相続対策の基礎知識(4)~節税対策編~|生前贈与や評価額を圧縮する【不動産オーナー向け】
財産の種類や用途を組み換え、評価額を圧縮
次は、評価額を下げる対策である。これは、財産の種類や用途によって、時価と税務上の評価額(課税価格)のギャップが大きくなることを活用した方法といえる。
現金や普通預金は、額面そのままで課税される。不動産はマーケットで取引される時価より評価額が低くなることが多い。そのため、現金を不動産に換えれば、評価額を圧縮できるわけだ。
例えば、未利用の更地の相続税評価額は時価の7〜8割ほど。更地に賃貸住宅を建てると「貸家建付地」という扱いになり、さらに2割前後低くなる。
建物のほうは、自宅用の場合で、実際の建築費に対して評価額は5~6割。賃貸住宅なら、さらに3割評価が下がる。
Case Study:貸家建付地を活用
以下は、相続税課税価格1億円の更地を持っていた場合の試算だ。
アパートを建築し「貸家建付地」にしたことで土地の評価額は約2000万円低下。実際には建物の評価額も下げることができるので、将来の相続税節税にもつながる。
このようなケースで注意したいのは、他に納税に充てる財産がないと、たとえ相続税額が下がったとしても税金が支払えなくなってしまうこと。相続対策としては落第だ。
それを防ぐには、ローンを組んで手持ち資金を温存する方法がある。借入金はマイナスの財産としてプラスの財産から債務控除することができる。ちなみに、現金でも借入金でも評価額圧縮の効果は変わらない。
Case Study:資産の組み換えによる評価額圧縮
そのほかの評価額を下げる方法として、すでにアパートなどの不動産を所有している場合、別の収益物件に組み換えるのも有効だ。
大家イチロウさんの場合の試算では、木造アパート2棟を売却して都心寄りの区分マンション3戸に買い換えると、課税価格は1000万円程度低下。分割もしやすくなる。
小規模宅地等の特例の活用、法人化も検討
税法で認められた控除制度や特例もぜひ活用したい。
なかでも小規模宅地等の特例は、土地の評価額を最大8割も減額できるなど、圧縮効果が高い。
「小規模宅地等の特例」種類と要件
ただし、「特定居住用宅地」の複雑な居住要件や、「貸付事業用宅地」では相続開始前3年以内に新たに賃貸事業を始めたものは対象外になる規定など、注意点も少なくない。特例の適用にあたっては専門家へ相談したほうがいいだろう。
課税対象になる財産を減らしたり評価額を下げたりするのとは反対に、財産を増やさないことも節税対策につながる。以下のように、法人を活用した方法などがある。
Case Study:法人を設立してアパート(2棟)を移転
法人を設立し。所有アパートは設立した法人へ薄価3000 万円で売却(譲渡益は発生しない)。土地は個人から法人へ賃貸する(※税務署に「無償返還の届出」の提出が必要)。
将来のリスクに備え、打たれ強い相続対策に
節税対策といえば「全額ローンでアパート建築をして相続税を下げる」方法が定番のようにいわれる。この点について最後に触れておきたい。
手持ちの現金が乏しい場合や納税資金として残したい場合は、確かに借入金は役に立つ。しかし、過剰な借入は返済困難になったときのリスクが大きい。
例えば、新型コロナ感染症の拡大で、シェアハウスから外国人入居者が一斉に退去してローン返済に行き詰まったという話もある。そうなると、節税どころか財産自体を失いかねない。
昨今はアパートの供給過剰も指摘されており、相続対策以前に、事業として成り立つのかまず見極めが必要である。自己資本比率を高め、万一の事態に備えられる相続対策を心がけたい。
※この記事内のデータ、数値などは2020年5月25日時点の情報です。
文責/木村 元紀 イラスト/アサミナオ