相続対策の基礎知識(2)~分割対策編~|最も優先するべき対策【不動産オーナー向け】

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公開日:2020年6月8日
更新日:2020年6月15日

「遺言」はスムーズな分割を進める方法のひとつ

スムーズな分割を進めるための方法のひとつとして、遺言の作成を検討してみよう。遺言は、財産の所有者である親が自ら分割の指針を示すもので、相続人が遺産分割をめぐって争ったり、迷ったりすることを防ぐ手段となりうる。また、遺言により、法定相続分と異なる割合で財産を継がせることも可能である。

遺言書の主な種類

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遺言には上図のように主に2つの種類がある。

法的な効力のある遺言書を確実に残せるという点で、公正証書遺言を勧める専門家は多い。ただ、作成にコストと手間がかかり、状況の変化に応じて柔軟に書き換えることは難しい。例えば、遺言の目的たる財産の価額が1億円の場合に公証人に払う手数料は、法律では4万3000円である。

自筆証書遺言なら、本人の意志で容易に見直すことも可能だ。これまでは中身を誰かに見られないよう自分で管理する必要があったが、今年7月からは申請すれば法務局で保管できる制度がスタートする。存在さえ伝えておけば未発見や紛失、改ざんなどの心配も減る。

遺言は、分割対策に有効なツールではあるものの、万能薬ではない。内容によっては、かえって紛争の火種を残すおそれもある。

遺言を残すならあらかじめ遺産分割案を家族に共有しておきたい

戦前の長子相続のように「全財産を長男に譲る」といった遺言が見つかったら、配偶者や長男以外の子からクレームがつくだろう。兄弟姉妹以外の法定相続人には、たとえ遺言で相続対象からはずされたとしても、相続財産のうち一定割合を取り戻せる「遺留分侵害額請求権」が認められている。

また、被相続人の生前に介護などで特別な貢献をした相続人には、法定相続分に加えて「寄与分」を求める権利がある。民法改正で、相続人以外の「特別寄与料」という制度も新設された。これらの権利を考慮しないと、兄弟間で訴訟になることもありうる。財産の取り分の価値が、相続人間でバランスを欠く場合も、不満がくすぶりやすい。

遺言を残すにあたっては、遺産相続に関する必要な知識を得たうえで、あらかじめ遺産分割案をつくって家族の意向を確かめるプロセスがあってもいいだろう。

分割しやすい財産とは? 種類による性質の違い

分割対策を進めるにあたっては、財産ごとの性質の違いを知っておくことが大切。所有している財産がすべて分割しやすい現金なら、分割対策で悩む必要はない。逆に、不動産が大半を占めるからといってむやみに売却すればいいわけでもないだろう。

代々引き継いできた不動産を残したいという希望もあれば、後で説明する納税資金対策や節税対策に有利な面もあるからだ。資産運用のポートフォリオ(最適な組み合わせ)も、現金・有価証券・不動産の3つのバランスが重要といわれている。

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同じ不動産を持つなら、分割のしやすい不動産に換えておくのも有効だ。たとえば底地なら借地権の買い取りを打診し、完全所有権に変えておく。また、所有不動産を売却して、不動産小口化商品を購入することも手段になるだろう。

Case study:建て替えによる資産の組み換え

大家イチロウさんが所有しているアパート2棟は築年が経過するほど空室率が高まり収益性が下がる。その一方で、修繕費などの出費はかさみがち。2棟を子ども3人で分けることも難しい。

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しかし、これを戸建て賃貸3棟に建て替えれば分けやすくなる。

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戸建て賃貸でも売却でも自己居住でも可。トリプルユースに!

「子どもが貰っても、ありがたくない財産」がある場合、課題を解決して「進んで引き継ぎたくなる財産」に換えることを考えよう。

”長生きリスク”に備え、運用・管理の仕組みも検討

財産の組み換えをともなう対策は、ある程度の時間がかかるので、早めにプランを立てて、計画的に実行することが望ましい。とはいえ、相続が発生する時期が読めないだけに、対策後の状況変化への対応も視野にいれておかなければならない。

大家イチロウさんが65歳時点で相続対策を始めるとして、男性の平均余命は約20年ある。この間のリスクとして懸念されるのは、対策を立てた本人が認知症や重度障害になって判断能力がなくなってしまうこと。そうなると、金融機関の手続き、賃貸借契約、大規模修繕、建て替え、売却などの契約行為ができなくなってしまう。

こうした事態を防ぐ方法の一つに「家族信託」がある。信託の仕組みを活用して、財産の管理運用を受託者(子どもなど)に任せる方法だ。遺言では次世代までしか財産の継承先を指定できないが、家族信託ではそれ以降の世代まで指定できるため、二次相続、三次相続対策にも有効である。

家族信託の例

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父親(被相続人)が子ども(推定相続人)に自宅やアパートなどを信託財産として管理運用を任せる。家賃収入などの利益は父が得られる。

このほか、資産管理会社を設立して不動産を法人に移す方法もある。被相続人が亡くなっても法人は存続し、その自社株を相続する形になる。法人化は所得税対策など多様なメリットがあるが、うまく活用するには高度なノウハウが必要なため、専門家のアドバイスが欠かせない。

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※この記事内のデータ、数値などは2020年5月25日時点の情報です。
文責/木村 元紀 イラスト/アサミナオ

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