これからの築古物件との向き合い方 建て替え/修繕/売却……進むべき道は?

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公開日:2026年7月2日
更新日:2026年7月6日

【建て替え】建て替えで街とともに成長収益アップを目指す

建築コストの高騰で、新築・建て替えによる賃貸経営は採算ベースに乗せることは厳しいとも言われる。しかし、賃貸ニーズは消滅しない。成長する街、賃料アップの見込める立地なら勝算がある。

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建て替え可能な判断条件

次に示す条件に合えば、建て替えが有力な候補になります。

• 現状の構造躯体が旧耐震で、改修しても収益改善が見込めない
• 将来に渡り街が成長し、賃貸ニーズが続く立地
• 新規プランで2割以上の収益アップが可能(用途変更も検討)
• 現在地で30年以上の長期運用を続ける意向
• 次世代も賃貸経営を引き継ぎ、土地を守りたい

事業計画の立て方

新築と共通するプランニングの考え方については割愛し、建て替えならではの具体的なポイントや注意点に絞って紹介します。

■ 総事業費の算定・試算

まず、収支シミュレーションを行う際の総事業費の内訳に注意したいところです。新築の場合は、基本的には設計・施工費を中心にした建設に直接関連する費用がわかれば試算できます。しかし、建て替えの場合は、建設関連費の他に次の費用も考慮する必要があります。

・立ち退き交渉関連費用、建物の解体費用
・解体や建設期間中に途絶える賃料収入(期間損失)

また、長期の収支シミュレーションを行う場合、家賃の推移、空室率、金利などの変数をどう設定するかがポイントになります。デフレ時代は、経過年数とともに賃料が下がり、空室率が上がって家賃収入は減っていく前提で試算することが望ましいとされてきました。

インフレ傾向に移った今、家賃値上げも可能になってきたため、条件設定が甘くなりがちです。しかし、すべての地域で家賃を上げられるわけではありません。計画段階ではストレスをかけた条件で試算したほうが望ましいでしょう。厳しい環境になってもキャッシュフローが回るかどうかを検証することが大切です。

■ 建て替えスケジュールの立案
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スケジュールについても新築とは異なり、建物を解体する前段で大きな山が1つあります(上図参照)。既存入居者に退去してもらうプロセスです。オーナーから契約解除を求める場合は、期限の6カ月以上前に告知するのがルールとなっています。複数の入居者との立ち退き交渉があるため、少なくとも1年くらい前から入居者との接触を始めたいところです。交渉が難航して明け渡し訴訟になると、数年かかる場合もあります。

また、建設業界の人手不足が常態化し、工期も遅れがちだといいます。「従来の工期に比べて2割増しくらい延びる例が珍しくありません」と牧野さんは話します。工期を厳格に指定しても、国際紛争で資材の輸入がストップするなど、不可抗力で延びることも多く、多少の遅れには寛容にならざるをえません。ただ、工期を長く見積もりすぎて、ダラダラと完成を先延ばしにされてコストが上がってしまうのも困りものです。引き渡し時期のズレは、入居者の募集活動にも影響します。通常よりプラス1〜2カ月の適度な余裕を持たせつつ、事業計画に支障が出ないように慎重にスケジュールを立てておきたいものです。

立ち退き交渉で困らないポイント

建て替えのプロセスでは、特に立ち退き交渉がネックになりやすいものです。いかに早く明け渡しを完了させ、建物解体までもっていけるかが勝負となります。そこで、入居者のスムーズな退去を促すコツを紹介しましょう。

■ 入居者入居者状況に合わせた戦略

やみくもに弁護士名を記載した「更新拒絶の解約通告」を出すような高圧的な態度は禁物です。かえって態度を硬化させてしまい、抵抗を招きかねません。

順を追ってソフトに解約の申し入れをすれば、納得してくれる入居者は少なくありません。そのための事前準備として、まずは相手を知ることが大切です。契約時期や家賃設定などの賃貸条件を部屋単位で一覧にまとめた「レントロール(家賃明細表)」などから、入居者ごとの現状を改めて把握し、作戦を練っていきます。

「相場より低い家賃で長く住んでいる入居者や単身高齢者などは、退去を渋ることが多いものです。そこを避けて合意のとりやすい多数派から話し合いを始めると、大半が退去した後に抵抗の強い人が残ってしまい、交渉が長期化して収益が圧迫されます。逆に、十分な年限をとって地道な交渉が必要な人から、じっくり話をすることが秘訣です」

■ 交渉材料を整える

次に、明け渡し訴訟になってもオーナーの言い分が認められるような、交渉材料を用意しましょう。借地借家法の「普通借家契約」では、貸主であるオーナー側の一方的な「更新拒絶・契約解除」は認められていません。建物の老朽化や耐震性の問題で入居者に被害が及ぶ恐れがあるために建て替えるなど、相応の「正当事由」が求められます。これに加えて、正当事由を補完する要素として、立ち退き料の支払い、引っ越し先のあっせん、転居実費の負担などが挙げられています。

立ち退き料の金額は判例である程度確立されており、月額家賃の6〜10カ月分が目安です。こうした費用を惜しまず、あらかじめ必要な経費として事業計画に盛り込み、しっかりと準備しておきましょう。

【修繕】ストック重視の時代にマッチ。修繕で運用+売却にも備え

ここで取り上げる修繕は、損傷のリペアではなく、設備改修を含む大規模修繕やリノベーションを想定。既存ストックを活かしつつ時代に合わせて価値を高め、将来の売却にも備える柔軟で賢い選択。

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修繕に必要な判断条件

次の条件を満たすなら、築古物件の再生も可能になります。

・構造躯体が新耐震で、改修やリノベで収益の安定化が望める
・賃貸住宅として中長期的に入居者が確保できる立地
・修繕後に、現在の家賃水準を維持、または向上の余地がある
・10~20年の中期的な運用をする意向がある
・将来の売却も視野に入れ、それまで資産価値を保ちたい

建物の劣化診断とは?

ここで取り上げる修繕は、単なる損傷のリペア(補修)ではなく、設備改修を含む大規模修繕やリノベーションを想定しています。既存のストックを活かしつつ、時代に合わせて価値を高め、将来の売却にも備える柔軟で賢い選択肢です。建物の構造躯体や外装仕上げ、共用設備などの劣化の進行具合を、目視や打診、検査機器などを使って詳細に調べ、修繕の必要箇所と緊急度をランク分けして報告書をまとめます。これらは、修繕計画の立案や工事会社による見積もりの基礎資料になります。

 

建物の劣化診断と改修計画の立案が必須

建て替えに必要な多額の事業費に比べて、修繕は投資額を抑えられるのがメリットの1つです。入居しながら工事を進められるため、収入がなくなる機会損失もありません。

築30年を超える築古物件で、構造が木造や軽量鉄骨の場合、法定耐用年数はすでに過ぎています。しかし、適切な計画修繕を行っていけば、木造でも50年はもつといわれています。その物理的な寿命の範囲内で、「あと20年もたせたい」「10年後に売却するまで維持できればいい」といったオーナーの意向次第で、かけるコストを調整できる柔軟性を持っています。

想定した運用期間まで“稼ぐ力”を維持するためには、いつどこを修繕すべきかを把握しなければなりません。外壁・屋上・鉄部など部位ごとに修繕周期の目安はありますが、物件によって実際の傷み具合や手を入れるべき部位は違います。

「修繕が必要な箇所や適切な実施時期を知るには、一級建築士など資格を持ったプロによる建物の劣化診断が欠かせません」

トレンドに沿ったリノベを実施。資金調達も柔軟に

診断結果を踏まえて、修繕工事会社に見積もりを依頼し、予算を把握します。緊急に必要な工事、数年後までに取り掛かる工事など、優先順位と予算に応じて実行する修繕計画を立てます。また、競争力を保つためには、バリューアップ工事を併せて行うことも必要です。

「住戸内については、内装デザイン・設備仕様・間取りなどを、時代のトレンドに合わせてリノベーションすることが重要です。住まいの基本である水回り設備、間取りについて、人気のある物件を研究して見直しましょう」

新築・建て替えと同様に、修繕についても工事単価は高騰しています。アスベストの事前調査義務化など、負担増につながる環境規制も少なくありません。一方で、省エネ改修など補助金の対象となる工事もあります。コストを抑えて集客効果を高める工夫や、公的助成制度の活用ノウハウを持った施工会社に依頼しましょう。入居者の安全への配慮、クレーム対応に長けているかどうかもポイントの1つになります。

必要な資金は、計画修繕に備えて積み立てておくことが理想です。ただし、手持ち資金に余裕がない場合でも、工事を先延ばしにすることは避けたいところです。金融機関からのリフォーム融資による資金調達も検討しましょう。

【売却】市況の変化がチャンス!? 売却の成否を分けるコツ

賃貸ニーズが衰えて街の将来性に期待がもてず、代々引き継いだ土地へのこだわりがなければ、売却の優先度が高い。市況の転換期の今、有利に売却できるチャンス。組み換えで収益アップも可能。

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売却選択の判断ポイント

現在地での賃貸運用が難しく、次の条件に合うなら売却一択になります。

・建て替え、修繕の収支試算で採算割れになるおそれ
・街の発展性が乏しく、賃貸ニーズが衰退する立地
・空室増加や家賃下落が進み、今後もリスクが高まる可能性大
・土地に対する執着はなく、資産規模を守れればいい
世代に賃貸経営の意欲がなく、築古物件の相続を避ける

築古物件の売却に追い風?!査定価格のバラツキに注意

「築古物件は売却が難しい」という指摘もあります。融資が付きにくいため、買い手が限られる面があるのも事実です。

その一方で、収益物件の価格高騰を受けた不動産投資家アンケート(※出典:健美家「 2026年 不動産投資トレンド予測」 2025年12月23日)では、「地方の高利回り物件を狙うようになった」「新築・築浅から、中古(築古)物件にシフトした」という回答も目立っています。今や築古物件の売却に追い風が吹いているともいえます。

ただし、売却の進め方によっては、期待した結果が得られないかもしれません。収益物件は個別性が高く、実需向けの中古マンションのように価格相場が形成されていないため、仲介会社によって査定価格のバラツキが大きいからです。最初に接触した会社が低い価格を提示したとしても、その価格が適正かどうか判断に迷ってしまいます。

「自分でも売れる価格を試算できるようにしておくことが大切です。年間の総家賃収入を買い手の期待利回りで割り戻せば、収益還元価格が想定できます。より正確に算出するには、相場家賃と自分の物件との乖離、空室率、修繕費なども考慮しましょう」

売り方によって価格やスケジュール感が違う

売り方によっても売却価格やスケジュールは変わってきます。築古物件の場合、下図のように「現状売却」「リフォーム後売却」「解体・更地売却」の3タイプが代表的です。

「現状売却」は「賃貸人付き」、いわゆる「オーナーチェンジ物件」と呼ばれます。価格が低めになる半面、購入してすぐに賃料収入が得られることから一定の投資家ニーズが見込めるため、短期で売りやすいのが特徴です。

「解体・更地売却」は高く売りやすいという指摘もありますが、立ち退きや解体に時間とコストがかかるため、価格変動が読めない懸念もあります。空室が多い場合、リフォームをして家賃アップと満室化が実現できれば、高く売れる可能性が強まります。なお、売り急いでいる場合は、相場より安くなりますが買取再販業者へ売る道もあります。

このほか、物件情報をネットで公開せず、あえて非公開で買い手候補と取引したり、オークションで高値落札を目指したりと、収益物件の売却ノウハウが豊富な不動産会社も存在します。信頼できるパートナー選びも重要と言えるでしょう。

これからの築古物件との向き合い方 建て替え/修繕/売却……進むべき道は?0

※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2026年6月1日時点のものです。

取材・文/木村 元紀 イラスト/酒井 美和

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