大規模修繕で足場は必要?設置する意味から様々な種類と費用の目安まで解説!
大規模修繕に足場は欠かせません。効率的な作業と施工品質にかかわるだけでなく、賃貸住宅では設置時の対応が入居者満足度にも直結します。足場を設ける意義と、費用、良し悪しのポイントを解説します。
16歳で塗装職人、21歳で独立。当時は、丸太を番線で結束する足場も自ら手掛け、足場の歴史にも詳しい。オーナー目線の大規模修繕の普及に力を入れている。
足場設置は作業効率と質の確保に必須。職人と入居者の危険防止にもつながる
足場とは、建物の修繕工事を行うときに、高い場所で作業を行うために一時的に設けて、作業完了後に撤去される仮設設備のことです。現場の安全を守り、効率的に作業を進めるためには欠かせません。作業員が安定した状態で安心して作業できるかどうかは、施工品質にも影響します。
安全対策は、作業員だけでなく、入居者への配慮も兼ねています。事故が起きれば、トラブルや工期の遅れにつながり、ひいては入居者募集にも響くからです。
ロープで吊るブランコやゴンドラによる無足場工法もありますが、染矢さんは職人目線でこう指摘します。
「塗装作業は、壁にローラーを押し当てて行うため、足場のないロープ作業では十分な圧力をかけられず、塗装の品質に影響が出ます。また、補修、下塗り、中塗り、上塗り、検査など、同じ箇所で何度も作業を行うため、足場があった方が効率は良い。ゴンドラなどを使った無足場工法は、サイディングの継ぎ目や窓まわりのシーリング工事など、1度の作業で済む部分的な修繕などの場合に有効です」
足場の種類は、足場に使う鋼材の形状やつなぎ方によって様々なタイプがありますが、「単管足場」「クサビ緊結式足場」「枠組足場」の3タイプが代表的。建物の形状、周辺スペース、高さなどによって使い分けられます。中高層までの賃貸住宅ではクサビ式のシェアが高くなっています。
足場の「架け払い(組み立てと撤去)」費用は、種類や立て方、建物の高さによって異なります。安全対策などの付帯費用でも差が出ますが、大まかな目安を示したので参考にしてみてください。
足場の種類とそれぞれの特徴・ 違いを解説!
直径5cm弱のパイプをクランプ(ジョイント金具)でつないでレンチで締め付けるタイプです。手間はかかるが、建物周囲に余裕がない場合、簡単な修繕などにも対応できます。
どんな建物に使う?:戸建て・小規模建物に適している
一定間隔で緊結用ポケットのある支柱に、クサビがついた横架材をハンマーで打ち込んで組み立てるタイプ。効率良くスピーディに作業でき、最も幅広く使われています。
どんな建物に使う?:戸建てから中高層マンションまで対応。短期の修繕のシェアが高い
門型に溶接した建枠(たてわく)や床板をクレーン車で積み上げていくタイプ。強度や耐久性が高い半面、複雑形状の建物や狭小地には合いません。コストも高めになります。
どんな建物に使う?:高層マンション・ビルまで対応。長期設置の新築・建て替えに多い
上記の3種類とは別に支柱の立て方もある
・支柱が片側1本の「一側(ひとかわ)足場」。作業床はブラケット(腕木)で支える
・作業床の両側に支柱がつく「本足場」。「二側足場」ともいう
・建物本体にアンカーボルトで留めた大型ブラケットの上に組む「張出足場」
足場費用の節約は禁物!実績をふまえた会社選びを
足場は修繕会社を通して発注するのが一般的なので、オーナー自身で足場会社を選ぶ機会はあまりありません。とはいえ、足場の良し悪しを判断するポイントは知っておきたいところです。
まず、知っておきたいのが、安全対策がしっかりしているか。例えば、法令で定められた作業員の転落防止用の手すり、踏板から工具や材料が落下するのを防ぐすき間ネットを省く、警備員を配置しない、などによって価格を安く見せる会社もあるので要注意です。足場の設置計画書でチェックすることができます。
足場費用は修繕費全体の1~2割を占めるため、足場を設置するなら、建物全体をまとめて修繕した方がムダはないと売り込む会社も多くあります。
しかし実際には、雨がかからず、日も当たらない共用部はそもそも足場が不要で、外壁を1面ごとに塗り替えする分には、足場設置の手間やコストが二重にかかることはありません。
「安全対策をおろそかにしてまで足場費用を節約するより、劣化状態と予算に合わせて分割施工した方がコストパフォーマンスは高いでしょう」(染矢さん)
足場の設置費用はどのぐらいかかる?計算方法も紹介します
足場のコストは、主に部材のレンタル料、運搬費、組み立て作業の人件費で決まります。この他に、飛散防止のメッシュシート、安全対策のための警備員、撤去などの費用がかかってきます。
[足場代=施工面積×単価] ※施工面積=(建物外周+8m)×高さ
足場は建物外壁から少し離して取り囲むように架けるため、外周の長さに8mを加える。
足場の単価(1㎡当たり)
〈クサビ緊結式・本足場〉の場合
低層(2~3階)で1000円前後、中高層で1500~2000円(1層増えるごとに+100円)
※オーナーが払う末端価格
足場の種類による費用の違い
単管足場<クサビ式緊結足場<枠組足場
単管と枠組では2~3倍の差。同じタイプでも建物が高層になるほど高くなる。
床面積・住戸数が同じでも、建物形状・階数によって足場費用は変わる
建物外周:46m
足場施工面積=(46m+8m)×9=486㎡
→足場単価1000円の場合、
足場代=48.6万円
建物外周:34m
足場施工面積=(34m+8m)×15=630㎡
→足場単価1500円の場合、
足場代=94.5万円
足場の設置にかかる期間はどのぐらい?
・戸建て・低層アパートの場合:1~2日、撤去は1日程度で完了
・中高層マンションの場合:1週間~10日程度、撤去は2日程度で完了
「壁つなぎ」の後処理は要注意!会社選びで重視したいポイント
その他にも足場の転倒防止のために、建物の壁面に穴をあけてアンカーボルトを埋め込んで支柱を留める「壁つなぎ」の跡処理の良し悪しでも技術の差が出ます。
また、足場設置に伴う音や破損などのクレームは少なくないため、入居者への対応力も重要です。こうした対応に慣れていて、賃貸住宅での大規模修繕の実績が豊富な会社へ依頼することが望ましいでしょう。
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※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2022年6月8日時点のものです。
取材・文/木村 元紀