立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説

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公開日:2023年12月20日
更新日:2024年3月8日
立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説1

老朽化にともなう建て替えの必要が生じたときなどに、避けて通れないのが「入居者の立ち退き」。住まいは生活に大きく関わる部分であるため、入居者を保護するための様々な法律が定められています。そのため、一方的に退去の通告をすれば済む問題ではありません。スムーズに立ち退きを進めるためにはどうすればいいのか、立ち退きの手続きに詳しい弁護士にお話を伺いました。

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この記事の取材・監修にご協力いただいた弁護士の方々
立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

(左)ことぶき法律事務所 代表 弁護士 尋木 浩司さん/(右)ことぶき法律事務所 弁護士 林 幸平さん

不動産関係の諸問題への対応をはじめ、訴訟・紛争解決のサポートに豊富な実績を持つ。各種講演への登壇や原稿執筆活動など、積極的な情報発信も行う。

立ち退き料とは?

「立ち退き料」とは、貸主(賃貸オーナーや管理会社)の都合によって借主(物件を借りている人=入居者)に契約解除を要請するときに、その代償として支払われるお金のことを指します。

「立ち退き料」は法律上で定められた用語ではなく、貸主から借主に賃貸借契約の解除を求めることができる場合の条件を示した「借地借家法第28条」の下線部分が立ち退き料にあたります。

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

立ち退き料の相場はいくら?

立ち退き料にも金額の根拠があります。居住用物件の場合は、立ち退き料は以下の費用に充てるものとして算出されます。

立ち退き料の内訳

◆移転経費(入居者が新しい家に移るための引っ越し代など)
◆新規契約金(移転先の礼金・保険料・仲介手数料など)
◆現在の家賃と移転先の家賃との差額(1~3年分)

敷金は原則として返還されるべきものであるため、立ち退き料には含まれません。

立ち退き料の相場・目安

以上をふまえ、立ち退き料は最低でも1戸当たりの家賃3~4カ月分、高いと10カ月分程度かかることがあります。一般的な立ち退き料の相場は、1戸当たりおおむね6カ月分といわれています。入居者がインターネットなどで調べて把握している目安も、半年程度であることがほとんどです。

立ち退き料が必要になる場合とその理由

立ち退きには交渉が必要で、その交渉の材料のひとつとして立ち退き料があります。立ち退きが必要な状況になるのは様々な理由がありますが、借主が転居して新しい生活を始めるにはお金が必要となるため、それに充てるものとして立ち退き料が支払われるのが通例です。

立ち退き料が必要な場合や、立ち退きの理由には次のようなものがあります。

管理者の都合による立ち退き

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

物件を賃貸オーナーが自分で使うことになった(自己使用)等の理由で立ち退きを求めるパターンです。この場合、入居者側の必要性が高いほど、裁判になったときに立ち退き料が高くなる可能性があります。

「入居者の必要性」とは、そこに住み続けなければいけない理由のことで、「長年その場所で地域に根差した商売を経営してきた」などの必要性が高いケースに当てはまります。入居者の必要性がかなり大きい場合は、いくら立ち退き料を高くしても立ち退いてもらえないこともあります。

入居者の必要性と立ち退き料の関係については、「立ち退き料の交渉」の項で詳しく解説します。

物件の建て替えに伴う立ち退き

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

立ち退き交渉の理由として比較的納得してもらいやすいのが、建物の老朽化により建て替えの必要がある場合です。

老朽化により倒壊の危険性が高いことや、それを示すデータなどがあれば、賃貸オーナーの正当事由として認められやすくなります。耐震診断などの評価を根拠とすると、説得力が増すでしょう。

土地の再開発による立ち退き

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

道路の拡張をする、再開発の区域に入っているなどの理由で賃貸物件の解体が必要になり、立ち退きを求めるケースです。この場合も通常、入居者への立ち退き料の支払いが必要になります。

公共事業による立ち退きは賃貸オーナーにとっても拒否が難しく、拒否をし続けると強制的に土地収用される可能性があります。

立ち退き料がいらないケース

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

ここまでは立ち退き料が必要なケースについてご紹介しましたが、立ち退き料がいらない場合もあります。次のようなケースです。

定期建物賃貸借契約になっているケース

定期建物賃貸借契約とは、通常の賃貸契約と違い、更新が無いことをあらかじめ決めた契約のことです。定めた期間が満了すると契約は終了することになるため、立ち退き料は必要ありません。

そのため、立ち退き等でもめたくないために、定期建物賃貸借契約での契約を通常にしている賃貸オーナーもいます。しかし、定期建物賃貸借契約にすることで空室期間ができてしまう、入居希望者が少なくなるというデメリットもあります。

また、定期建物賃貸借契約を有効にするためには、書面や借主への説明義務などに厳格な条件が定められています。それらを怠ったために、定期建物賃貸借契約を結んでいたのに立ち退き料を支払ったという事例も過去にはありました。

期限付きの賃貸借契約になっているケース

定期建物賃貸借契約と似ているのですが、賃貸借契約に期限が設けられている場合は、期限満了で契約終了となるため、立ち退き料は必要ありません。

例えば、賃貸借契約の締結時にすでに建物が取り壊し予定であり、建物を取り壊すときに賃貸借契約が終了する前提で結ばれた契約であること、などが考えられるケースです。

また、一時利用目的の賃貸借契約であれば借地借家法は適用されないため、立ち退き料は不要です。一時利用であることが契約書に明記され、客観的にも一時利用と認められる(短期間であったり、入居者が一時利用であったりすることを認識している)場合がそれに当てはまります。

利用するには重大な危険が建物にあるケース

「老朽化で建物を建て替えるから」だけでは、立ち退き料が必要になることがほとんどです。しかし、災害などで建物が危険な状態になったとき、使えなくなったときは賃貸借契約の終了事由に該当するため、立ち退き料は不要になります。

具体的には、地震による損壊や居住に危険なレベルでの耐震性能の劣化、水害による浸水などが該当します。ただ、いずれにしても、かなりレアケースといえるでしょう。

入居者が賃貸借契約に違反しているケース

賃貸借契約の禁止事項に違反している場合には、債務不履行で契約解除できるため、立ち退き料は不要になります。例えば家賃滞納や、ペット不可の物件でペットを飼っている、無断で他人に転貸しているなどが契約違反に当たります。

ただし無条件で契約解除できるわけではなく、信頼関係を損なうほど重大な違反であるかどうかを裁判所で判断されます。

立ち退き料の交渉の基本

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

立ち退き料には、法律によって定められた額というのはありません。また、立ち退きは交渉ですので、相場である6カ月分を払うと伝えても、入居者がNOと言えばそれ以上の金額になることもあり得ます。

話がこじれると裁判にまで発展するため、客観的で正当だと認められるような交渉材料を集める必要があります。以下のような点に注意しましょう。

正当事由があるかどうか確認

入居者の権利は、借地借家法で保護されています。賃貸オーナーは「正当事由」がなければ、更新を拒絶できません。「正当事由」とは、賃貸借契約を終了するもっともな理由のことをいいます。「借地借家法第28条」にある「正当の事由があると認められる場合」ですね。立ち退きの正当事由は、以下の5点を考慮して判断されます。

①建物の貸主及び借主が建物の使用を必要とする事情
②賃貸借に関するそれまでの経過
③建物の利用状況
④建物の現在の状況
⑤立ち退き料などの提供

正当事由と立ち退き料の関係

注意したいのは、正当事由があったとしても必ず立ち退いてもらえるわけではないということ。もし調停や裁判になったときは、「賃貸オーナーの事情」と「入居者がそこに住み続ける必要性」の比較で決まります。賃貸オーナーの必要性が高ければ立ち退き料が低くなり、必要性が同程度かそれ以下であれば高くなります。例えば以下のようなケースです。

CASE1

賃貸オーナーの必要性・・・物件の老朽化による建て替え(入居者にも危険が伴う)
入居者の必要性・・・・新しい居住先を見つけるのが大変(他の物件でも住める)

⇒このような場合は、賃貸オーナーの必要性が高いと判断されます。
そのため、立ち退き料も相場の金額で納まることが多いと思われます。

CASE2

賃貸オーナーの必要性・・・自分の子に店を持たせたい(自己使用)
入居者の必要性・・・・地域に根差した店舗を長年経営してきた(場所も重要)

⇒この場合は、入居者の必要性の方が高いと判断されることが多いでしょう。
立ち退き料も高額になるか、立ち退いてもらえないこともあり得ます。

もし強く拒絶された場合は、立ち退き料の交渉(値上げ)が目的のこともあるため、弁護士に依頼した方が話は早く進みます。

通知から建て替えまで。賃貸住宅での立ち退き交渉の流れ

【STEP1】1年~6カ月前|賃貸契約の解約通知

早めに着手して、余裕をもった行動を
契約期限の6カ月前までに書面で退去をお願いする通知を出す

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

解体時期などの具体的なスケジュールを決める前に、いつごろまでに立ち退きを完了するかを想定。賃貸オーナーから入居者に退去をお願いする旨を書面で渡します。

契約期間満了の6カ月前までに「契約更新拒絶」または「解約」の申し入れが必要です。できれば1年くらい前からアナウンスしておくとよいでしょう。

一方的に退去を言い渡すのではなく、入居者には移転をお願いするスタンスでのぞみましょう。通知書は直接賃貸オーナーが渡すのがベストですが、連絡がつかない場合は、通知の日付を確定する内容証明・配達証明付き文書で郵送します。

POINT!普通借家契約の場合、更新拒絶に壁あり。「正当事由」が必須

先述の通り、入居者は借地借家法で保護されています。大家さん側は「正当事由」がなければ、更新を拒絶できません。新規募集時に、更新がない定期借家契約にする対策も有効です。

POINT!入居者の心情にも配慮。「移転してもらう」姿勢が大事

入居者には移転をお願いするスタンスで臨みましょう。通知書は直接大家さんが渡すのがベストですが、連絡がつかない場合、通知の日付を確定する内容証明・配達証明付き文書で郵送します。

【STEP2】4カ月前|立ち退き交渉・合意

立ち退き条件を明確にし合意書・承諾書を取り交わす。
記録を残して交渉、合意書を作成。争いそうなら弁護士に早めに相談

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

契約更新の拒絶や解約の理由(老朽化による建て替えなど)、スケジュール、立ち退き料など、具体的な条件を示して入居者と話し合います。交渉記録を残し、お互いに納得したら、退去時期、補償の金額や支払い方法などを記載した「契約解除の合意書」「明渡承諾書」を作成。

8~9割の入居者は納得して退去してくれるのが一般的です。残る1~2割は抵抗する可能性も。トラブルになりそうな場合は、早めに弁護士などの専門家に相談するのが得策です。

POINT!交渉は大家さん自身で行うのが基本。弁護士以外の代理は違法

なお、賃貸オーナーの代理となれるのは弁護士(金額によっては司法書士)のみです。報酬を払って不動産会社に委託すると「非弁行為」として、弁護士法違反になるので注意しましょう。

POINT!合意書・承諾書を交わそう

合意書等には以下のような内容を記載します。●氏名、捺印 ●合意解約日 ●明渡日 ●立ち退き料 ●支払い方法 等

【STEP3】3カ月前|部屋の明け渡しまで

計画進捗のため部屋探しをサポート。
スムーズな明け渡しのために転居先紹介や敷金全額返還を

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

退去時期に合わせて行う部屋探しは、大家さんも積極的に協力しましょう。入居者自身で探すこともありますが、間に合わないと建て替え計画に影響が及ぶことも。賃貸オーナーも積極的に協力しましょう。

立ち退きに伴う入居者の部屋探しでは、付き合いのある管理会社や仲介会社に紹介して、物件を探してもらうと良いでしょう。高齢の入居者の場合は自分で転居先を見つけるのが難しいため、高齢者専門の仲介会社に依頼するのもいいですね。入居者が生活保護を受けている場合、行政とも連携して受け入れ先を探します。

退去後、取り壊す場合は原状回復の費用はかかりません。室内に傷や設備故障があっても敷金は全額返却することで、入居者にスムーズに退去してもらいやすくなります。

POINT!高齢者の部屋探しは専門会社へ。生活保護者は行政と連携

高齢入居者は自分で転居先を見つけるのが難しいため、高齢者専門の仲介会社などの活用もおすすめ。入居者が生活保護を受けている場合、行政と連携して受け入れ先を探しましょう。

裁判なら1~2年を覚悟。弁護士に相談して早期解決を

交渉が難航すると、裁判所に訴訟を起こすしかありません。解決までに1~2年かかる可能性があり、費用もかさみます。揉める前に弁護士に依頼すれば、多くの場合はスピーディーに解決することができます。

【STEP4】予定日|解体~建て替え

退去のめどが立ってから建て替えを!
交渉に必要な資金もスケジュールも余裕をもって取り組む

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

入居者の転居時期はバラバラです。最後の入居者が明け渡す日程のめどが立ってから、解体工事の日程調整など、建て替え計画の具体化に着手するようにしましょう。

事前に入居者の事情や状況を調べ、一人ひとりと向き合うことが大切です。先述したように立ち退き料には相場がありますが、むやみに節約しようとすると話がこじれて、かえって高くつきます。あらかじめ必要経費として見込んでおき、建て替えの資金計画を立てたほうが賢明です。余裕をもって取り組むようにしましょう。

スムーズな立ち退き交渉のために知っておきたいQ&A

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

Q1.立ち退き料は家賃の何カ月分といった目安はありますか?立ち退き料を決める際の考え方を詳しく教えてください。

A1.1戸当たり、だいたい家賃の6カ月分が相場です。居住用の場合、立ち退き料は移転費用などの補償という考え方です。

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

立ち退き料を決める根拠は、入居者が立ち退きから新しい住まいを見つけるための引っ越し費用や契約金(礼金や仲介手数料など)、現在の家賃と新居の家賃の差額分1~3年分とされています。それらを加味して、だいたい家賃の半年分が目安となります。

もし裁判になった場合は、土地価格の約2割に相当する「借家権価格」が考慮されることもあります。その際、賃貸オーナーの正当事由が認められないと、立ち退き料の金額に関わらず明け渡し自体が認められない場合もあり得ます。

Q2.立ち退き交渉に応じてもらいやすい物件と交渉が難しい物件の違いはありますか?

A2.老朽化で危険が伴う物件など、建て替えの必要性が高いほど交渉しやすくなります。

立ち退きの根拠として納得してもらいやすいのは、建物が老朽化して建て替えの必要性が高いケース。「それなら仕方がない」と受け入れてくれる入居者は多く、もし裁判になったとしても、賃貸オーナー側の正当事由のひとつとして認められやすくなります。

「正当事由と立ち退き料の関係」の項でも触れましたが、賃貸オーナー側の必要性が低ければ交渉は難しく、立ち退き料も高額となります。

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

耐震診断を受けて「大地震で倒壊する危険性が高い」と評価されたデータなどがあれば、より説得力が増します。万が一揉めて裁判になっても、大家さん側の正当事由の1つとして認められやすくなります。

難しいのは、入居者が高齢のケース。「長く住み続けて友人関係もあり、今さら転居はできない。探す気もない」「年金暮らしで、身体の具合も悪いし、動くのはおっくう」といった理由が少なくありません。

交渉のテーブルにもついてくれないと、いつまでも建て替えができないため、こうしたケースは交渉のプロである弁護士に依頼するのが近道。法的根拠、判例などを基に専門的な立場から説明してもらえば話が通じやすくなります。

高齢者以外で強く拒絶する場合、立ち退き料の交渉が目的の可能性があります。その場合、弁護士に依頼したほうが話は早いです。調停や裁判になったときは、「大家さんの事情」と「入居者がそこに住み続ける必要性」の比較で決まります。

オーナーの必要性が大きければ立ち退き料が低くなり、必要性が同程度であれば高くなります。入居者の必要性がかなり大きい場合は、いくら立ち退き料を積んでもダメなこともあります。

Q3.立ち退き料を支払わずに済むことはありますか?うまく交渉するコツは?

A3.入居者が賃貸借契約に違反していれば立ち退き料の支払いは不要です。普段から入居者の暮らしぶりを把握し、人間関係を築いておくと交渉がスムーズに。

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

「立ち退き料がいらないケース」の項で触れましたが、定期建物賃貸借契約や期限付き賃貸借契約など契約時から更新はしないと定めている場合、災害などで建物が住めない状態になってしまった場合、入居者が賃貸借契約に違反している場合には立ち退き料は不要です。

契約違反とは、例えば家賃滞納やペット可の物件でペットを飼っている、居住契約に反し商売に使っている、無断で他人に転貸しているなどが当たります。入居者が一定期間、賃貸オーナーに無断で不在にすることを禁じる「無断不在禁止特約」を付けた契約を結び、長期不在にしていた場合も該当します。

いずれにしても、普段から入居者の生活実態を把握し、信頼関係を築いておくことで交渉がスムーズに進みやすくなります。立ち退きによって相手が抱えるリスクや不安をより正確に把握できていれば、立ち退き料の提示金額や新居探しの協力が的を得たものになりやすいからです。

Q4.店舗や事務所など事業用の物件での立ち退きは居住用物件での立ち退きとどう違いますか?

A4.事業用物件は居住用よりも立ち退き料が高額で、長期間にわたるタフな交渉になりがちです。

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

事務所や店舗などでの立ち退きの場合、立ち退き料の算定に営業補償が加わるため高額になる傾向が強く、補償の対象は多岐にわたります。

例えば、休業期間の逸失利益、得意先喪失による減収、従業員の休業手当、固定的経費の支出、移転先の設備投資資金など、様々な費用が関係してきます。立ち退き料が1,000万円単位になることも覚悟しましょう。

特に、長年にわたってその場所で経営している店舗などでは、地域の固定客との関係性を築いているため、移転への抵抗感が強くなります。高齢の場合は「移転するなら商売を辞めるしかない」と言われるかもしれません。そうなると、通常の営業補償ではなく、営業権の買い取りを含む営業廃止補償、生活補償までかかわってきます。

そのため、店舗テナントがある場合は数年前から長期スパンで準備を始める必要があります。もし、これから店舗や事務所として賃貸借契約を結ぶ場合は、定期借家契約を結んでおきたいところです。

ちなみに、新しく建て替える場合は、建て替えた物件への入居を確約するなどで、交渉がスムーズに進むこともあります。

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

高齢の場合、「移転するなら商売を辞めるしかない」と言われるかもしれません。そうなると、通常の営業補償ではなく、営業権の買い取りを含む営業廃止補償、生活補償までかかわってきます。

移転先を探すのも大変です。居住用の場合には、生活するのが基本なので、今の状況と変わらない物件が用意できれば立ち退き交渉は成立しやすくなります。しかし、商売となると、同程度の売り上げが成り立つ立地は限られています。

1から顧客開拓をしなければならないハードルも高く感じます。もし合意できずに裁判になった場合は、結論が出るまでに1~2年以上かかってしまいます。立ち退き料の高さ、交渉期間の長さから、建て替え計画を断念しなければならない可能性もあります。

店舗テナントがある場合は、数年前から長期スパンで考えて準備を始める必要がありそうです。もし、これから店舗や事務所として賃貸借契約を結ぶ場合は、やはり定期借家契約を結んでおきたいところ。事前の準備がカギを握ります。

Q5.立ち退きにかかったお金は、経理上どのような扱いになりますか?

A5.確定申告で経費として計上できます。

賃貸オーナーが入居者に退去してもらうために支払う立ち退き料は、不動産所得の金額計算上、必要経費となります。立ち退きの交渉を依頼した弁護士費用も経費と認められるため、確定申告で経費計上しましょう。

賃貸の立ち退き交渉は段取り次第でトラブルを防げる

立ち退き料の相場はいくら?目安や立ち退きが必要な理由、交渉の流れを解説2

立ち退きは、きちんと段取りを踏んで早めに動くことで、話がこじれるリスクが少なくなります。立ち退き料の相場を想定して、あらかじめ資金計画を立てておきましょう。数年前から建て替え等を予測できていれば、その時点から新規の入居者募集は定期建物賃貸借契約にするなど、対策が立てやすいですね。

経費を節約しようと賃貸オーナーだけで取り組もうとすれば、かえって時間や費用、余計なストレスがかかる場合も多いもの。必要に応じて早めに専門家の力を借りるようにしましょう。

※この記事内のデータ、数値などに関して本記事は、2023年12月20日時点の情報をもとに制作しています。

取材・文/石垣 光子

ライタープロフィール
石垣 光子(いしがき・みつこ)
情報誌制作会社に10年勤務。学校、住宅、結婚分野の広告ディレクターを経てフリーランスに。ハウスメーカー、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、リノベーションやインテリアに関するコラム、商店街など街おこし関連のパンフレットの編集・執筆を手がけている。

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