5万円・8万円・10万円が”暮らしやすさ“の分岐点に。希望家賃帯でみる賃貸住宅の住まいへのこだわりを読み解く

賃貸経営において、物件スペックと家賃のバランスは悩みどころのひとつと言えます。(株) CHINTAIが自社サービス登録者100万人以上を対象に、お部屋探しにおける設定条件と希望家賃帯の関連を分析。その結果から、条件と家賃に対するユーザーの意識を探っていきます。
全体の約75%が家賃帯「10万円未満」を希望
今回の調査対象である『CHINTAI エージェント』は、部屋探しをしているユーザーがLINE で友だち登録し、希望条件を入力することでそれに合った物件情報が届くサービス。まず、登録者の希望家賃帯の割合は次のような割合となりました。
希望家賃帯 | |
5万円未満 | 9.7% |
5万円以上~8万円未満 | 42.4% |
8万円以上~10万円未満 | 22.9% |
10万円以上~15万円未満 | 17.1% |
15万円以上 | 7.6% |
最多家賃帯は5万円以上~8万円未満の42.4%で、全体の約75%が10万円未満を希望しています。1人暮らしの現実的なハードルとして“10万円の壁”があるようです。
大家さんへのアドバイス

物件の家賃設定は、10万円未満のゾーンに抑えることで、より多くの単身者にアプローチできる可能性が高まります。築年数や立地を踏まえつつ、設備とのバランスを意識した賃料設計が重要です。
「バス・トイレ別」を隔てる“家賃8万円の壁”
近年、賃貸物件の問合せ率・成約率を大きく左右すると言われる「バス・トイレ別」という条件。この「バス・トイレ別」をこだわり条件に設定しているユーザーの割合を希望家賃帯ごとに分析したところ、次のような結果が出ています。
希望家賃帯 | |
2万円台 | 8.3% |
3万円台 | 26.5% |
4万円台 | 33.6% |
5万円台 | 44.3% |
6万円台 | 46.7% |
7万円台 | 53.0% |
8万円台 | 75.6% |
9万円台 | 60.7% |
10万円台 | 44.8% |
家賃帯が高くなるにつれて「バス・トイレ別」をこだわり条件に設定する人が増え、7万円台で過半数に、8万円台で75.6%に達します。
これよりも希望家賃帯が高くなると、逆に希望率は下がっていきます。高家賃帯では「バス・トイレ別」は当然あるものとして、あえて条件設定していない人が増えるのでしょう。
このことから、家賃7~8万円台が「バス・トイレ別」の物件としてふさわしい家賃の目安と考えている人が多いと考えられます。同調査では、家賃8万円台を「バス・トイレ別」の物件を希望する場合の“かなえやすさ”の壁と定義しています。
大家さんへのアドバイス

7〜8万円前後の物件では、「バス・トイレ別」が標準設備として求められる傾向があります。もし物件がこの価格帯である場合、設備の有無が集客に直結する点に注意しましょう。
家賃5万円から“暮らしやすさ”が意識されはじめる
希望家賃帯5 万円未満と5万円以上~8万円未満を比較したところ、最もこだわり条件の設定割合の差が大きかったのが「バス・トイレ別」でした。5万円未満では「バス・トイレ別」を希望している人は30.5%でしたが、5万円以上~8万円未満では47.8%と、半数近くにもなります。
次に差分が大きかったのが「2階以上」で5万円未満では8.9%、5万円以上~8万円未満では23.1%と、差分は14.2ポイント。以下、差分が大きかった順に「独立洗面台」「室内洗濯機置場」「オートロック」と続きます。
どの条件も暮らしやすさ、快適性、安全面に関わるものであることから、家賃5万円台から住まい選びに“暮らしやすさ”が求められ始めることがわかります。
大家さんへのアドバイス

この価格帯では、基本的な快適性・安全性を提供できる設備(例:2階以上、室内洗濯機置場、オートロックなど)が、選ばれる決め手になります。小さな設備投資でも大きな差別化につながります。
住まいにこだわりが生まれるのが家賃8万円から
次に、5万円以上~8万円未満と8万円以上~10万円未満の希望家賃帯を比較。ここは、希望家賃帯のボリュームゾーンでもあります。
最も差分が大きかったのは「室内洗濯機置場」で、5万円以上~8万円未満33.5%に対し8 万円以上~10 万円未満では64.0%と、倍近くの差があります。
次に「バス・トイレ別」で、差分は25.2ポイントと同様に大きく、家賃8万円を境に、生活の快適性に直結する設備を重視するユーザーが一気に増えることがわかりました。
3位以下にも「浴室乾燥機」「宅配ボックス」「防犯カメラ」など、家賃帯5 万円未満と5万円以上~8万円未満の比較では見られなかった条件が加わっています。
大家さんへのアドバイス

この価格帯では「+αの快適さ」が鍵となるため、宅配ボックスや浴室乾燥機など、利便性を高める設備の導入を検討すると、競争力の向上が期待できます。
家賃10万円超ではプラスαの快適さが求められる
最後に、希望家賃帯8万円以上~10万円未満と、10万円以上のユーザーが設定しているこだわり条件を比較。差分が最も大きい条件は「ペット相談可」で8万円以上~10万円未満が4.0%、10万円以上8.9と差分は4.9ポイントでした。
以下、差分の大きい順に「追い焚き」「2階以上」「南向き」「オートロック」と続きます。快適性や安心感に加えて、住まいにプラスαの快適さを求める傾向がより明確に表れています。
大家さんへのアドバイス

10万円を超えるハイグレードゾーンでは、ライフスタイルに寄り添う柔軟性(例:ペット可、防犯性、陽当たりなど)も重視されます。入居者の多様な価値観に応える柔軟な条件設計が求められます。
まとめ
立地という大きな要素を排除して集計したことで、賃貸住宅そのものに求める条件と希望家賃帯の関連がはっきりした今回の調査。住まいに求める条件は希望家賃帯ごとに段階的に変化し、5万円から快適さ、8万円からこだわり、10万円から理想のライフスタイルへとユーザーの意識が移っていく様子がわかりました。
特に、「バス・トイレ別」や「室内洗濯機置場」などの条件については、家賃帯によって“あればうれしい”から“なければ困る”に変化していくさまが如実に表れています。今後の家賃設定の際に参考にできそうです。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年5月15日時点のものです。
取材・文/石垣 光子
ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。
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