3名の識者が解説!高齢者・外国人をスムーズに受け入れるコツと対応のポイント

総人口が減少していくなかで、安定した経営を続けていくためには「高齢者」と「外国人」の受け入れは不可欠。入居者層の実態、リスクを減らしてスムーズに受け入れるためのコツ、入居前から退去までの対応のポイントを識者への取材をもとに解説します。

株式会社イチイ 代表取締役
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長
荻野 政男 氏

株式会社ハウスメイトマネジメント
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 委員
伊部 尚子 氏

株式会社LIFULL 「FRIENDLY DOOR」事業責任者
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 委員
龔 軼群(キョウ イグン)氏
単身高齢者と外国人は2050年「1000万人超」時代に

人口減少社会の中で、高齢者は人口・世帯ともに増加しており、とりわけ一人暮らしが著しく増加。しかも賃貸層が増えるといいます。
「今の中高年は、高齢者に比べて持ち家率が低く、未婚率が高いため、多くの人が “おひとり様”のまま賃貸住宅に住み続けています。10~20年後には、単身高齢者世帯がかなり増えることになるでしょう」(荻野氏)
現在、世帯主が65歳以上の世帯は、およそ3分の1が単身世帯のうち、2050年には2分の1近くに増加すると予測されます(上図参照)。さらに、戸建て持ち家は、建物の補修や庭の手入れに手間がかかり、昨今は犯罪への不安も高まっていることから、持ち家から賃貸へシフトする例も見られます。
日本人が減っていくのと反対に外国人は増加中です。中長期在留外国人は現在の約330万人から、2050年代には1000万人を超えるという推計も。
政府は「特定技能」ビザの外国人労働者について、2028年までの受け入れ枠を、2023年実績の4倍に当たる82万人に拡大すると閣議決定。深刻な人手不足の緩和のため、外国人労働者への依存度はますます高まります。
賃貸の〝介護施設化〞が進む。早めに対応をスタートすべし

「仮に高齢者の新規受け入れを避けても、当初30~40代だった既存入居者が住み続けて高齢化する例も増えています。
国は在宅医療・在宅訪問介護を促進する方針で、賃貸住宅が介護施設化していくと言われています。いずれ賃貸が “終のすみか”になるかもしれません。早めに高齢者の受け入れ準備を始めて、対応に慣れておくべきです。高齢者や外国人を断っているようでは、これからの賃貸経営は成り立たないと感じています」(伊部氏)
一方で、高齢者は居住期間が長く年金によって収入が安定している、外国人はコミュニティの口コミ・紹介で連続した入居につながり募集コストがかからない、といったメリットもあります。
今後必須となる層を先取りするつもりで取り組んで、知識やスキルを高めていけば、必ず今後に活かせるでしょう。
高齢者・外国人入居者の現場からの実像を知る
漠然としたマイナス・イメージから不安が膨らみ敬遠していないでしょうか。賃貸の現場で、どんな高齢者・外国人が、どのように動いているかを知ることから始めていきましょう。
高齢者へのイメージギャップとミスマッチの要因
高齢者や外国人が部屋を貸りにくいのは、物理的に足りないというよりも、オーナーの側がトラブルを恐れて敬遠するというミスマッチがあるから。
後半で解説するリスクがあるのは事実ですが、誤解にもとづく不安もあります。例えば、高齢者は滞納が心配という声。
「日管協(あんしん居住研究会)が独自に実施した調査によると、高齢者の滞納発生率は、若年層よりも低いことが判明しています」(荻野氏)
生活保護を受給している場合、代理納付制度を使えれば、さらに滞納リスクは低くなります。
孤独死になると、オーナーが遺体を片付ける必要があるという勘違いや事故物件の懸念も耳にします。
「遺体は所轄の警察が検視のために引き取ります。事故物件の範囲や告知期間についても、2021年の国交省のガイドラインで明確になりました。自然死や不慮の事故の場合は、早期発見すれば告知不要で、自殺・他殺の場合でも告知期間は3年という目安が出ています」(伊部氏)
高齢者・外国人ともに属性、部屋の探し方も多様
現在、どのような高齢者や外国人が入居を希望しているかも把握しておきたいところ。高齢者については「『地方の戸建てに住み、経済的には裕福であるものの、身体が弱くなった親を心配した子供が、近くに住むことを求めて呼び寄せるケース』が目立ちます」と荻野氏は話します。

自分から動く例としては、伴侶と死に別れて郊外から利便性の高い都心に移る積極派もいれば、収入が減って家賃を抑えるために同じ地域で住み替える人もいます。建て替えで立ち退きを迫られる生活保護の高齢者も少なくありません。そのため「仲介の現場では、以前はまれだった70代、80代の人が普通に探しにきています」と伊部氏。
ただ、賃貸市場全体から見ると、現在も高齢者の持ち家率は約80%と高く、民間賃貸住宅への入居率はそれほど高くありません。
「一方、持ち家率の低い40~50代が今後の主要ターゲットとなる可能性が高く、潜在的なニーズも多いでしょう」(荻野氏)
外国人の場合は、在留資格や滞在期間によって異なります。
「特定技能で地方に行く場合、企業や人材派遣会社を通じた契約が主体で、雇用する企業が寮・社宅を用意するのが一般的。来日して間もない留学生の場合は、SNSを駆使して情報交換したり、友人・知人の紹介・口コミが圧倒的に強いです。都心周辺のオフィスに勤めて、2~3年滞在している外国人は、日本人同様、不動産ポータルサイトで賃貸住宅を探しています」(龔氏)
現在の高齢者の持ち家率は高く、部屋を探すのは近居呼び寄せや利便性を高める等の目的がある積極住み替え、または立ち退き・家賃抑制でやむなく動く場合に大別されます。
後者は希望する家賃帯に加えて、行政との兼ね合いで居住エリアを変えたくない要望があるため、必然的に部屋探しの範囲が狭くなり難易度が高くなってしまいます。
外国人といっても在留資格は様々。留学生やオフィス勤めをしている場合には個人で賃貸住宅を探しますが、特定技能1号の場合には雇用する企業が寮や社宅として住まいを用意します。
前者の場合、始めは口コミや友人・知人の紹介ということもありますが、日本に数年滞在している外国人は不動産ポータルサイトを使った部屋探しも行います。
高齢者・外国人の受け入れにあたって注意すべきことは?

高齢者・外国人の受け入れ経験のある不動産仲介・管理会社も増え、ノウハウも蓄積。ありがちなトラブルも予測可能となり、リスク対策も打てるようになってきました。
高齢者の受け入れ|「解約」と「残置物」が最大のネック

高齢者でもっとも大きなリスクは、契約期間中に孤独死してしまった場合の「解約」と「残置物処理」が問題。賃貸借契約と残置物は相続されるため、勝手に解約や残置物の処理はできないからです。
「協力してくれる親族がいない場合は、まずは相続人を探す必要があります。ただ、発見できなかったり、連絡がついても相続放棄されてしまう場合もあります。結局、明け渡し訴訟に進み、一連の手続きに膨大な時間とコストがかかります。こんな事態を防ぐには、あらかじめ死後事務委任の手続きをとる方法があります」(伊部氏)
死後事務委任の方法を2つ紹介します。1つは、国交省が作った「残置物処理モデル契約条項」ガイドラインに沿った契約を行うこと。
2つめは、管理会社による利用が増えている「スムービングサービス」の活用があります。入居者が亡くなると、提携する弁護士から法的に有効な解約通知と残置物処理の書類を内容証明付きでオーナー・管理会社に出す仕組みです。家賃債務保証の契約に付帯していることが多くあります。
孤独死以前に、入居者の身体機能や認知機能の衰えにより、ゴミ屋敷化や近隣トラブルが起きるおそれもあります。
「見守りサービス等で心身の健康状態の変化を察知し、早めに該当する市町村の地域包括支援センターにつなぐことが大切。要介護認定を受けるとケアマネジャーがつくので、公的な見守りが増え、認知症の早期発見や孤独死リスクの軽減が可能となります」(伊部氏)
リスクになること ●死亡時や認知症などで契約解除の手続きが行えなくなること ●残置物を勝手に処理できない |
備えておくこと ●契約時に、各種契約や残置物処理の受任者を決めておく(家族、居住支援法人、管理会社など) |
外国人の受け入れ|契約ルールやマナーを事前に説明、納得を得る
外国人の場合は、入居中のトラブルが一番大変と言われます。

「ゴミ出しの問題、契約者以外の複数雑居、臭いや騒音などです。退去時にも、原状回復の追加費用が発生するケースなど『納得できない』と争いが起こることもあります。これは一概に外国人が悪いわけではありません」と話す龔氏。
「育ってきた環境や生活習慣が違うので、日本の生活マナーや契約ルールを知らないのは当たり前と考えて、契約前に、きちんと説明して理解してもらうことが大切です。
最近は、多言語対応の住まい方ガイドの動画や冊子、自動翻訳アプリを活用したり、外国籍のスタッフを採用するなど、外国人フレンドリーな不動産会社も増えています。言葉の壁が下がり、以前よりコミュニケーションも取りやすくなっているでしょう」
入居者が帰国してしまうリスクもありますが、その際は、前述した高齢者の孤独死で行う明け渡し訴訟と同様の対応になります。最近は、滞納リスク軽減のために家賃債務保証を付けるのが一般的で、訴訟費用もカバーしてくれます。
リスクになること ●敷金・礼金、原状回復など日本の賃貸借契約における独特の仕組みを知らない ●ゴミ、生活音など母国と生活ルールが違う |
備えておくこと ●契約時に、日本の賃貸住宅のルールや住まい方をしっかり説明・理解してもらい、書面に残す |
契約~退去の流れは?
契約~退去までの流れ|高齢者の場合

●解約と残置物処理で困らないように事前に死後事務委任を検討 ●安否確認/見守りサービス等を活用し、認知症の早期発見、孤独死を防止 ●行政、居住支援法人、地域包括支援センターとの連携を視野に |
-
契約時
●家賃債務保証会社の活用が基本
●緊急連絡先ほか入居者情報を把握
●解約と残置物処理を頼む
死後事務委任契約、孤独死保険でリスク対策 -
入居中
●認知症、孤独死の早期発見のため、安否確認・見守りサービス等を利用
●介護・福祉面を担う居住支援法人、地域包括支援センターと連携
●長期入居者の場合、契約更新に合わせて推定相続人や緊急連絡先となってくれる人の存否や最新情報を確認 -
契約終了(解約)
●身体機能や判断能力が衰えて施設に入る場合、介護福祉系の機関につなぐ
●死亡・認知症による契約終了の場合は、相続人または死後事務委任先による解約と残置物処理の手続きを行う
高齢者の受け入れで、どんなトラブルが起き、どう対策を打てばリスクを回避できるかはすでに想定できています。
そのため、入居中や契約終了時のトラブルを回避できるかどうかは、契約に先立つヒアリングや事前対策にかかっています。認知症や孤独死になった後の対処は難しいところ。
高齢者の介護・福祉まわりをすべて担う地域包括支援センター、住宅セーフティネット法に基づく居住支援法人など、自治体が指定する機関との連携も重要です。

提供:全宅連・居住支援協議会等
上の例は、一般の入居者に聞く基本情報に加えて、相続人、介護サービス関連、かかりつけ医など、より詳しい項目についてヒアリングできる書面。身の上話をするようなスタイルで尋ねれば、通常は面と向かって聞きにくかった情報も得られます。
契約~退去までの流れ|外国人の場合

●外国人対応に慣れた不動産会社、管理会社、保証会社に依頼する ●身分確認書類と緊急連絡先のチェックは基本。念入りに行う ●契約ルールや生活マナーを母国語で事前に説明して納得を得る |
-
契約時
●外国人対応が可能な不動産仲介・管理会社、家賃債務保証会社に依頼
●在留カード、学校や雇用先の証明書、緊急連絡先(母国の親族、日本人の友人など)を確認。滞在期間も重要
●契約前に、日本の賃貸契約ルール、手続き、生活マナーを母国語で説明
●契約時は、国交省が公開している14カ国語対応の入居申込書・重要事項説明書・契約書を活用 -
入居中
●多言語対応の生活サポート、24時間駆け付けサービスも有効
●トラブル時は、学校や企業の担当者を経由するとスムーズな解決に -
退去
●解約予告期間の確認や書面による通知、敷金精算方法の説明を念入りに
●原状回復義務を改めて説明し、入居前の記録と照合し納得してもらう
外国人受け入れの最大のポイントは、契約上のルール、生活マナーを事前にじっくり説明して理解してもらうこと。
多言語対応のガイドブックや動画など便利なツールも作成されていますが、これらを渡すだけでは、後で「説明されてない/理解できなかった」とクレームになるおそれもあります。
きちんと対面で伝え、納得したうえでサインを貰うことが重要です。オーナー自身もこうしたツールを備え、入居中に会話を楽しむスタンスで取り組みましょう。

出典:国土交通省「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」
住まいを探す外国人対応で活用できる多言語でまとめたガイドラインを国土交通省が公開中。入居時の手続き、生活マナー、解約時のルールなどを各国語で説明したページも。内容に納得して、決められたことを約束する旨を示す署名欄があります。
得意な会社をパートナーに。早めに受け入れ準備を
先述した通りに契約~退去までの手続きを実行してもリスクをゼロにはできません。
「トラブルは起きることを前提に、あらかじめ準備して事前の対策を打つことで最小限に抑えることはできる」と、今回取材した識者はみな口を揃えます。
高齢者への対応については、業界統一のルールやマニュアルは必ずしも確立されていません。国も、実情に合わせた住宅セーフティネット法の改正、死の告知に関するガイドライン、死後事務委任契約のモデル条項などを作成・公開するなど、受け入れやすい体制を整備しつつあります。
それでも、公的な制度、法律、現場の実務がマッチしない場面も少なくありません。見守りサービス1つとっても、様々なタイプがあり、どれを選ぶか、費用の負担はオーナーか入居者か、何歳から導入するか、どんな状態になったら採用するかなど、判断が分かれる面があります。

現状では入居者の状況に合わせて個別に対応する必要があるため、高齢者や外国人の受け入れが得意で実績やノウハウの豊富な不動産仲介・管理会社、家賃債務保証会社をパートナーに取り組むことが大切です。
こうした活動に先行して取り組むことで業績を上げている会社もいます。例えば、「1日数組の外国籍の来店者がいて、成約率が50%という千代田区の仲介会社や、大学の生協や企業の工場経由で留学生や外国人労働者を受け入れ、年間120人の成約を達成している地方の管理会社があります」(龔氏)。
また「外国人を雇用する企業側も、労働者の住環境整備を重視しているため、外国人対応が可能なオーナーや管理会社だとわかれば、優先的に入居してもらえるようになります」(荻野氏)
いずれにしても、高齢者や外国人の受け入れは、遅かれ早かれぶつかる問題です。
「一般の入居者とは違った対応は必要になります。最初は、保証会社の審査が通ればOK、親族の身元引受人がいれば受け入れるなど条件を決め、長く空室になっている部屋から取り組むなど、オーナーの経営判断でスタートを切ることが大切です」(伊部氏)
しっかりリスク回避の対策をして積極的に受け入れてみましょう。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2024年3月1日時点のものです。
取材・文/木村 元紀 イラスト/アサミナオ
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