農地活用で差別化!「畑付き物件」とは?ポイントやメリット・デメリットに迫る

郊外や地方で畑を所有しながら賃貸住宅経営を検討しているオーナー向けに、「畑付き物件」という選択肢があることをご存知でしょうか?家庭菜園やガーデニングを楽しむ方が増えてきた昨今、じわじわと浸透しつつある新しいジャンルで、多くの都市居住者からの注目を集めつつあります。今回はメリット・デメリットを含め、「畑付き物件」の魅力に迫ります。
「畑付き物件」の種類は大きく分けて2つ
畑付きの賃貸とは、入居者が家庭菜園を楽しめる畑が付属している物件のことです。大きくアパートタイプと一戸建てタイプの2種類に分けられます。
アパートタイプでは専用の畑が各住戸に付いていることが一般的。屋上菜園として物件の屋上に畑が作られているケースもあり、都心や郊外といった幅広いエリアで見られます。
特に「都心ならではの利便性はそのままに、緑に囲まれた環境で暮らしたい」というニーズを満たしてくれる他、比較的新しいトレンドでもあるため、築浅の物件が多いことも特徴。畑に関してはコンパクトなサイズの物件が多いようです。
一戸建てタイプは、一つの一戸建て賃貸に畑が付属しているケース。建物のある敷地自体にゆとりがあるので、畑以外に庭や駐車場を備えている物件が多く、地方でよく見られ、築古の物件が多いことも特徴です。地方でのんびりと暮らしたい方や、休日は都会を離れて本格的に畑作業を堪能したいという人の希望を満たしています。
法律で売買や賃借が規制されている「農地」

農地は国の食料生産事情の重要な部分を担っていることもあり、簡単には売買・賃借できないよう「農地法」という法律によって様々な規制を受けています。では、「畑付き物件」の場合には、どのような制約が発生するのでしょうか。畑付き物件の畑には2つのケースが考えられます。
1つは、農地ではなく宅地や雑種地として扱われる畑です。こちらは地目が農地ではないので、農地法の適用を受けることなく、オーナー側も入居者側も自由に賃借を行うことができます。
2つ目は、農地法の規制受ける農地としての畑。こちらはすでに「農業経営基盤強化促進法」の改正により、原則「農地バンク」を利用した貸し借りに一本化されました。これは公的機関がオーナーと入居者の中間に入って賃借を代行するため、賃料の回収や手続きの簡略化など、双方にとってメリットがあります。
「畑付き物件」を賃貸した場合のメリット・デメリット

メリット
「畑」や「田舎暮らし」というワードに魅力を感じる入居希望者にとって、自然が隣り合う「畑付き物件」は差別化のポイントになります。
さらに遊休農地を活用するような場合には固定資産税の減税対策や、環境の維持・保全(荒廃化防止など)といった面でメリットがあります。またオーナーと入居者の間に共通の話題ができることで、コミュニケーションの活発化、ひいては今後増加の一途をたどる「単身世帯者」への見守りの強化や社会的な孤立を防止する側面も期待できそうです。
デメリット
農地法の項で触れたとおり、やはり法律上の制約が多いという点がデメリットになります。農地は農業を行うための土地なので、宅地などに転用するには厳しい条件をクリアする必要があり、許可を得ることが難しい場合も多々あるようです。特に市街化調整区域内の農地は、原則として転用が認められないことがあります。
また、入居者に畑を貸したとしても農地自体の管理・責任はオーナーにあります。不法廃棄物の監視や季節による害虫の大量発生、悪臭など、維持管理には常に気を配り荒廃農地とならないよう注意が必要です。
「畑付き物件」を始める場合に行うことと相談先
畑付き物件での賃貸住宅経営を始めるにあたり、まずは該当する農地の地目を確認する必要があります。宅地や雑種地の場合はそのまま次の工程へ進めますが、農地だった場合は市町村ごとに指定された「農地バンク」へ申請しなければなりません。
「農地バンク」は、地域によっては「機構」「公社」などとも呼ばれており、各都道府県を担当する地方農政局が管轄しています。詳しい申請方法や要件については、農林水産省のホームページをご確認ください。
その後は家賃相場の調査や契約条件の設定などを行っていきますが、その際に重要なのが管理方法の選択です。委託するのか自主管理をするのか、特に農業は専門的な知識も必要になってきますから、自主管理の場合は自身の健康状態などを考慮しつつ、慎重に決めることが大切です。
さらに入居者募集などについて相談する先ですが、通常の賃貸物件とは入居者層も異なってきますので、この分野に強い管理会社を選択することが重要です。また。「空き家バンク」や「移住支援サイト」を利用することもおすすめです。
また農地が農地法の制限を受ける場合は、農業委員会への許可手続きの際に的確なアドバイスをしてくれるか、代理人として申請手続きをしてくれる管理会社を選ぶとスムーズに進められるでしょう。
まとめ

二地域居住の推進において「土地と地方の良いところを両方享受したい」という自然との関わりを求める層や、コロナを契機に増大したリモートワーク層にとって「畑付き物件」は魅力的なものだという事実が明らかになりました。
近年注目されている「畑付き物件」は、都市と田舎、住まいと農の融合によって、新たなライフスタイルを提案する試みと言えます。
また、高齢単身世帯の増加という現状に対しても、健康維持ややりがいを求めるニーズへの対応や、家庭菜園を通じた自立的生活や社会参加の機会を広げる可能性に期待ができます。地域社会のつながりが希薄化する中で、共同で行う農作業や収穫体験は住民同士のコミュニケーションを活性化し、結果的に孤立防止にも寄与します。
さらに、農業経営基盤強化促進法が改正されたことで、都市住民や事業者により、遊休農地などのリユースが進めやすくなりました。これにより、賃貸住宅と農地を組み合わせた開発が法的にも実現しやすい環境が整いつつあります。
社会的ニーズの高まりと法制度の後押しを背景に、今後有望な新規市場として成長することが期待されている「畑付き物件」。今後、選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。
※この記事内のデータ、数値などに関する情報は2025年9月16日時点のものです。
取材・文/御坂 真琴
ライタープロフィール
御坂 真琴(みさか・まこと)
情報誌制作会社に25年勤務。新築、土地活用、リフォームなど、住宅分野に関わるプリプレス工程の制作進行から誌面制作のディレクター・ライターを経てフリーランスに。ハウスメーカーから地場の工務店、リフォーム会社の実例取材・執筆のほか、販売促進ツールなどの制作を手がける。