大規模修繕はいつ実施すればいい?費用はどのくらい?アパート・賃貸マンション修繕の基本を解説
アパート、マンションの安全性や資産価値を維持するために必要な大規模修繕。「いつまでに修繕しないといけないの?費用はいくらくらいかかるの?」とお悩みのオーナーへ、どのくらいのサイクルで実施するべきか、コストの目安はいくらかをわかりやすく解説します。
賃貸住宅の家賃水準や入居率の維持につながる大規模修繕
大規模修繕とは、10年、20年という長期にわたって計画的に行う、主に建物外観の塗装・防水・補修工事のことです。
雨漏りなどの不具合が発生するたびに補修をするのではなく、不具合が発生する前に予防的に修繕をしておくことがポイントです。
「大規模修繕の必要性が理解できない」「工事を実施しなくても、入居率や家賃水準は特に変わらない」という大家さんも中にはいますが、それは大きな誤りです。
定期的に大規模修繕を実施していないと劣化が進み、競争力が低下するうえに、入居率や家賃も下落して、収益が悪化していきます。そうなれば修繕費を確保することができないため、さらに老朽化が進む、という悪循環に陥るおそれがあるのです(左図)。
これでは優良な資産として、次の世代に残すこともできません。また、建物の劣化で雨漏りなどが発生すると、急な出費にあわてたり、修繕費の負担が高くなったりしがちです。入居者の退去にもつながるので、そうなる前の保全をおすすめします。
賃貸オーナーが感じた効果、管理会社が考えるメリット
実際に大規模修繕を行ったオーナーは、高い入居率や家賃水準の維持につながったと実感しています。管理会社側も建物の長期的な性能維持ができ、入居者満足度の向上、入居期間の安定化、優良な入居者の確保につながると感じているという調査データもあります(上図)。
アパート・賃貸マンションの大規模修繕「周期」の目安
一般的な修繕サイクルとは?
では最初に一般的な修繕サイクルを紹介します。もともと、大規模修繕は分譲マンションから普及し始めました。分譲マンションの場合は、事業主(売主)のデベロッパーが、部位ごとの工事項目と修繕周期、費用などを盛り込んだ30年程度の「長期修繕計画」を立て、管理組合がその計画に基づいて大規模修繕工事を実施していくダンドリができあがっています。
分譲マンションは、上図のように、おおむね12年程度ごとに行う計画がスタンダード化しています。
賃貸住宅の場合は、木造、鉄骨造、プレハブ造、RC(鉄筋コンクリート)造など、建物の構造・工法が多様です。それによって修繕サイクルも異なりますが、一つの目安としては、5年、10年単位で繰り返されるものと考えていいでしょう。
RC造の高層マンションの場合は、給水ポンプや貯水層、エレベータなどの特別な共用設備があり、30年単位で更新時期を迎えるといわれます。
修繕周期の目安
周期 | 種別 |
5年目以下5年ごと | ベランダ・施設・廊下の鉄部塗装(10年ごとに防水処理)。給排水管の高圧洗浄 |
11~15年目
以下10年ごと |
外装・屋根の塗装・葺き替え、RC造陸屋根は防水処理。木造・プレハブは土台謀議処理。給水ポンプの交換 |
30年以上 | 給排水管・貯水槽・エレベーターの更新 |
アパート・賃貸マンションの大規模修繕「費用」の目安
次に、大規模修繕にかかるコストについて紹介しましょう。ここではシングル向け木造アパートと小ファミリータイプのマンションを例に、30年間の費用を示しました(下図参照)。
周期/種別 | 木造アパート
※1戸/1棟、1棟10戸を想定 |
RC造マンション
※1戸/1棟、1棟20戸を想定 |
5~10年目 | 4.1万円 | 5.9万円 |
40.7万円 | 118.8万円 | |
11~15年目 | 24.7万円 | 27.6万円 |
247.0万円 | 551.1万円 | |
16~20年目 | 15.1万円 | 20.2万円 |
150.7万円 | 405.0万円 | |
21~25年目 | 24.7万円 | 55.1万円 |
247.0万円 | 1101.1万円 | |
26~30年目 | 15.1万円 | 20.2万円 |
150.7万円 | 405.0万円 | |
合計 | 83.6万円 | 129.0万円 |
836万円 | 2581万円 |
足場をかけて屋根や外壁を塗り替える本格的な大規模修繕は、30年間で2回あります。
アパートでは1棟で約250万円。マンションは1回目が550万円超、2回目は屋上防水工事で金額が膨らむため倍の約1,100万円。30年間のトータルでは、アパートが1棟で800万円超、マンションが同2,500万円超という試算です。
ここまでは国や業界団体のガイドラインに示された試算です。現実には、このような理想的な周期で実施しているオーナーは少ないでしょう。
だいたい最初の10年は、建物を新築したハウスメーカーや建設会社が建築基準法に基づく10年保証を付けます(構造部分や外壁・屋根など雨水が侵入する恐れのある部分)。定期点検やアフターケアの範囲でお任せというケースが多いかもしれません。
アパート・賃貸マンションで劣化診断を行う必要性は?
問題は10年保証が過ぎて、最初の大規模修繕のタイミングを迎えたとき。築10年を超えると外観も汚れて競争力が落ち、空室が増え始める頃です。
「家賃値下げかリフォームか」で悩みながら、なるべく出費を抑えたいとズルズル先延ばしにしてしまう。その結果、15~20年経つまで何もしないケースも珍しくないでしょう。遅れれば遅れるほど、多くの工事項目が重なり、金額も膨らんでしまいます。
所有しているアパートやマンションが、本来やるべき修繕サイクルのどのポジションにいるのかを知るには、まず検査会社に劣化診断を依頼することです。
建物の客観的な症状を把握し、その状況を踏まえて今後、いつ何の工事が必要か、優先順位を付けた大まかな修繕スケジュールを作るところから始めましょう。10~20室以下の小規模な賃貸マンションやアパートなら、劣化診断の費用は6~10万円で済みます。
適切な時期に適切な修繕で、物件の価値を維持しよう
大規模修繕は費用がかかりますが、建物の維持には欠かせません。修繕を行わなかった場合、入居者の生活や安全性に支障をきたしたり、資産価値の低下につながったりします。
適切な時期に、適切な修繕を行い、長期安定経営を継続していくために、修繕にかかる費用はあらかじめ賃料収入から積み立てを行いましょう。また、信頼できる工事会社に依頼することも大切です。会社選びのポイントなどは、他の記事をぜひ参考にしてみてください。
文/木村 元紀
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