税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング

相続/節税/保険
法律
公開日:2022年9月2日
更新日:2022年9月26日
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング1

「相続税」と「贈与税」一体化の議論が進行中です。税制が改正される前に、急いで贈与をしておいた方がいいのでしょうか?生前贈与による相続税の節税効果と、おすすめのタイミングについて、税務のプロによるアドバイスをお届けします。

お話を聞いた方
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

株式会社YUIアドバイザーズ 代表取締役社長 税理士法人ゆいアドバイザーズ 代表社員・税理士 玉越 賢治 さん

商工中金、(株)リクルートを経て、2003 年税理士法人タクトコンサルティングを設立。中小企業庁「事業承継検討会」委員などを歴任。2021年(株)YUIアドバイザーズ及び税理士法人ゆいアドバイザーズを設立。

効果的な金額・方法を見極め、早めに生前贈与を実践しよう

贈与税と相続税の体系を本格的に見直す議論が活発化しています。議論の中身や想定される税制改正の内容については、別の記事で解説しました。

では結局、改正前に贈与をしておいた方がいいのでしょうか?

現時点で改正内容を正確に予測できない以上、性急に事を進めるのは禁物です。しかし少なくとも、現行法では生前贈与による相続税の負担軽減は有効なので、今できる対策を実行しましょう。対策の方針は2つあります。

「1つは、改正法が施行される前に効果的な金額・方法を見極め、なるべく早く生前贈与を実践すること。2つ目は、長生きすることです。暦年課税の生前贈与が相続財産に加算される対象期間が、たとえ何年になっても、それ以上に長生きすれば生前贈与の有効性は失われません」と、玉越さん。

生前贈与は、1回でも相続税の節税の効果があります。では、いくら贈与すればいいのかを考えてみましょう。現行の暦年課税の基礎控除110万円以内に抑えるのがベストとは限りません。贈与税の支払い金額が、贈与せずに相続を迎えた場合の相続税よりも少なければ、節税効果はあるのです。

例えば、500万円贈与した場合、図表1の速算表から導き出すと、基礎控除後の390万円に対する贈与税は48.5万円。贈与した額に対する実質の負担率は9.7%です(図表2)。これなら相続税の最低税率10%よりも低くなります(図表3)。

自分の相続財産に適用が想定される相続税率よりも贈与税の実質負担率が低い金額までなら、生前贈与するメリットがあるのです。

図表1:暦年課税制度の速算表

税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

図表2:贈与された額に対する「贈与税額」と「負担率」の例

税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

図表3:贈与税と相続税の税率構造

税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

「実は、推定相続人以外の人への贈与も有効です。相続開始前の生前贈与が相続財産に加算されるのは、相続をした人に限られます。例えば、自分の実子の配偶者や孫は、相続人ではありません。彼らを含めれば、生前贈与の対象が広がるでしょう(孫に贈与する場合の注意点:実の子が先に亡くなり、孫に代襲相続された場合は、孫へ生前贈与した分は相続財産への加算の対象になる)」(玉越さん)

なお、不動産オーナーの中には、相続時精算課税制度の特別控除を活用して、土地や建物の生前贈与を検討している人もいるかもしれません。

現行法では「贈与時点の価額」を相続財産に持ち戻すため、贈与時より相続時の評価額が下がった場合には、贈与時の高い価額で計算することになるので不利になります。

価格下落リスクのある不動産は、逆効果になることに注意してください。実行するなら、立地が良くて価格が下がりにくい土地、上昇しそうな土地、または安定した収益が見込める賃貸物件などを選びましょう。

いずれにしても、税制改正で相続時精算課税制度がより使いやすくなる可能性もあるので、改正の動きを注視しましょう。

贈与以外にも相続税対策はある!組み合わせて対策を実行

生前贈与はあくまでも相続税対策の1つに過ぎません。仮に、生前贈与の縛りが厳しくなったとしても、他にも様々な対策が考えられます。いくつか例を挙げてみましょう。

まず、現金よりも不動産、不動産の中では賃貸物件のほうが相続税評価額は下がります。この評価額圧縮は、有力な相続税対策としてよく知られる手法で、ローンを組んで一棟不動産を購入する方法もあります。

物件種別としては、賃貸住宅に限らず、オフィスや商業ビルなども視野に入ります。借り入れを避けたいなら、手持ちの不動産を売却して優良な不動産に買い換えるのも有効です。

税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

「郊外よりも都心のほうが価格は下がりにくく、相続税評価額の圧縮効果も大きい。空室率の高い郊外のアパートから、収益性の高い都心に近い不動産に組み替えるのも、相続税対策につながります」(玉越さん)

「一棟不動産への投資はハードルが高い」と考える層に注目を集めているのが「不動産小口化商品」です。一棟単位では数十億円以上と高額な都心のオフィスビルや大型賃貸マンションなどを、1口当たり500万円~1000万円程度に分割して販売するものです。

不動産の持ち分を所有するタイプなら、現物不動産と同じ税法が適用されるため、相続税対策になります。複数口に投資すれば、遺産分割もしやすいでしょう。

ただ、不動産を活用した対策は相続税の節税効果が高いことから、今年、税務当局に否認された事案が最高裁で確定しています。実行するには専門家に相談しながら慎重に検討したほうがいいでしょう。

また遺産分割対策と相続税の納税資金の調達の両面で役に立つのが、生命保険の活用です。法定相続人1人当たり500万円の控除があります。契約方法によって課税関係が変わる点には注意が必要です。

知っておきたい!相続税対策にはどんな方法がある?

一棟不動産購入
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

相続税の課税対象になる財産のうち、現金は額面評価だが、不動産は実勢価格よりも低い評価になるのが一般的なため、現金で持つより不動産で持つほうが、相続税評価額を圧縮できます。

先祖代々の土地活用の場合は立地を選べないが、一棟不動産なら、収益性や資産価値の高い都心に近い好立地を選択できます。優良資産を増やすことが資産を守ることにもつながります。税務リスクの検討が必要です。

小口化不動産
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

高額な一棟不動産を、区分物件よりも低額の単位に分割して販売する商品。不動産特定共同事業法に基づく認可や登録を受けた事業者が扱います。

相続対策や節税に活用する場合は、任意組合契約による、複数の投資家が現物不動産の持ち分を共有するタイプを選びます。匿名組合契約の場合、不動産は事業者の単独所有で、投資家は有価証券と同じ扱いとなり、節税効果はありません。税務リスクに要注意。

資産の組み換え
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

収益を生まない不動産や、空室が多く家賃が下がっていく賃貸ニーズの乏しい地域の賃貸住宅などは、資産価値が目減りするおそれがあります。

早めに売却して、収益性が高く、資産価値が下がりにくい不動産に買い換えることで、財産全体の規模を守ることにつながります。都心に近い不動産なら、時価と相続税評価額のギャップが大きい場合が多く、評価額圧縮や相続税の節税効果も高くなっています。

生命保険
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

生命保険の保険金は、契約形態によって「みなし相続財産」として相続税がかかります。ただし、法定相続人1 人当たり500万円の非課税枠があるため、節税をしながら、納税資金や代償分割の原資を作ることができます。

この場合は、「契約者=被相続人」「被保険者=被相続人」「保険金受取人=相続人」にすることが大切です。加入形態が異なると、所得税や贈与税の対象になるので注意しましょう。

その他(大規模修繕、お墓の購入など)
税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

相続財産を減らすという点では、所有している収益物件の大規模修繕やリフォームに手持ち現金を使うのも有効です。

経理処理上で、建物価値を高めて資本的支出となるリノベーションではなく、経費として処理できる修繕の範囲に抑えるのがポイント。空室対策や収益アップにもつながります。その他、現金を使う対象としては、相続税の非課税財産になる墓地や仏壇仏具もあります。

何を贈与し、何を残すか、家族で話し合って相続の意向を確認

今回の記事では、税制改正の動向にスポットを当てたため、相続税の節税対策を中心にご紹介してきました。

しかし玉越さんは、「相続対策は、遺産分割対策、納税資金対策、節税対策の3つの視点で進めていくことが大切です。得てして節税対策が脚光を浴びがちですが、実は遺産分割で揉めているケースは少なくありません」といいます。

節税効果が高いからといって、手持ち資金の大半を不動産に投資してしまうと、納税資金や遺産分割の資金が捻出できない事態になりかねません。最近は、賃貸不動産は管理が面倒だから現金で欲しいという相続人も増えています。かといって、現金の生前贈与をやりすぎて、自身の生活費がなくなったり子が散財してしまったり、という話もよく耳にします。

税制改正の前に「贈与」しておくべき?生前贈与による相続税対策の効果とタイミング2

「誰に何を贈与し、相続させればいいか、家族でよく話し合うことが重要です。昔から“資産三分法”といって、財産の種類を不動産と金融資産と株式の3つに分散するのが望ましいと言われます。バランスの良い資産構成と相続対策を目指しましょう」(玉越さん)

適切な相続対策を行うには、税法に加えて民法などの関連法規もチェックする必要があります。2018年の相続関連法規(いわゆる相続法)の大改正では、遺留分の金銭支払いが原則になり、「配偶者居住権」も創設されました。最新情報を入手して、動向に気を付けつつ、各分野のプロに定期的に相談しましょう。

2018年“相続法”改正の影響もチェック!

遺留分の精算は金銭渡しが原則に

遺留分とは、遺言の指定にかかわらず、法定相続人として最低限認められている遺産の取り分(子や配偶者の場合、法定相続分の2分の1)。この遺留分を侵害した相続人に対して不足分を請求できる権利を「遺留分侵害額請求権」といいます。改正前は、不動産の共有持ち分(現物分割)でも認められましたが、改正後は金銭での支払い(金銭債権としての精算)が原則になっています。

配偶者の生活を守る「配偶者居住権」

亡くなった被相続人の所有していた自宅に、配偶者が終身にわたって無償で住み続けられる権利。自宅の権利を財産価値のある「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分けることで、配偶者の生活を守りながらスムーズに遺産分割できる道が開かれました。配偶者が亡くなると配偶者居住権(敷地利用権)は消滅します。

※この記事の情報は2022年9月7日時点のものです。

取材・文/木村 元紀 イラスト/アサミナオ

この記事をシェアする