ぶれです。
順位 | 駅名(区) | 掲載期間 |
1 | 地下鉄成増(板橋区) | 8日 |
2 | 木場(江東区) | 10日 |
3 | 本郷三丁目(文京区) | 12日 |
3 | 本所吾妻橋(墨田区) | 12日 |
3 | 初台(渋谷区) | 12日 |
3 | 阿佐ヶ谷(杉並区) | 12日 |
ファミリー編1位は東京メトロ有楽町線・副都心線の「地下鉄成増」で、家賃相場は19万8,000円、掲載期間(中央値)は8日間でした。池袋や渋谷へ乗り換えなしで行くことができるアクセスの良さと、生活利便性を備えた駅です。
2位「木場」は東京メトロ東西線の駅で、家賃相場は20万8,000円。大手町や飯田橋といったオフィス街へも乗り換えなしで通勤できるうえ、2030年には東京メトロ有楽町線が隣駅の東陽町まで延伸する予定です。
駅から近すぎず遠すぎず、徒歩2-15分のエリアで決まりやすい
調査ではランキングの他にも、駅徒歩分数と掲載期間の相関関係が集計されています。その結果によると、駅徒歩0〜2分と16〜20分では掲載期間が長く、2〜15分のエリアで比較的掲載期間が短いということがわかりました。
また、駅徒歩分数と物件の築年数の割合では、駅徒歩2~15分のエリアは、築10年以内の物件の割合が高い傾向に。つまり、すぐに埋まりやすい人気の物件は駅から近すぎず遠すぎず、かつ築年数が浅めであるといえます。
徒歩0~2分や16分以上の物件は掲載期間が長くなりがちですが、2~15分のエリアでは競争率が高いため、適正な賃料設定を行えば比較的早く成約できる可能性が高まります。 駅徒歩2~15分の物件をお持ちのオーナーは強気の賃料設定を検討してみても良さそうです。
まとめ
掲載物件と反響物件の比較からは、エリアごとの競合物件の傾向と実際のニーズを推測することができます。また、掲載期間のランキングにはLIFULL HOME’Sが2025年の住宅トレンドワードのひとつ「ずらし駅」が多くランクインしました。
「ずらし駅」とはターミナル駅の隣駅で、それなりの利便性を備えつつ比較的家賃が抑えられるとして人気が高まっている駅を指しています。所有物件のエリア相場を確認する指標や、賃貸住宅の建築を計画するときの検討材料になりそうです。
今後の賃貸経営の参考に、地域ごとの市場動向を分析しながら、適切な戦略を立てることが重要です。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2024年2月4日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。